皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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びーじぇーさん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 85件 |
No.3 | 6点 | 夜の声を聴く- 宇佐美まこと | 2024/07/21 21:56 |
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十八歳の引きこもり堤隆太は、目の前で自分の手首を切った女に惹かれ、彼女の通う定時制高校に入る。そこで老女が営む風変わりなリサイクルショップ「月世界」で働く同級生・重松大吾と知り合い、彼らは月世界の客の隣家で起きた事件の真相に迫ることに。
この事件の解明がメインストーリーなのかと思っていると、あっさりと解決してしまうが、隆太たちは街の名家の当主の身に起きた変事や、亡き父の遺した絵画の処分をめぐって争う姉妹の仲裁等、その後も変わった案件を処することになる。しかも連作スタイルで描かれていくそれらの事件は、一見何のつながりもなさそうで終盤に思いも寄らない形で結びついていく。 そうした展開の妙に加えて、様々な痛みを背負った月世界の三人が織り成す絡みが素晴らしい。むろん各事件においては、謎解き趣向も凝らされている。主人公の成長を核とし、前半は日常謎を挑み、後半は十一年前に起きた殺人事件を追っていくといった多重性が物語に深みを与えている。 |
No.2 | 5点 | 夢伝い- 宇佐美まこと | 2024/02/24 21:12 |
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書けなくなった作家が打ち明けた驚くべき理由と、その裏を取ろうとした編集者が知る恐るべき真実「夢伝い」。復讐を遂げたばかりの男が向かった地元。廃村になった地で体験する不可解な現象と、直面する忘れたはずの過去「沈下橋渡ろ」。複数の人物が語る「ある教育ママの事故死」、「大学生カップル殺人事件」。そこから仄めかされる、ある心霊スポットで起こった怪事「愛と見分けがつかない」。末期の父に聞かされた亡き母との馴れ初め。母の過去を確かめに向かった先には「母の自画像」。など全十一編の短編集。
どの短編でも人間が書かれている。どこにでもいる、ありふれた人間の姿が、克明に残酷なまでに丁寧に浮き彫りされている。自分の罪は記憶化から消しておきながら、他人から受けた仕打ちはいつまでも忘れない。解決すべき人間関係の問題から目を背け、歪みだらけの日々を過ごす。 そして、どの短編でも怪現象が書かれる。人が怪現象を呼んだのか。あるいは怪現象が人を招くのか。いずれにせよ、人はそれを通じて己の本心や、捨て去ったはずの過去を突き付けられる。それは恐怖であると同時に救いだ。理屈に合わない生き方をする大多数の人間にとって、闇こそが救いなのかもしれない。 |
No.1 | 7点 | 角の生えた帽子- 宇佐美まこと | 2020/04/08 21:08 |
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一読してノスタルジアをおぼえる作品が多いことに気付く。日常の断片を切り取った内容よりも、過去から現在へ連綿と続く時間の中で、得体の知れない闇が醸成され、「今」の肩を叩くような作品が多いからだろう。
いわゆるショッカー型のホラーとは異なり、読み手は自分を取り巻く世界が次第に妖しく変容していく気分に陥るはずだ。闇を覗き込む恐ろしくも甘美な体験がそこに生まれる。 筆力と幻視の力の双方が高いレベルで融合した、国産怪談/ホラー短篇集の一大収穫に違いない。 |