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ミステリの祭典

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二日酔いのバラード
トレース

作家 ウォーレン・マーフィー
出版日1985年11月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 ROM大臣
(2022/07/25 14:04登録)
保険調査員トレースは、社長の頼みでニュージャージーに飛ぶ。療養所で死んだ男の保険金受取人の名義が、家族から療養所所長に変わっていた。家族が訴訟を起こしている。社長の友人もそこに入院しており、その家族が保険金について心配している。調査せよというのだ。
とにかく楽しい。トレースはアルコール中毒で、ニコチン中毒。女性に対する節操はゼロ。トレースの連発するジョークに思わず力が抜けることはあっても絶対に肩はこらない。アル中探偵の悲壮感はゼロで、同居人のチコとの関係や、自分自身の生活設計に関して時々落ち込むが、立ち直りは素晴らしく早い。仕事を嫌がる割には、聞き込みの才能があり、行動力もある。言動は反社会的、差別的、無秩序ながら、的確で風刺的ですらある。

No.1 6点 tider-tiger
(2017/02/01 19:39登録)
その男は保険金の受け取り人を自分が入所していた療養所の院長に変えていた。
「俺の友人もこの療養所に入所しているんだよな……」保険会社の社長を務める友人からトレースは事情を調べて来て欲しいと依頼される。
だが、その療養所はニュージャージーにある。行きたくないと駄々をこねるトレース。なぜならニュージャージーには別れた女房と子供たちがいるからだ。

ユーモアミステリーとか軽ハードボイルドとか言われるアル中調査員トレースシリーズの一作目。やや安定感に欠ける作品。トレースやチコのキャラが確立されていない。作者が書きながら人物像を探っているような気配が感じられる。二人の関係もどこか不安定な状態で始まっている。プロットもいきあたりばったりで、トレースが絶対に会いたくないと騒いでいた妻子――楽しみにしていたのに――も物語にほとんど絡んでは来ないので肩透かし。ミステリとしてもそれほど上出来とは思えない。素直過ぎる。
ユーモアはふんだんにあるが、そちこちに感傷性もあって、それが奇妙な読み心地を生んでいる。脇役の女性がよかった。ただ、このキャラは女性読者には「男にとって都合良すぎな女」と反発を買いそうではあるが。
「わたしたちお酒を止められるかしら」
トレースとの別れの際の言葉。なんてことないセリフなんだけど、文脈が、物語が、このセリフをとても印象深いものにした。こういう文脈型の名言(造語です)を大事に拾っていきたいと思う今日この頃。
好きか嫌いかでいえば好きな作品だが、高評価はしづらい。

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