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ミステリの祭典

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儒学殺人事件

作家 小川和也
出版日2014年04月
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 クリスティ再読
(2016/05/15 22:44登録)
すまぬがちょっとネタである。
本作は研究書であって、小説ではない。とはいえ一応「殺人事件」とタイトルにあり、徳川綱吉の治下で起きた大老堀田正俊の江戸城中での暗殺事件を取り扱っているので、歴史ミステリ、と強引にいえば...というくらいの感覚で取り上げたい。
というのは、以前「成吉思汗の秘密」を評者は酷評することになったのだが、それから少し「歴史ミステリとは?」といろいろと考えをめぐらすことがあったわけだ。今のアカデミックな日本史というものは、イデオロギーのような「大きな物語」の束縛がほぼなくなって、みな結構好き勝手にいろいろと通説を読み替えるような新説を立てることが多くなっている印象がある。聖徳太子非存在説とか大化の改新非存在説、義経で言えば一の谷合戦で法皇の停戦命令を無視して攻撃したために平家総崩れになった説とか、信長の政策は戦国大名としては標準的だとか、本作で反論していることになる「綱吉=文治の名君」説もあれば、一会桑権力と新選組とか、それほど頑迷固陋でない山縣有朋とか...どっちか言えば、このところ小説家的想像力以上に、歴史家の新説創造力の方が目立つことになっている感がある。そうしてみると、40年も前の梅原怨霊史観を未だに振り回したりする小説家の創造力よりも、歴史家の読み替え的新説の方が、意外だったり盲点ついてたりするように思うんだよね。
伝奇小説だったら網野史観が大流行したことも今では過去の話かもしれないが、こういう風にアカデミックな史学に基づいて小説を...というよりも、史学の研究書を直接読んだほうがネタが新鮮のようにも思う。まあそれでも本サイトはミステリの祭典なので、一応殺人事件とタイトルがついており、暗殺事件を扱う本作だったらまあぎりぎり?と思うので取り上げるのだが...
本作はサントリー学芸賞受賞作。犯人はというと、実行犯には謎がなくてそのままだが、その背後の黒幕として将軍綱吉を立てている。その動機をいろいろと考察するわけだが、著者は思想史系の人のようで、綱吉と被害者の大老堀田正俊の「儒教」の受容のあり方に、その原因を求めている。だから堀田の著作をいろいろ検討して、それが綱吉の忌憚に触れることになったことを立証していく...まあだから実質思想史なんだが、さすがに江戸時代の儒教・儒者って高校日本史で名前を暗記したくらいしかあまりご縁のない世界だから、新鮮といえば新鮮だがぴんとこないのも確かだ。で将軍綱吉が犯人、というのも意外性には欠けるな。
というわけで重厚ではあるけども、あまり「殺人事件」と銘打つ必然性までは感じない。

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