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ミステリの祭典

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麻薬運河

作家 アリステア・マクリーン
出版日1970年01月
平均点3.00点
書評数1人

No.1 3点 Tetchy
(2016/07/27 23:11登録)
イギリスに流入する麻薬ルート殲滅のために国際刑事警察シャーマンがその源であるオランダはアムステルダムに潜入して捜査を行うというのがあらすじだ。
知っての通り、オランダはドラッグの使用が合法化されている。誤解をしないように説明するとあくまでそれはハシシやマリファナといったソフトドラッグに限られたことであり、ヘロイン、コカイン、モルヒネ、LSDといったハードドラッグについては規制がされている。現在の法律の基礎となったオランダアヘン法の改正がなされたのは1976年。本書が発表されたのは1969年とあるから合法化以前の物語である。

しかしながら相変わらずマクリーンの文体は読みにくい。いきなり主人公シャーマンの長々とした不平不満の独白から展開する物語は、またもいきなり主人公が渦中に投げ込まれ、逃走劇から始まる。彼の素性が解るのは導入部のチャプター1の終わり、20ページの辺りからだ。それまでは何の情報もなく、ストーリーが流れる。これはアクション映画としての常套手段であり、実に映画的な作りであると云えよう。
さらにその後も場面展開が目くるめくように切り換わるがその内容も説明的でありながら光景を思い浮かべるのが困難で、やはりマクリーンは文章はあまり上手くなかったのではと結論せざるを得なくなった。

そしてやたらと美女が出てくるのは映画化を意識してのことだろうか。まず主人公シャーマンの部下マギーとべリンダはそれぞれ黒髪と金髪の美人捜査官。そしてシャーマンの相棒だったジミー・デュクロの恋人アストリッド・ルメイもまたオランダ人とギリシャ人の混血美人。麻薬中毒者のファン・ゲルダーの娘トルディもまた人形のような美人。さらに教会の尼さんは美人揃いとどれだけファンサービスに努めるのかと思うばかり。

先に読んだウィンズロウの『ザ・カルテル』は作者の麻薬社会に対する怒りの情念のようなものが文章から溢れんばかりだったが、マクリーンのこの作品は映画化を意識したかのようなスリルとサスペンスとアクションを盛り込んだエンタテインメントに徹している。しかしサプライズを意識するあまり、読者は暗中模索の中で物語を読み進める。毎度のことながらこれが非常に気持ち悪くてなかなか没入できなかったのだが。

作品を量産する手法に気付いたベストセラー作家の作りの粗さに気付かされた作品だ。私が好んで読んだマクリーンはここにはなかった。なんとも哀しいことだ。

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