隅田川殺人事件 浅見光彦 |
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作家 | 内田康夫 |
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出版日 | 1989年05月 |
平均点 | 2.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 2点 | おっさん | |
(2016/08/11 16:26登録) 親族と共に披露宴会場へ向かう途中の花嫁が、隅田川を渡る水上バスから、神隠しにあったように姿を消してしまう。 やがて、隅田川とは「水つづき」である築地の掘割で、新婦を思わせる年恰好の、女の他殺体が見つかる。新郎の知人として披露宴に出席していた、母・雪江の依頼で、ルポライターの浅見光彦が、珍しく東京を舞台とする事件の調査に乗り出すことになるが、その行く手に待ち構えていたのは、浅見光彦史上、最大の危機だった!! 内田康夫のちょうど五十番目の著作で、平成元年(1989年)にトクマ・ノベルズから初刊が出た、浅見光彦シリーズとしては二十七作目の長編です。 本サイトの、西村京太郎作品のレヴューで前回ご紹介した、コンビニ売り「トクマ・ノベルズ大活字マガジン」の、第2号(平成28年2月6日号)に再録されているのを見つけ、性懲りもなく求めましたw 巻頭のグラビア記事に、作品の舞台となった隅田川周辺の写真が配されているので、読書に疲れたら――五十歳の大台を超えてから、目の老化を意識すること切です。嗚呼!――そちらを覗いて、春の桜や、夏の夜空の花火でリクライゼーションできるのも良いな、というのが購入動機になっている、というのはナイショですww じつのところを言うと、巻末の、内田康夫著作リスト(内田康夫財団編)が目当てでしたwww この作者は、昔『天河伝説殺人事件』とか、初期の作をアトランダムに幾つか読んで、良い意味でも悪い意味でも「自由だなあ」と痛感し―― “どこへ向かって歩いているかわからない人ほど遠くへ行ける” という、ナポレオンの言葉を思い浮かべたりして――、羨ましいやら呆れるやら。気になる存在ではありながら、でも、ミステリ・マニアのはしくれとしては、ちょっと認めるわけにはいかない感がまさり距離をおいてしまった、筆者にとっては、なかなか微妙な存在です。 その、ストーリーテラーならではのフリーダムさは、我が(?)栗本薫にも通じるものがありますが、栗本薫の場合は、それでも謎解きミステリを書くとなれば、ポオ以降の伝統や型は意識していました。内田康夫になると、そのへんの、よってたつ土台が無いので、変化に富んだお話を滑らかに物語る反面、駄目なときは、ミステリ作法の基本のキすら出来ていない、“型なし”の弱点を露呈してしまいます。 ひさびさに読んだこの『隅田川殺人事件』は、そんな、駄目なときの内田康夫でした (T_T) 謎の設定、展開、解決、どれも論外です。 常識的に考えて、水上バスを降りるまで、いっしょに乗った親族が、“主役”の花嫁がいなくなったことに気づかないという状況は、まずあり得ません。一歩譲って、たまたま隅田川周辺で何かのイベントがあって船上は人でごったがえしていた、とでもいう設定が出来ていれば、まだしもですが。 そして、ともかくこの導入部であれば、花嫁に何か秘密があって、彼女が自分の意志で――何らかのトリックを使って――姿を消した、というふうに展開させるのが、まあ定石でしょう。じっさいに作者は、途中まで、そういう流れで筆を進めています。娘が行方不明だというのに、なぜ家族は捜索願いを出さないのか? という謎(最終的に、有耶無耶にされます)も、背後の秘密を匂わせる、布石だったはずです。 ところが、作者に霊感がわいたかして、目先の意外性を優先しストーリーにツイストを加えてしまったため……全体の整合性が滅茶苦茶になってしまいました。 最終的に浅見の口から語られる、大味な消失トリックの説明(おそらく、だろうな、かもしれない――が連呼されます)は、お話の中盤、他ならぬ浅見自身が否定してみせた要素を、まったくクリアしていません。 そして訪れる、衝撃のラスト! 良くも悪くも、「自由だなあ」です。隅田川というモチーフを、最大限にいかしてはいます。しかし、犯人の現行犯逮捕が失敗に終わった以上、浅見の告発を裏付けるモノは――何もないのでは? 釈然としないことがありすぎて、読了後、念のため、もういっぺん、最初から読みなおしてしまいました (^_^;) ミステリとして論外、という結論は変わりません。 しかし、不満たらたらで再読しながらも、場面場面のエピソードには、初回同様、結構、惹きこまれている自分がいたのは、悔しい。 知に訴えかける要素では、この小説は、はっきりいってシロウト以下の出来ですが、情に訴えかける要素では、やはり、さすがプロということでしょう。読者を楽しませる努力を惜しんでいません。その「読者」に、どうやらミステリ・マニアは含まれていないらしいにせよ、です。 ジャンルの登録は、隅田川を渡る水上バスが“現場”になったということで、なかば強引に「トラベル・ミステリ」とさせてもらいました。さすがに、これを「本格」とする気にだけは、なれなかったので…… |