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ミステリの祭典

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さようなら、いままで魚をありがとう
銀河ヒッチハイク・ガイドシリーズ

作家 ダグラス・アダムス
出版日2006年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2016/09/21 23:22登録)
シリーズ4作目の本書の舞台はなんと1作目の冒頭でヴォゴン人によって消滅させられた地球だ。約8年もの間宇宙を彷徨っていたアーサー・デントは周囲の人々に数ヶ月程度の休暇を取って久々に帰ってきた程度の歓待を受ける。

相も変わらず語られる内容は荒唐無稽のナンセンスギャグが横溢している。今回アーサーが恋に落ちる女性フェンチャーチも謎めいた女性であるが、それ以外にもいつも雨に追われているトラック運転手ロブ・マッケナに家の中が外で家の外が部屋になっている奇妙な家に住む真実を知る男ジョン・ワトソンと読者を軽く酩酊感に誘うストーリー運びは健在だが、フォード・プリーフェクトのエピソードが幕間に挟まれるものの、前3作に比べるとストーリーの起伏はむしろ穏やかで、アーサーの地球復活の謎を探るメインストーリーが主になっているために実にスムーズに進むように感じられた。これはそう感じるのは私だけでなく、解説によれば刊行当時の評価もそうだったらしい。SFを期待したファンには失望感を、批評家筋では好評だったとあり、私はやはり後者の側の人間のようだ。
これは今までが広大な宇宙を舞台に色んな星の色んな星人の奇妙な生態や習慣、そして環境がどんどん放り込まれていたのに対し、今回は地球を舞台にしていることもあるのかもしれないが、特徴的なのは他のメインキャラクターであるゼイフォードやトリシアたちが全く出てこないことだ。私は今までアダムスのストーリー展開の取り留めのなさに面食らい、煙に巻かれたような読後感にどうも相性の合わなさを覚えていたものだが、本書のようにはっきりとしたストーリー展開をされると逆に味気なさを感じる自分がいて正直驚いた。3作読むことで実はアダムスマジックにかかっていたのかもしれない。

この4作目は今までの作品の雰囲気とガラリと変わっている。今まではとにかく独特な価値観で本能の赴くまま行動するゼイフォードとフォードに振り回されるアーサー、そして鬱病ロボットマーヴィンと世渡り上手のトリリアンらが織りなすドタバタ喜劇だったが、本書ではアーサーと新ヒロイン、フェンチャーチ2人の出逢いと冒険がメインとなっており、今までの登場人物で登場するのはフォードと最後にマーヴィンが出てくるだけである。
つまりこの地球が復活した本書は新たなシリーズの幕開けという位置づけとなるのではないか。『銀河ヒッチハイク・ガイド』第2章とでも云おうか(と思っていたらやはり解説にも作者が3作まででシリーズ完結と云っていたと書かれていた)。

毎度毎度先の読めないナンセンスSFギャグオデッセイ。次は図らずも作者の急逝で最終巻となった物語。決着がつくわけではないだろうが、新たな幸せを得たアーサーとフェンチャーチの2人にどんな冒険が待っているのか、正直不安である。

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