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ミステリの祭典

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壁の男

作家 貫井徳郎
出版日2016年10月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 人並由真
(2017/03/03 19:35登録)
(ネタバレなし)
 栃木県北東部にある高羅(こうら)町。「私」ことルポライターの鈴木は、そこにある奇妙な人物がいると知り、取材に赴く。彼の名は伊苅重吾。東京で大学生活と勤め人生活を送ったのち、故郷のこの町に帰省した彼は、依頼を受けた町の家々の壁に、絵を描き続けていた。技法的にも芸術的にも特に優れたわけでもない絵だが、それはすでに町の名物になっていた。鈴木は伊苅本人の、そして関係者への取材を重ね、その心に分け入るが…。

 伊苅の過去と内面を浮き彫りにしていく人間ドラマが語られ、それがどのようにミステリに転調するのかと期待していると……。うーん(汗)。
 ストレートに語ったらまっとうなヒューマンドラマになる(ただしそれ以上のものにはならない)話を、作劇のパーツを入れ替えることで相応にトリッキィかつ印象的なものにした感じというか。だから自分が読み終えて何を連想したかといえば、(たぶん大方の人は呆れるとは思うが)夢野久作の『瓶詰地獄』であった(苦笑)。

 狭義のミステリとしては完全にアウトだし、広義のそれならどうにか、という内容の作品。ただすみません。作者が何を言いたいかはわかるつもりだけど、私の心にはそれほど響かなかった(小出しに明かされる過去の事実が、悪い意味で定型すぎる)。いつか読み返してみたら、印象は変わりそうなところはあるけど。  

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