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ミステリの祭典

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ドラフト連続殺人事件

作家 長島良三
出版日1985年01月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 人並由真
(2016/06/01 14:45登録)
(ネタバレなし)
 プロ野球球団・東京キャッツの監督、新藤敏彦は、なじみのホステスの花巻明美から個人的な悩みがあると相談を乞われた。待ち合わせの場に赴くと明美は酒に酔っており、その夜は彼女に無難なアドバイスを授けて別れた新藤だが、後日、彼はその明美からレイプされたとの、身に覚えのない告発を受ける。やがてその明美が都内のホテルで縊死状態で見つかり、嫌疑は新藤にも及んだ。新藤の娘で子持ちの編集者でもある万里子は、元カレの編集者・木崎純平とともに、父の潔白を明かすため事件の謎を追うが。

 元HMM編集長であり、メグレやルパン、ボアゴベの『鉄仮面』など多数のフランス新旧ミステリの翻訳でも高名な作者が著した、唯一の創作ミステリ。
 長島良三ご本人は2013年に逝去されたが、実は先日、数年前のご当人の追悼記事(のようなもの)をたまたま読んでいて、この作品の存在を意識した。記事内の作品の紹介には、シムノンの某作のような感じを狙ったのかもしれないフランス・ミステリ風の一冊、という趣旨の記述があり、これで興味を惹かれて早速読みだした。

 しかし残念ながら内容はあまり出来のよいものではなく、シムノン風の小説的な手ごたえはおろか、フランスミステリ全般に通底するような独特の洒落た(または異形の)変化球的な感覚もない。物語は万里子と純平の調査を経て、事件の陰にいる重要人物の影を次第に浮かび上がらせていくが、その進展に至る過程は半ば主人公たちの思い込みで、万が一その人物に見当を付けた捜査が行き詰まったら、どうするんだろう。また最初から別の人物を追うのだろうか。小説の作り方が下手だなぁ、という感慨が生じる。
 ついでに言えば万里子の、金にだらしない夫と別れて、可愛い子供を連れて実家に戻ってる20代の美人職業女性という設定も、特に意味があるのかないのかわからない文芸でイマイチ。登場人物の厚みを出そうとかの狙いだとしたら、底が浅い。
 最後に明かされる真犯人も、まぁその辺の人物あたりが手頃でしょうね、という感じでミステリを読んで味わえるトキメキも希薄。きびしい意見を言えば作者がこれ一冊で創作を止め、翻訳に専念したのは正しかったと思える。

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