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ミステリの祭典

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樹液少女

作家 彩藤アザミ
出版日2016年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2016/07/10 02:26登録)
(ネタバレなし)
 幼少時に生き別れた妹・蓮華(れんか)の消息についての情報を得た25歳の消防士・森本。彼は、妹が今もそこにいるかもしれない、藍ヶ岳にあるビスクドールと陶芸の鬼才・架神千夜の山荘に向かったが、吹雪のために遭難しかけた。そんな森本は山荘の住人である美少女・碧(あおい)に救われるが、雪に閉ざされた山荘で彼を待っていたのは奇怪な殺人劇であった。

 クローズドサークルものに暗号の謎の要素を加えた犯人捜しのパズラー。森本の妹の行方と、女流芸術家・千夜の奇妙な言動の方も謎となり、それなりの求心力はある。また中盤の殺人において死体がある状態で発見されるが、そこで浮上する謎<山荘にある陶芸用の高熱窯なら死体の焼却もきわめて簡易に行えるのに、なぜ犯人はそれをしなかったのか?>もなかなか面白い。
 
 とはいえ最後まで読み終えると随所に才気を覗わせながらも、謎解きミステリとしては全体的に踏み込み不足、あるいは中途半端な部分も感じさせ、その辺の長所と短所はデビュー編である前作『サナキの森』といっしょ。特に暗号の底の浅さや、一番ショッキングな部分が予想の範疇というのはどうも……。

 ただ今回の方が、ミステリというジャンルそのものへの食らい付きは上達している印象もある。具体的には、五日目~後日談の、物語の流れの上でのひっくり返しなど悪くない。下手な作家なら最後の最後まで<そのネタ>で引っ張ってドヤ顔しちゃいそうだし(ただしその一方、それはそれで新たな説明不足な箇所を生じさせてしまったような気もするが…)。

 まだ生硬な感じは抜けないが、もう数冊書いていくうちにやがて一皮むけるのではないか、そんな可能性を感じさせる新鋭だとは思う。

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