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ミステリの祭典

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寝台特急カシオペアを追え
十津川警部シリーズ

作家 西村京太郎
出版日2000年08月
平均点2.00点
書評数1人

No.1 2点 おっさん
(2016/04/02 16:02登録)
先日、コンビニで「トクマ・ノベルズ大活字マガジン」なるものを発見。「週刊アサヒ芸能」の増刊として、徳間書店が毎月、人気作家の旧作を雑誌形式で、“長編丸ごと入って500円”と謳って大型活字で刊行していっているようです。
その第一号(平成28年1月6日号)が、西村京太郎の『寝台特急カシオペアを追え』。初刊が平成12年8月の長編です。鉄道ファンならぬ筆者でも、今年3月の、北海道新幹線の運行開始にともなうカシオペア廃止のニュースは耳にしていましたから、気をひかれて手に取ってみると、巻頭に「西村京太郎作品に登場する寝台特急」というグラビア・ページはあるし、巻末に山前譲氏作成の「西村京太郎著作リスト」(初刊のみを対象にした、その著作数は、昨年末の時点で568!)はあるしで、それらを眺めているだけでも、結構、楽しめそうなので購入しましたw

西村作品は、比較的、初期の長短編をいくつか読んでいて、どれもそれなりに面白かった記憶はあるのですが、作者がトラベル・ミステリの第一人者になってからは、量産される十津川警部シリーズを追いかける気力もなく、すっかりご無沙汰になってしまいました(その点で、ほぼ山村美紗といっしょですww)。
それでも、第一線で活躍し続けるエネルギッシュなストーリー・メーカーとして、その存在を頼もしく思う部分はあり(なんだかんだいって、マニア受けする作家だけでは、ミステリも存続できないわけで)、この、せっかくの機会に、そんな流行作家の仕事ぶりを拝見させてもらうのも悪くないと考えた次第です。

こんなお話。
誘拐された娘の身代金2億円を持って、携帯電話による犯人の指示に従い、北海道行きの寝台特急カシオペアに乗り込んだ、資産家の父。犯人に先手を取られた十津川班の面々は、あわてて東北新幹線でカシオペアを追う。しかし、郡山で追いついたときには、カシオペアの車内に父親の姿はなく、2億円も消えていた。犯人からの連絡は絶え、人質も解放されないまま、時間が過ぎていく……。
やがて、青函トンネルを抜けた、その同じカシオペアのラウンジカーで、今度は乗客の男女が二人、射殺体で見つかる。この殺人と、誘拐事件に関連はあるのか?
道警に協力を要請した十津川たちが、殺された身元不明の男の、左腕の入れ墨の図柄を手掛かりに、捜査を進めていくと、第二の殺人事件が発生し――やがて同じ犯人グループによる、第二の誘拐事件まで発生することに!

なるほどねえ。
ともかく読みやすい。読点を多用した文体に、最初はオヤッと思わされるのですが(まあ、他ならぬ筆者が、文章の読点過多をあげつらうのは、天に向かって唾するようなものですが)、慣れてしまえばライトノベルとおんなじで、クイクイいけます。その、とことん無駄をはぶいた文体は、ある意味、ダシール・ハメットを超えたかもしれないwww
ミステリとしての出来は、まあ、褒められたものではありません。冒頭の誘拐事件からして、夕方、下校途中の女子大生をどうやって人目につかず連れ去れたのか分かりませんし、その父親の車のダッシュボードに、誰が、いつ、どうやって、列車のキップを入れることが出来たかの説明もありません。わざわざ列車内で殺人をおこす意味も不明ですし(被害者ふたりが列車を降りたあと、別な場所で殺せば、誘拐事件との関連を詮索されることも無かったでしょうに)、思わせぶりな入れ墨の手掛かりの処理――同志の誓いとして、同じ入れ墨をしたグループが存在する――には、首をひねるばかりです。
思うに、作者は、導入部のシチェーションだけで書きはじめている。作中の、十津川と亀井刑事のあいだのディスカッションなど読んでいると、ああ、西村さん、いっしょになって真相を模索しているな、とよく分かりますw 全体を律する謎などなく、事件が次々に起きることで目まぐるしく展開するストーリーとは、どこかで出遭ったような気がする。何が記憶を刺激するかと思ったら――ああ、そうか甲賀三郎だww
しかし。
見切り発車したストーリーを強引にまとめあげ、ラストのタイムリミット・サスペンスに持ち込む腕力は、これはやはりたいしたものだと思います。西村京太郎の、道場の試合ではなく、野試合で勝ち抜いてきたキャリア、その自信が伝わってきます。
それにしても、ギリギリ土壇場で、十津川が犯人グループのリーダーに対して打った、起死回生の一手。これはフィクションの世界でしか許されないだろうなあ。

採点結果だけ見ると悲惨に思われるかもしれませんが、でも、もう少し十津川警部シリーズを読んでもいいかな、という気になっている筆者なのでした。

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