皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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フリップ村上さん |
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平均点: 7.73点 | 書評数: 26件 |
No.3 | 8点 | 空飛ぶ馬- 北村薫 | 2002/09/26 20:45 |
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乗り切れなかった人には、心から「残念でしたね」と声をかけたい。 ぶっちゃけ、本作も発表以来十余年。当時ですら浮世離れしていた「わたし」という設定が、もはや完全な絵空事と化したといわれても反論は出来ない。 裏目読みをすれば《不惑を過ぎた高校教師(♂)が書いた娘へのラブレター》という創作意図も露骨に透けて見えるわけで、そんな臭気を感じて《うざい》《偽善》と感じる読者がいても、ちっとも不思議ではない。 けれども、人の本質なんて十年やそこらでそうそう変わるものではない。決して声高ではないが、地に足のついたゆるぎない人生肯定が、素直に心に響く可能性だって捨てたもんじゃない。未読のかたはぜひ、無心の状態でチャレンジして欲しい。 さて、そうはいってもこの作品、誰もが楽しめる娯楽の王道というよりは、もとより相性の良い一部読者がひっそりと愛読する類の物語。 推理文壇にてリマーカブルな位置を獲得している理由は ? 安楽椅子探偵って(英国での黎明期をのぞいて)実はそれほど存在しない。成功例はさらに少ない。 ? 死体の発生しない《日常の謎》でミステリが成立するなど、本作以前には考えられなかった。 ? 覆面作家ゆえの話題性もあった。 等々、歴史的な背景があることも、蛇足ながら追記しておきたい。 《円紫さんとわたし》シリーズ復権プロジェクト(電通案より抜粋) 「わたし」を眼鏡っ子という設定にして、イラスト付で講談社ノベルス化すれば、まったく違ったファン層に大々的にその魅力を訴求できるはずである。(嘘!) |
No.2 | 8点 | 覆面作家は二人いる- 北村薫 | 2002/07/23 21:45 |
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わざわざカギかっこ付きで『お父さんは心配性』と引用してみたり、突然おーなり由子とのコラボレイトを展開したりと、隠れ少女まんがマニアぶり(『りぼん』系)が伺える北村薫。趣味大爆発の本作は、ミステリ史上にありそでなかった《美少女名探偵》の魅力が堪能できる軽娯楽編。(少なくとも、二階堂蘭子に《可愛い》という形容詞は使えないでしょう?) 『円紫さんと私』シリーズの主人公がどうにも鼻持ちなら無いと感じていた御仁もこれならOKか? 1人称の語り手が双子の兄弟、という凝った(浮世離れした)設定がだんだん先細りになっていく等、散漫な印象を与える部分もあるが、反面《才能を巡る葛藤》といった深刻な動機から悲劇がひき起こされたりするなど、決して《心優しい》だけではない北村薫の一面がかいまみれる部分も興味深いのでは。 |
No.1 | 8点 | 夜の蝉- 北村薫 | 2002/07/17 22:44 |
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全体の完成度では『空飛ぶ馬』に一歩譲るが、なんといっても白眉は『六月の花嫁』。 いったいなにが《事件》だったのかを明らかにすることが、《解決》と同義になっているという構成の妙。一聴すると時期外れに思える話題が実は……という挿話が、タイトルそのものと相まって、大胆不敵なまでの伏線となっているという語り上手。 日常生活系ミステリにおいて、北村薫がワン・アンド・オンリーの存在であることを、なによりも雄弁に語る一編ではないでしょうか。 |