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ミステリの祭典

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残照 アリスの国の墓誌
オールスターもの

作家 辻真先
出版日2016年05月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2016/06/22 02:11登録)
(ネタバレなし)
 無数の文筆家や映像作家、漫画家、編集者そのほかが集まり、時には不可解な殺人の謎について推理をめぐらした新宿のバー「蟻巣」。その閉店の日、店の主人と常連客たちは、ある話題に興じる。それはかつてその店の常連で今は他界した漫画家・那珂一平の半生に時をおいて生じた、2つの怪異な殺人事件に関するものだった。

 作者の代表作の一つとなった『アリスの国の殺人』に始まるバー・蟻巣を舞台とする路線の最終作で、同時に作者のほかの路線のシリーズキャラクターが参集してくる半ばオールスターもの。高齢で今年84歳になる作者は、これまで自分が読み手として遭遇した物語の多くが未完に終わったのを悼み、本書をもって、一つのミステリの世界観を自分の生前に決着させたという。

 劇中で語られるのは、終戦直後に起きた<旧家の二階の部屋で、老婆がいきなり大きな墓石に圧殺される怪事件>と、それから約二十年後に起きた<密室の中での奇妙な無理心中事件>の2つ。ケレン味豊かでトリッキィな不可能犯罪としては前者の方が興味深いが、真相の大枠(特に墓石のメイントリック)はすぐ読めてしまう。その意味では、二段構えでホワイダニットの謎を秘めた後者の事件の方が面白いだろう。

 ちなみに本書の別の部分の妙味は、老境に入った劇中人物たちが回想する昭和の漫画やアニメについての見識で、このへんは作者が書き残しておきたいという積極的な熱意が感じられて胸を打たれた。特に後半で言及される藤子・F・不二雄の某SF短編については、世評の高さの割に個人的には昔から今ひとつ、同じシリーズの中にもっといい短編はいっぱいあるよ、と思っていたが、実際に戦中派だった作者の解題(劇中人物の口を借りて語られる)を聞いて、改めて感じるものも多かった。まちがいなく辻先生は人生の最後まで、理不尽な現実の戦争への憎しみと嫌悪を忘れないだろう。

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