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ペッパー警部さん
平均点: 5.50点 書評数: 2件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.2 1点 方舟- 夕木春央 2026/02/20 20:57
 よく練られたストーリーで、多くの人がこの作品を高く評価するのは納得できるところです。ただし、もっとも基本的な点がどうしても理解できないため、採点するとなると低くせざるをえません。
 あまりにも基本的なことなので、どこかに書いてある説明をわたしが読み落としている可能性もあります。その場合には改めて採点し直しますので、どなたか指摘していただきたいと思います。

(以下、ネタバレを含みます。)

 わたしが理解できないのは、「僕」がこの文章をいつ・どのような方法で記したのかという点です。
 素直に読めば「僕」が生き残ったとは考えられないので、「僕」の死後に残された文章を誰かが発見したということになるのでしょう。でも、その文章は「僕」によっていつ・どのような方法で書かれたのでしょうか?

 これだけの分量のある文章を、「タイムリミット」が来てから書いたというのは無理ですから、折を見て少しずつ書き溜めたと考えるのが普通でしょうが、そのような場面は記述されていないように見えます。
 記述方法についても、たとえば洞窟の中に紙やノートがあって、それにペンや鉛筆で書いたと考えることもできますが、水没した原稿を誰かが見つけてくれる保証はありません。スマホを使ってこれだけの長文を作成するのも大変ですし、洞窟の中は電波が届かないため外部に発信ができません。水没したスマホに残っていたデータを誰かが見つけたという設定なのであれば、その旨を記述してほしいところです。
 いっそのこと、AIか何かを使った自動記録装置のようなものを想定してもいいのでしょうが、21世紀初頭の技術水準では現実的ではないと思われます。

 これらが解決しないと、作品の前提が成立していないことになるため、読後感はどうしてもすっきりしません。この問題さえクリアできればなかなかの作品だと思うので、疑問が解消するといいのですが…。

No.1 10点 北の夕鶴2/3の殺人- 島田荘司 2026/02/20 20:50
 この作品にはさまざまな特徴があります。どの点についてもすぐれた作品であるという意味では、10点を超える点数をつけたいとさえ思うほどです。

 まず1つは、二人の女性の殺人に関わる壮大なトリックです。
 建物の配置がたまたまうまくできていたとか、緊迫した状況でこんなことが成功するのかとか、粗探しをするのは簡単です。でも、著者自身がそんなことは気にしない次元で書いているので、欠点を指摘してもあまり意味がありません。「どうだ、こんな痛快なトリックは松本清張には書けないだろう?」と、新本格の旗を揚げて見得を切っているわけで、ミステリ史の中での位置づけも含めて価値のある作品と思います。
(ちなみに、わたし自身は清張には清張の面白さがあると思っており、彼の作品を否定しているわけではありません。)

 第2の特徴は、吉敷竹史と通子の人間性のきめ細かい描写です。
 通子の特異な経験が影響して結婚生活が破綻し、それでも互いの気持ちが離れないという事情が、まるで純文学のようにきめ細かく描写されています(褒め過ぎ?)。とくに結婚生活(あるいはそれに準じた深い交際)の挫折を経験した人には、いろいろ刺さるところがあるはずです。わたしは冒頭の電話のシーンを読むだけで、なんともいえない甘酸っぱい気持ちになります。(なお、二人の関係については、後続する作品でさらに描かれることになります。)
 また、自分を二の次に真相解明に打ち込む吉敷刑事の生きざまが、ちょっとしたハードボイルド小説よりも感動を呼びます。犯人との壮絶な闘いは、「そんな無茶な」とツッコミを入れたくなる場面もありますが、何度読んでも心が揺さぶられます。男の生きざまなんていう表現は21世紀にふさわしくないかもしれませんが、仕事に生きがいを感じる人なら、吉敷刑事の姿は身につまされるのではないでしょうか。

 第3に、舞台となる釧路と盛岡の街が美しく描かれているのも、この作品の魅力です。
 この作品を読む前から盛岡には何度か行ったことがありましたが、街の雰囲気がうまく描かれていると感じました。(もちろん、盛岡の街の魅力にNYタイムズが注目するよりもはるかに前の作品です。)そこで、釧路にも行ってみたいと思うようになり、ついに数年前には「聖地巡礼」に出かけてきました。釧路駅の周辺から幣舞橋のあたりまでを歩くと、まるで吉敷竹史になったような気分で感動的でした。
 釧路も盛岡のどちらも、この作品の舞台はこれらの街でなければならなかったという必然性を感じさせるほどです。作品の舞台に対する強いこだわりは、後の『火刑都市』にもつながるものであり、島田荘司の作品の重要な要素です。

 以上のように、複数のすぐれた要素を備えているこの作品を、最高レベルと評価したいと思います。

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