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ミステリの祭典

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アメリカン・ハードボイルド!
小鷹信光 編

作家 アンソロジー(国内編集者)
出版日1981年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2016/05/26 17:55登録)
(ネタバレなし)
 先ほど逝去された小鷹信光氏が35年前にセレクトした、アンソロジー。 
収録作は
『殺人処方箋』ブライス・ウォルトン
『大きすぎた獲物』サム・マーウィン
『堕ちる男』デイヴィット・グーディス
『水死人』ジョナサン・クレイグ
『晴れ姿』『ギャングの休日』ウィリアム・R.バーネット
『闇に追われる』ハーバート・カッスル
『失われたエピローグ』ヘンリイ・ケイン
『五十万ドルの女』ウィリアム・ヴァンス
『死を運ぶ風』ブルーノ・フィッシャー

 の10編で、どのような方向性で編纂したかの巻頭文、あとがきのようなものもなく、それぞれの中短編に数百字ずつの作家と作品についての決して長くない解説が付されているだけ。この仕様そのものにも小鷹流ハードボイルドの興趣を感じるのはうがちすぎだろうか。

 基本的に収録作品はシリーズキャラクターに拠らない単発作品で、私立探偵ピート・チェンバースが看板キャラのヘンリイ・ケインなどもノンシリーズの作品が採られている(クレイグのみはレギュラーキャラの、警察署の面々のようだが、はっきりしない)。
 要するに本書には選定者の「ハードボイルド私立探偵ものではなく、もっと原初的なハードボイルド作品およびそのエッセンスそのものに触れてくれ」という主張が忍ぶようだ。
 それだけに収録作品の大半は事件の概要、登場人物の配置などの面で多彩感に富みながらも、いつのまにか社会の枠組みにはみ出してしまった人間の見苦しさ、悲しさ、そしてそれを追う側(探偵だったり、警官だったり、暗黒街の住人だったり)の緊張感などといった興味が通底しており、作品の幅の広さの一方、何とも言えないまとまりを見せている。
 日本語版「マンハント」などになじんだ世代人にはおなじみの作家もいれば、まったく未知の作者もいて、収録作の広がりぶりはその意味でも深い。
 個人的には、主人公とヒロインの哀しく屈折したラブストーリーでもある『五十万ドルの女』がベスト。ほかにも心に残る作品はいくつかある。

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