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ミステリの祭典

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放課後スプリング・トレイン

作家 吉野泉
出版日2016年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2016/06/28 15:12登録)
(ネタバレなし)
 福岡の女子高校生「私」こと吉野は、親友の朝名から年上の彼氏・上原先生を紹介され、さらにその友人で大食漢のハンサム・大学院生の飛本とも知り合う。やがて私は母校の周辺でさまざまな謎や疑問に遭遇するが、そんな私に絶妙なアドバイスを授けるのは、年上のボーイフレンドとなった好青年の飛本だった。

 4編の連作中編を収録する、作者の初の著作。内容は「日常の謎」系のスタンダードのような結構だが、登場人物・ストーリーテリングともにかなりレベルは高い。第1話の電車の中での奇妙な女性の謎のエピソードから、藤子・F・不二雄先生の『エスパー魔美』の出来の良い回に通じる絶妙な掴みと完成度を感じさせる。

 4編全部が「色彩」というモチーフを通じて一貫性が図られる端正さも良いが、この作者の最強の武器はその文章の滑らかさと情景や心象の叙述力だろう。別の地方在住の筆者にとって福岡はまだ未踏の場だが、快感ともいえるテンポと疑似的な臨場感で、物語の舞台となる市街や学び舎の情景が頭の中に広がっていく。そのレベルは後期の熟成した清張の筆力にも通じるかと思えた。
 
 なお謎の中身はこういう路線ものゆえ、あまり鬼面人を嚇すようなものはないが、全4話という分母を考えるならほどよいバラエティ感に富んでいて、その辺も良い。4編どれもなかなかの出来だったが、個人的には学園祭での舞台劇の衣装の消失の謎を主題にした第2話がベスト。解決はホックのシリーズものにありそうな感じで、真相に至るまでの細部にもニヤリとさせられる。

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