ほとんど無害 銀河ヒッチハイク・ガイドシリーズ |
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作家 | ダグラス・アダムス |
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出版日 | 2006年08月 |
平均点 | 3.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 3点 | Tetchy | |
(2016/10/16 00:28登録) 4作目の『さようなら、いままで魚をありがとう』で新展開を見せた本シリーズでは同作ではなおざりになっていたかつてのキャラクターが登場する。 しかし本書の主人公アーサー・デントは前作で知り合った恋人フェンチャーチと仲睦まじい生活を見せられるかと思いきや、いきなり彼女は超空間の事故で消失してしまい、失意のあまり、地球に似た惑星を追い求めて宇宙を彷徨っている。彼の傷心旅行の模様が語られる。 そんな彼に追い打ちを掛けるように今や亜空間通信放送局のキャスターとして宇宙中を飛び回っているトリリアンが現れ、彼との間の子供だと云って娘ランダムを置いていく。 途轍もないナンセンスギャグで始まったこのシリーズの結末はなんとも云いようのない虚無感に襲われるようになるとは誰が想像しただろうか?喜劇で始まったシリーズがかくも空しい悲劇に終わろうとは全く言葉が出ない。 前作並びに本書の解説に書かれているが、著者のアダムスは非常に自由奔放な性格で前作も当初予告した内容とは全く異なった恋愛SF物語になったとのこと。それも作者自身が執筆時に後の奥さんとなる相手と恋愛中だったことが色濃く物語に反映されたとのことで、本書の実に虚無的な物語もまた執筆中に会計士の横領と義父の死という不幸が重なったためにそれが作品に出てしまったようだ。このように自身の私生活が否応なく物語に影響を与えてしまう作家なのだ。そして本書は書かれるわけではない続編だったようで、それがゆえに逆に悲劇的な物語の決着の付け方をしてしまったようだ。 特に本書ではアーサーとトリリアンとの間の娘ランダムの存在が物語の方向性を一気に変えてしまったように思える。それまではトリシアのニュースキャスターとしての宇宙進出と他社に買収された『銀河ヒッチハイク・ガイド』の本社に仕返しをしようと企むフォード、そしていきなり最愛の恋人フェンチャーチを失ったアーサーの宇宙放浪記とそれぞれのキャラクターがいかにして落ち合うかというのが物語の妙味であったように思われたが、それがランダムの登場で一気に瓦解する。特にスペース・チャイルドで自身のアイデンティティを持ちえないランダムが好奇心を発揮して色んなものに興味を持ち、物事の善悪の区別なく行動してしまい、さらに癇癪を起す様は解説にも触れられていないが私生活が物語に素直に反映されるアダムスにとって自身の生活で同様の困難に見舞われたのではないだろうか。 訳者あとがきにも書かれているように片や「最高傑作」、片や「シリーズ最低最悪の作品」と本書の世評は賛否両論真っ二つに分かれたようだ。そして訳者自身は両方とも納得できるとしており、私も傑作とまではいかないまでも実に計算されて書かれているとは認めるものの、物語の結末に非常に納得のいかない思いが残っている。 特に前作で鮮烈な印象を残したアーサーの恋人フェンチャーチがたった1行で退場し、全く物語に出てこないのが非常に残念だ。前作が個人的には最も楽しかった作品だっただけにフェンチャーチ不在はなんとも心残りである。 アダムスはこの後の作品を書かずに急逝してしまうのだが、無念だったのかどうかは今となっては不明だ。オーエン・コルファーによる続編も書かれているが私としてはこれでこのシリーズは終わりにしたいと思う。アダムスによって生み出された作品はやはりアダムス自身で閉じられた物語が真の結末だと思うからだ。 しかしそれがなんとも寂しく感じるのが重ね重ね残念でならない。 |