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ミステリの祭典

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極悪人の肖像

作家 イーデン・フィルポッツ
出版日2016年03月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2016/06/08 15:30登録)
(ネタバレなし)
 20世紀の初頭。テンプル=フォーチュン準男爵家の三男で開業医のアーウィンは、周囲の者の人生を破滅させる完全犯罪にひそかな関心を抱いていた。欲得ではなく、純粋に悪意に特化したそのひそやかな念は、長兄ハリーと次兄ニコルに向けられるが、周到な計画のなかで思わぬ事態が発生して…。

 2016年の新刊で、乱歩が生前から「倒叙探偵小説」として本邦にも紹介していた旧作(1938年)の待望の翻訳。内容はフィルポッツが76歳の時に著したノンシリーズもののクライムストーリー。
 1938年といえば、すでにアメリカではエラリイやドルリイレーン、サム・スペードが誕生し、そしてマーロウのデビュー一年前で、完全に近代ミステリの土壌は確立されていた時期だが、内容(というか設定や大筋)は19世紀の悪徳ロマン小説といってもいいんじゃないかと思えるくらい古風なもの。
 ただそれがつまらないかというと、そんなことはない。
 歪んだ超人思想(今でいうなら中二病一歩手前の面もあるが)を述懐しながら一人称で語られる主人公アーウィンの犯罪計画は適度な起伏感と絶妙な臨場感に富み、意外に先の展開を読ませない作者のストーリーテリングぶりもあって十分に楽しめた。
 さすがその辺はクリスティーのお師匠筋ともいえる巨匠である。
 クラシック作家としてのフィルポッツには、トリックの創意や意外性とか論理や伏線の妙味などそれほど期待しないが、その上でこれまで出会ったどの作品も十分に楽しませてもらってきた印象がある。未訳の作品も一応の選定をした上で、もっともっと紹介してほしいものだ。
(まずは『密室の守銭奴』が楽しみだが。)

 なお巻末の真田氏の解説は今回もとても素晴らしい。翻訳もとても流麗でリーダビリティも格別だが、一カ所だけ68ページで名前の表記に間違いがあるような…。ニコラじゃなく、ニコルだよね?

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