J・G・リーダー氏の心 |
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作家 | エドガー・ウォーレス |
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出版日 | 2016年09月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | |
(2016/10/12 10:32登録) (ネタバレなし) 一編一編が長くも短くもない紙幅で、その意味でも読みやすかった。ホームズからキャンピオンなどに続く、推理ものと事件屋稼業としての市中の冒険ものを折衷させた系譜。これを読むと瀬戸川猛資氏が書いていた、英国ミステリの精神的な背骨に冒険小説が伏在するという主旨の論説が改めて納得できる。 本書収録の全8本の連作短編は、いずれもそういう傾向の<ホームズのライバルもの>としては60~80点くらいの出来だが、中では切れのいい第3話(今となっては見たようなパターンでもあるけど)が上位。 ちなみに主人公のリーダー氏、2010年代の現在なら50代前半なんてそうトシでもないけれど、90年前の英国ではそれ相当の年輩だったなんだろうな。 天性の資質と犯罪者に対峙してきた経験から自己流のスタイルで捜査にあたるリーダー氏の叙述はなかなか地味にかっこよく、そんな彼と20代のメインヒロイン、マーガレットとの年の差ロマンスも、白黒の文芸メロドラマ映画を観るようでいい。 ああ、解説は最後に余計なことをドヤ顔で書いてるみたいなので、もちろん読まなかった(笑)。 |
No.1 | 8点 | mini | |
(2016/09/21 09:57登録) 先月末~今月初に配本の論創の最新刊2冊はやはり予想通り登録されなかったね、これも私が登録したしね(笑)、もう1冊は珍しいジュヴナイル分野だしね でも次回の配本はP・マクだからね、きっとその手の作家だと速攻で登録になるのでしょう(確実な予想~笑) 日本の翻訳ミステリーの歴史は黄金時代に極端に偏っていて、抜けている時代と言うとまぁ2つあるな 1つは戦後の40~50年代、ただし本格なら結構訳されているんだけど、非本格分野が多数まだ埋もれたままだ、本格はもういいから非本格にも目を向けて欲しい もう1つの時代が1910年代から20年代前半にかけて、第1次世界大戦を挟んで黄金時代の幕開け直前までの時代だ この時代はホームズの影響がまだ有った時代でホームズのライヴァルたちの時代でもあるが、割とその分野に関しては翻訳に恵まれている方だと思う(まだ取り残されてる作家も多いんだけどね) しかし無視されたままで全貌が未知な分野が存在する、それは大衆向けスリラー小説の分野である この時代のスリラー小説はかなり流行していて、例えば1920年にデビューしたクリスティの最初期にはその影響が明らかに見て取れる(もちろん処女作とか一部のポアロものは別、ノンシリーズや他の主役の場合ね) 日本の翻訳ミステリーの歴史はあまりにも本格派偏重で、例え当時には大きな潮流だった分野でも、本格じゃないという理由で蔑ろにされてきた経緯が有る 要するにスリラー小説とは本格派より格の低いもの読むに値しないものみたいに蔑視されてきたと思う しかし当時流行していたという歴史は無視出来ないわけで、ミステリー史の流れを客観的に俯瞰する場合、流行したものは少なくとも翻訳の俎上に載せるべきで、ジャンルによる不公平えこひいきは有ってはならないはずである さてそこでこの時代のスリラー小説分野を代表する作家と言えば、やはりフィリップス・オップンハイム、J・S・フレッチャー、そしてエドガー・ウォーレスの3名であろう(もちろん他にも沢山居るが) 残ったオップンハイムを何とかして欲しいね、論創社さん でもやはり論創社は偉いよ、約半世紀ぶりにフレッチャーの翻訳出したり、ウォーレスもこれで3冊も出してくれている 古典に強い創元だってこの分野は全く無視に近いもんな、まぁ文庫では採算の問題が有るのかも知れぬが 解説にもあるが(と言うか解説があのE・クイーン評論家の飯城勇三氏なのが驚き)、ウォーレスには長編だと他にも有るかもしれないが、短編集ならこの『J・G・リーダー氏』を代表作と見なして間違いない、”クイーンの定員”にも選ばれてるし(そうかここで飯城勇三氏との関連が) で飯城氏も解説で指摘しているが、この短編集は分類すればスリラー小説ではなくて本格派である、一応謎が存在しそれを解くわけだからね まぁ時代性も有ってプロット展開が独特なのだけれど、でもJ・G・リーダー氏の役割はどう見てもはっきり探偵役である しかも悪人の心を持ち、だからこそ犯人の考えが読み取れる(つまりReader)というユニークさ この辺は飯城氏の解説に詳しい、いやそれだけじゃなくて飯城氏の解説は丁寧で力入ってますよ スリラー小説分野のライヴァル、J・S・フレッチャーと比較するとですねえ フレッチャーの場合はその圧倒的なリーダビリティでまさに王道のスリラー作家と言えるのだが、ウォーレスの文章やプロットはちょっと癖が有って必ずしも読み易くはない その反面ウォーレスは本格色が強くスリラー小説と本格派の中間な感じだ この『J・G・リーダー氏』でも基本は本格派で、悪党との駆け引きコンゲーム風な独特のプロット展開などにスリラー作家としての片鱗も見られるという感じだ スリラー小説も平気で読むファンにも本格派しか読まない視野の狭い読者にも、その両者にお薦め出来る逸品である |