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ミステリの祭典

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オクス博士の幻想

作家 ジュール・ヴェルヌ
出版日1970年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2016/04/21 23:14登録)
フランスの奇才ヴェルヌの中編集。本書には表題作、「ザカリウス親方」と「氷のなかの冬ごもり」の3編が収録されている。

本書に収められた3編はどれも色合いが異なっており、ヴェルヌの知識と作風の幅広さを感じさせる中編集となっている。

表題作ではマッド・サイエンティストの狂った実験で平穏な町が狂騒を帯びていく物語だが、その原因が最後になって明らかにされるため、読んでいる最中はサクス博士が何かをしていることは薄々解るものの、一体何が町に起きているのかが解らない所がページの繰る手を止めさせない。トンデモ科学譚として個人的には好きな作品。

ドイルもこのようなトンデモ科学譚を書いており、次もその類かと思わせると一転してオカルト譚になっており、大いに予想を裏切る。ザカリウス親方は次々と自分の作った時計が止まっていき、次第に職人としての自信を喪失していき、それが職人の寿命を縮めていく。悪魔の化身のような老人も現れるが、なぜ時計が故障するのかは解らないまま物語が閉じられる。

最後はこれまたヴェルヌの十八番である海洋冒険譚でマクリーン作品の元となったのではないかと思わせる極寒の海での捜索行が描かれる。特に敵役を配して単純な人捜しの物語にしていないのがヴェルヌの物語作家としての上手さだろう。

と、物語の色合いも異なれば実はそれぞれの舞台の国も異なっている。表題作はベルギーの架空の町で、2作目はスイスのジュネーヴ、3作目は自国フランスのダンケルクと、ヨーロッパの国々を舞台にしているところもまた冒険小説家として世界に目を向けていたヴェルヌの視野の広さを想起させる。

ともかくも本書と前回読んだ『グラント船長の子供たち』を読んで思ったのは19世紀の作品だがヴェルヌの作品は今でも鑑賞に堪えうるクオリティを備えていることだ。直截に云えば「今読んでも面白い」。物語として起伏に満ち、また描写や説明も微に入り細を穿っていて興味深かった。

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