home

ミステリの祭典

login
娘は娘
メアリ・ウェストマコット名義

作家 アガサ・クリスティー
出版日1973年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2016/11/08 20:44登録)
クリスティを子供でも文句なしに楽しめる、穏健で安全で上品な読み物だ...と、あなたがもし思っているのならそれは大間違いだ。本作は女性のSEXの心理的側面を扱ったウェストマコット作品である。クリスティっていうと後期は名探偵の出ない作品を中心に、へヴィな心理探究を目的とした作品があって(評者は皆さんの大好きな名探偵小説以上にそっちが好きだ)、ウェストマコット作品はそっちの延長線にあるだが、とくに本作は「クリスティの暗黒面」が噴出した作品である。
本作は人死にもないしミステリ的興味もかなり薄い。それまでは仲良くやっていた母娘が、母の再婚問題から互いに傷つけあうようになってしまう、どうしようもない世界を本作は描いている。母も娘も結構性格的な欠点の多いキャラだし、きっかけとなった母が再婚しようとした相手も、あまり読んでいて好感の持てる男でもない...娘の結婚相手に至っては最悪の部類だし。なので、本作は「春にして君を離れ」とは別タイプの鬱小説である。この最悪の婿のセリフではあるけど、クリスティこんなことを言ってるんだ。

君は本当いって、人生について何を知っているんだい、セアラ?何もわかっちゃいないじゃないか!ぼくはきみをいろいろな場所に連れて行くことができる。嫌らしい、汚らわしい場所、生そのものがはげしく暗く流れている場所。きみはそこで感じる―感覚でとらえるんだ―生きているということが暗い恍惚感となるまでね!

はたしてクリスティ自身このメフィストのセリフに心を動かさなかったと言えるのかな?

1レコード表示中です 書評