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ミステリの祭典

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Kファイル38

作家 伴野朗
出版日1978年07月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2019/06/12 09:41登録)
 昭和二十五年六月二十七日――朝鮮戦争会戦二日後に鳥取県・弓ヶ浜半島に漂着した韓国人と見られる水死体は、「新生日本」の支配者として君臨するGHQにより厳重な緘口令を敷かれ、身元確認を受けることもなく米軍MPにより回収された。彼が秘匿していた封筒他の遺留品は専門家の手で厳しいチェックがなされ、翌日には一連の報告書がタイプされていた。
 日本占領軍司令官ダグラス・マッカーサーを狼狽させ、GHQ三階・G2特別資料室の奥深くに保管された文書は、その後歴史の上には現れていないが、文書の通称だけはわかっている。
 KOREA FILE 38―― 略して「Kファイル38」である。
 朝鮮戦争三ヶ月前のソウルを舞台に、戦後韓国に残留した日本人講師・林田泰一こと林泰一(イムテイル)を主人公に据え、会戦間際の半島で繰り広げられる国際謀略を描いたスパイ・スリラー。「三十三時間」に続く作者の第四長編で、1978年発表。
 林田は朝鮮古代史の研究者で、終戦後に李承晩とも繋がりのある一族の女性、金真姫(キムジンヒ)と結婚。在韓アメリカ軍事顧問団(KMAG)に勤める彼女が数年の幸福な生活ののち突然失踪したことから、マッカーサーとトルーマン大統領の政治抗争、傘下のG2(GHQ参謀部第二部)と、大統領の肝煎りで設立されたばかりのCIAとの諜報戦に否応なしに巻き込まれます。
 とはいえ、正直言って内容はアレ。朝鮮半島の風俗などは細密に描写されていますが色々と首を傾げる設定が多く、先入観ありきで書かれた作品、という印象が強い。ミステリ的には森村誠一作品でも採用されたアリバイ・トリックが主眼ですが、戦争誘発に向けて策動する諜報組織が、瑣末な一事件の偽装工作にここまで手間を掛けるか?という疑問があります。開戦はほぼ確実、という時期で、北朝鮮軍の移動も掴んでますからね。ミステリとして何かしらの軸が必要だったのは分かりますが。こういうのはヘタに捏ね回すより、スリラーオンリーの方が纏まりが良い。
 総評としては構成にバランスを欠く作品。情報面の不備な時代によくぞここまで、と感心はさせられますが、再読に耐えるものではありません。マッカーサーの野望などの部分的事実も塗されてはいますが、今となっては終戦直後の本土裏面史としての価値しか無いでしょう。脂が乗ってる時期なのにもったいないな、と思います。

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