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ミステリの祭典

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青光の街(ブルーライト・タウン)

作家 柴田よしき
出版日2016年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2017/02/07 14:21登録)
(ネタバレなし)
 「私」こと、少女小説の分野でそれなりの実績のある女流作家・草壁ユナ。彼女は、自分の育ての親の編集者・高橋信三が出版社を退職後に創設した探偵事務所「ブルーライト探偵社」の代表をしばらく前から引き続いでいた。ユナは著作業との兼業で数人の社員を使い、探偵社の業績も順調だ。そんなある日、人気ネイリストの西条悦子から、婚約者の北川省吾を身上調査してほしいとの依頼がある。かたやその直後、ユナのもとに、大学時代の友人・中村秋子から、助けて、との短信メールがあった。一方、町では不審な殺人事件が続発。被害者の周囲には、それぞれ旧式な青い光(ブルーライト)の電飾が置かれていた…。

 ミステリマガジンに4年にわたって長期連載された紙幅1200枚の大長編を、書籍化の際に700枚に圧縮したそうである。連載作品を本にする際にミステリ作家が書き足して全体の分量が増える例はいくらでもあろうが、こういうケースはあまり聞かない。当然ながら本の帯でも<凝縮された面白さ>を売りにしている。
 なんか『まんが道』で満賀&才野コンビが驚いた<手塚作品『来るべき世界』の逸話(もともと1000ページの原型作品を300ページに圧縮した)>の21世紀国産ミステリ版みたいだな~と、興味津々で読み始める。

 ちなみに筆者は最近のミステリマガジンは定期購読してないし、そもそも連載作品を雑誌で読む習慣自体があまりないため、本作のオリジナル版についての知見は無かった(さすがにこのタイトルの作品が載っていることくらいは、知ってたが。)

 という訳で今回のレビュー(感想)は書籍版限定のものになるが、結論から言えばそれなり以上に面白い。
 あらすじに書いた三つの事件の流れはページを捲るごとに読み手の興味を刺激するし、その合間合間に語られる主人公・ユナのキャラクターの点描も悪くない。特に彼女の最初の夫・井筒恭平のエピソードなどは、ある種の苦みを伴って印象に残る。

 ただしミステリとしての完成度から言うとメインアイデアが先走った感じもあり、ある登場人物がまた別の登場人物の思惑通りに動かなかったら、どうするんだろ、この作品自体が破綻するのでは? という箇所が気になったりする。
 まあ得点的には、さすがに読み所の多い一冊ではあるんだけれど。 

 なお、ちょっとだけでも雑誌連載版との比較をしようと、書籍版の読了後に、すぐそばにあるHMMの2014年3月号を手に取ってみる。これが本作の連載第45回目(改めてスゴイな…)。それで同号の連載分の冒頭にある<これまでのあらすじ>を読むと、あー! まったく…というか、半分くらい話が違う!! 書籍版には出てこない登場人物や舞台、設定もわんさか。なんか2~4クールもののTVアニメの内容を、強引に全二冊ぽっきりのコミカライズにした際に生じる大幅な異同みたいな感じである。

 これは数年後に、上下二冊の文庫でこの雑誌版『青光の街』の方を出すのもアリだな、とも思う(まあ作者と版元の方には、すでに織り込み済みの出版予定かもしれんが)。

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