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ミステリの祭典

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武蔵野アンダーワールド・セブン ー意地悪な幽霊ー
武蔵野アンダーワールド・セブン

作家 長沢樹
出版日2016年03月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2016/06/22 01:27登録)
(ネタバレなし)
現実とは異なる歴史を歩んだもう一つの日本。東創女子大の一角にある施設「13シアター」の周辺では、何年もの間、階段や高所からの不可解な転落事故が多発。そこにいる者にあだなす「意地悪な幽霊」の都市伝説が囁かれていた。やがてシアターを利用する学内の演劇表現サークル「ビッチ・バッコス」の中から新たな被害者が生じて……。

 2年前に書かれた長編『武蔵野アンダーワールド・セブンー多重迷宮』と同一の世界観での新作。ただし物語の設定は前作の2年前に戻り、それ自体はいいのだが、劇中の時間軸を意識して万が一こちらから先に読むと、大変なことになる(『多重迷宮』の方の大ネタがこっちでいきなり明かされるので)。したがって本シリーズに興味のある人は、必ず刊行順に読むことをお勧めする。

 さて内容だが、歳月を置いて頻発する謎の転落事件~やがて殺人に…という流れは、まるでカーの『連続殺人事件』プラス『赤後家の殺人』という感じで、提出される謎のケレン味も豊か。世界観や登場人物の設定こそアクの強い作品ではあるのだが、ミステリ的な興味を絞り込んでいくならば、存外に芯の通ったフーダニットとハウダニット、そしてホワイダニットの妙味が語られている。

 小説としてもなんとなく一本調子の展開になりかけたところで、序盤では単なる脇役かと思っていたサブキャラクターが物語の前に出てきて弾みをつける。読者の興味を下げないようにするストーリーテリングの緩急の付け方は、なかなかうまい感じだ。

 なお終盤に判明する真相は、昭和の某・名作特撮番組の世界に行ってしまったという印象だが、これは決して悪口ではない。むしろ、ああ、こういう発想もアリだな、と特に殺人トリックの大ネタの中身に感心した。終盤まで読者の意識のスキを狙って忍ばせておいた仕掛けも、個人的には良く出来ていると思う。
 また本作は、角度を変えて接するとちょっと切ない青春小説の趣もあり、これは手数の多さで楽しめた一冊という感じだ。
(あと、まったく余談だけどこの作者には『リップステイン』の続編の方も、ぜひとも早めにお願いしたいです。)

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