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ミステリの祭典

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ボーパルバニー

作家 江波光則
出版日2015年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2016/11/14 13:11登録)
(ネタバレなし)
 警察幹部の息子である怜(21歳)は、5人の仲間=拳銃狂で殺戮衝動に憑かれた娘・燐華(19歳)、肉体の鍛錬を生きがいとする喧嘩好きの龍童(21歳)、デイトレーダーとして堅実な資金運用を狙う銘次(23歳)、激情家の暴力人間・玻瑠人(20歳)、強姦魔の来霧(20歳)と組んで、中国人マフィアの金庫番の家を襲撃。約三億の金を奪い、さらに自分たちの手は汚さずにその家の母親と娘を始末させた。怜は「銀行」として各自の分け前を一度預かり、希望者に随時おのおのの取り分を渡していたが、そんなある日、来霧が路上で首を斬られて惨殺され、さらに玻瑠人が何者かに拉致される。中国マフィアの報復かのごとく一同の周囲に跋扈する、超人的な運動能力の殺人者。それは黒いウサギ耳のヘッドドレスを付けた、赤い瞳のバニーガールだった。

 妙な作品がラノベで人気を呼んでる、かなり本格的なノワール系らしい、というので初めてこの作者の著作を読んでみたが、正にその通り。ビジュアル的、視覚的な設定としては馬鹿馬鹿しく見えるこの趣向を逆手に取り、しごく真っ当に血と狂気の世界を見せていく。その重く昏い筆致には最後までブレはなく、小説の筋立てもさながら文体そのもので読ませる一冊。いや、なかなか面白かった、凄かった。
 とはいえ気の抜けない文体ゆえ、物語上は加速的な場面(後半のバニーと龍童の対決シーンなど)がいささかまだるっこしく感じる部分もあるが、この辺はこちらの読み方が悪いのだろう。じっくりとその闘いの一刻一刻の叙述をもっとしっかり味わうべきなのだが。
 
 それで終盤、ある章に至って、これは…どっかで……、と既視感が頭をもたげる。そこで思い出すのは、ああ……伴野朗の冒険小説の諸作だな、と。「33時間」とか「K-ファイル38」とか「九頭の龍」とか(あるいは「ハリマオ」とか)のラストで、もうすでに真っ当ではなくなってしまった主人公たちが、それでも心のどっかで、もしかしたら自分はもっと健やかに平穏に生きられたかもしれないと、もうひとつの人生を仰ぎ見る、あの寂寞たる瞬間の切なさ。
 クレイジーで凄惨な中身ながら、この作品にはそういうものが直接の言葉でなく、描かれているような感慨がある。なんか泣ける。

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