(2016/01/31 23:51登録)
(ネタバレなしです) 大谷は初期には芸能界を題材にした本格派推理小説をいくつか書いたそうですが、1972年発表の本書もその一つです。巡業殺人シリーズ第1作と紹介されていますが、確かに東北巡業が描かれていますけど旅情はほとんど感じられません。このあたりは後年にトラベルミステリーブームを巻き起こした西村京太郎とは比べ物にはなりません。しかし芸能界描写という点では大谷らしい個性が発揮されており、特に第2章での戦後の音楽バンド活動についての語りは現代とは全く違う時代背景を感じさせて新鮮でした。謎解きプロットはやや変わっており、2つの出入口のある部屋での準密室殺人を扱っています。1つの出入口は施錠されて衆人監視状態なので普通に考えればもう1つの出入口が使われているはずなのですが、普段はそちらが施錠されているので犯人が侵入路として目を付けるとは考えにくいというのが準密室を成立させています。一応は両構えでの捜査となりますがバランスはかなり偏っていて、この辺はもう少し改善すれば謎解きがもっと複雑になって読者に色々と考えさせるのでしょうけど、徳間文庫版で300ページに満たない短い作品なのでそこまで望むのは贅沢でしょうか?
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