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ミステリの祭典

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追いつめられた男
チャーリー・マフィンシリーズ

作家 ブライアン・フリーマントル
出版日1986年05月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 Tetchy
(2016/06/08 00:07登録)
チャーリー・マフィンシリーズ5作目の本書は前作『罠にかけられた男』同様、チャーリーは保険会社の調査員という役職でローマに赴くことになる。
そしてとうとうチャーリーは英国情報部の手に堕ちてしまう。彼が組織に大打撃を与えて3作目で、作中時間では7年目のことだった。

また本書ではチャーリーが英国情報部の工作員になるまでの経歴が紹介されている。まずチャーリーの最初の職業が百貨店の社員であったことが意外だった。その時代に妻イーディスと結婚し、その後情報部の試験を受け、そこで才能が開花したのだった。またチャーリーの悩みの種であり、また彼に危機を知らせるシグナルの役目をする不格好な横に平たい足は軍隊時代に重い長靴で長時間歩き回された結果だったことも判明する。
ここに彼の行動原理の源流があると私は思う。つまり彼の足はいわゆるマチズモ色濃い上下関係に対する反発の象徴なのだ。だからこそチャーリーは他の工作員とは違い、自らを犠牲にして国に使えるのではなく、自らが生き残るために国さえも犠牲にするのだ。

KGBの描いた複雑な構図を見事に看破したのがチャーリー。彼の見事な記憶力でKGBがでっち上げた偽造工作を崩壊させたのだった。その根拠が前作でのある出来事というのがシリーズ読者を刺激する。逆に云えば前作を読んでいないとこの面白さも半減するということになるのだが。

絶体絶命の窮地を自らの記憶力と巧みな弁舌で乗り越えたチャーリーだったが、諜報の世界の歪んだ論理の犠牲となる。彼はこのまま牢獄に入れられ、次作『亡命者はモスクワをめざす』へと物語は続いていく。

さて本書で第1作から8作『狙撃』までのチャーリー・マフィンシリーズがようやく私の中でつながり、未訳の9作目を飛び越して残るは10作目の『報復』のみとなった。ここまで読んできたことでこのシリーズもある変容が見られることが分かった。

第1作目と2作目は対となった作品で属する組織に裏切られたチャーリーが復讐を仕向ける話でいわば半沢直樹のように“倍返し”をする話だ。続く3~5作目は親友ルウパート・ウィロビーが経営する保険会社の調査員として事件に出くわすチャーリーでこれは逆に作者自身がシリーズの動向を手探りしていた頃の作品だろう。そして6作目で再び諜報戦の世界に舞い戻ったチャーリーはその後もKGBとFBI、CIA、さらにはモサドとも丁々発止の情報戦、頭脳戦を繰り広げていく。これこそがこのシリーズの本脈だろう。つまり本作はチャーリー・マフィンを諜報戦の世界に戻すために必要だった物語であったのだ。訳者あとがきにもあるように作者自身シリーズを終焉させようと思いながら書いた本書が起死回生の作品となったことが推測される。

さて未訳作品以外で残る未読作品はあと1作。私のチャーリー・マフィンを追いかける旅もようやく彼と肩を並べるところまで来そうだ。

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