横浜1963 |
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作家 | 伊東潤 |
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出版日 | 2016年06月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | |
(2016/09/01 12:22登録) (ネタバレなし) 昭和38年の横浜。横浜港で若い女の死体が見つかる。その状況から犯人は横須賀や厚木などの基地に属する米兵と目され、事件は神奈川県外事課の担当となった。娼婦だった日本人の母と米国人とのハーフで、完全な日本国籍ながら外見はまったく白人の美青年にしか見えない若手刑事・ソニー沢田。ソニーは連続殺人事件に発展した凶悪犯罪を追うが、やがて在留米軍を配慮する上層部の壁にぶつかる。そんななか、ようやくある米兵を容疑者として割り出したソニーは横須賀基地に乗り込んで情報を求めるが、そこで彼は、容姿は完全な日本人の日系三世である犯罪捜査官(SP)のショーン坂口に対面した。証拠の希薄さを理由に当初は協力に消極的だったショーン。だがソニーの熱意は、そしてショーン自身の内なる良心は、ショーンを連続殺人の捜査に駆り立てていく。 時代小説分野で長年活躍する作家の初めてのミステリ。筆者は同分野の素養は薄いため著者の作品を読むのはこれが初めてだが、読み物としてはそれなり以上に楽しめた。 とはいえAmazonのレビューでも指摘されているように時代考証が存外に大雑把だったり(高度成長時代の情報は随所に点描されるが、全体の世界観はむしろ昭和20年代後半の雰囲気)、ミラーイメージの主人公コンビを対照させながら日本とアメリカの相関を語る大設定が図式的だったり、またミステリのミスディレクションがシンプル過ぎたり…などの弱点はたしかに否めない。 あとAmazonの書評に加えるなら、あの歴史的な大事件をエピローグのタイミングに持ってくる作劇もそれは王道ながらもうさすがに古いだろ。渥美清の隠れた秀作主演映画『僕はボディーガード』(1964年)のラストから延々と使われている。 とまれあんまり神経質にならないで、アメリカの属国になったニッポンという舞台装置を活かしたちょっとだけ個性派の警察小説&昭和時代劇、一級半のエンターテインメントとして一読するならそんなに悪くはない。先にその設定が図式的と書いたが、ソニーも、中盤からもう一人の主役となるショーンも、それぞれ読み物小説の主人公としては十分に好感が持てる。終盤に独特の個性を見せる真犯人のキャラクターも、そういうものを著者がしっかり描きたいことはわかるし。 物語の流れからこの設定そのままの続編は難しいかもしれないだろうけど、ソニーにはまたいつか会ってみたい。 |