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ミステリの祭典

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九人の失楽園

作家 ブラウン・メッグズ
出版日1978年12月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2022/08/25 16:27登録)
(ネタバレなし)
 1970年代半ばのアメリカ。ニューメキシコで、一流建築家として名高い42歳のマイルズ・オーキンクロスが、自宅で妻と義母とともに何者かに射殺された。ついで42歳の人気テレビコメディ俳優、シム・ベリーが自宅のワインセラー倉庫の中から死体で見つかる。彼らはともに25年前、マサチューセッツのエリート高校「マザー・スクール」を卒業した同級生であり、当時の校風として編成された少数クラスの9人の仲間だった。同級生8人がそれぞれの分野で活躍していることに引け目を感じていたマイナー誌の音楽批評家ホーバート(ホービー)・ミルンは、やがて第三の事件を認知。ホービーは、謎の人物による自分たちの同窓の卒業生を狙った連続殺人計画を確信するが。

 1975年のアメリカ作品。
 瀬戸川猛資が「夜明けの睡魔」で「(パズラーっぽいがそうではなく)サスペンス小説の佳作~秀作」(大意)とホメていた一冊。
 瀬戸川氏は本書に先行する同じ作者のポケミス『サタデー・ゲーム』をこれとまとめて語って、それぞれサスペンス作品として面白いと評していたが、評者はそっち(『サタデー』)はまだ読んでない。
 
 いずれにしろなんかテクニカルそうな作品なので、気が向いて安い古書を購入して読んでみる。

 巻頭の人名一覧表には、くだんの卒業生9人と、ほかのメインキャラ(ホービーの恋人で、セックス好きの29歳のヒッピー、元弁護士のサンディをふくむ)の数名のみの名前が羅列。主要人物十数人だけで250ページ弱の物語がもつのかな? と思ったら、実際には80人弱のネームドキャラが登場した。まあいいけど、もうちょっと細かく人名表を組んでもよかったとも思う。
 先の瀬戸川レビューの通りに、サスペンス作品としてすいすい読める(ただしあまりスリルの類は感じない)。話がダレそうになる前に次の被害者が出たり、主人公と周辺でイベントが起きたり、その辺りのテンションを維持させる作劇と話術は悪くはない。
 ホービーとサンディの微エロな関係描写をはじめとして、各キャラクターの立て方見せ方もそれなりにうまいとも思う。

 ただ、ハハーン、こういう作品なら、こういう手で来るのだろうな? と、読み手のこっちの方がもうちょっと一回くらいはヒネったものを期待したところ、ラストは意外にも……(中略)。
 正直、思ったより曲のない作品であった、という手ごたえである。

 やっぱこの40年の間に、東西の技巧派(?)ミステリのレベルは徐々に上がってしまっているんだろうな、という実感。
 結局、空振りに終わったけど、ソノこっちが勝手に期待したような大技を使ったところで、それもすでにどっかで見たようなものなのに、実際の本作はソコまでも行ってない、という印象である。
 サスペンスそのものの面白さは普遍的だけど、その分、観念性とか時代色とか活劇とか濃い目のエロとか、プラスアルファが弱いと、改めて旧作を読む場合はツライね。

 客観的には6点あげてもいいけれど、そんなあれやこれやを考えて感じながら、この評点で。
 でもこの作者は、もうちょっと読んでみよう。

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