皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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びーじぇーさん |
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平均点: 6.23点 | 書評数: 86件 |
No.2 | 7点 | 黒の狩人- 大沢在昌 | 2023/08/02 19:46 |
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主人公は新宿署の組織犯罪対策課に所属するマル暴担当のベテラン刑事。ある日、署のトップや本庁刑事総務課の課長、公安エリートらが居並ぶ席に呼び出された彼は、この連続殺人事件の捜査を言い渡される。
だが、その際に通訳という役割で、一人の中国人を補助捜査員として帯同するように命じられるのだった。しかし、その男は中国国家安全部のスパイであることもわかっており、それを踏まえたうえでの捜査であった。 つまり冒頭から、虚と実が入り交じった展開なのである。とはいえ、自らを「カス札」と自嘲する刑事にできる仕事は、普段通りのやり方で犯人に迫ることだけだった。かくして二人は、奇妙な形の「相棒」となって事件の渦中に飛び込んでいく。 本質的には極めてまっとうな刑事小説でありながら、そこに中国マフィアと日本のヤクザの暗闘や、国家間の政治的駆け引き、情報などが入り乱れ、国際謀略小説風の雰囲気も加味されていくのだ。これこそが都会が映す、現代社会の矛盾なのだろう。作者はそうした状況を饒舌に語りながら、さらに男同士の友情という古典的なテーマを背景に置いている。 |
No.1 | 6点 | 雨の狩人- 大沢在昌 | 2023/07/10 21:13 |
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地下格闘技が行われていた東京・新宿のキャバクラで不動産会社の社長が射殺されたのを発端として、血で血を洗う連続殺人が始まった。佐江とコンビを組む捜査一課の刑事、謎の「Kプロジェクト」の実現のために手段を選ばない暴力団幹部、その手先として動く凄腕の殺し屋、そして悲惨な過去を抱えてタイからやってきた少女。佐江を巻き込みながら彼らの思惑はぶつかり合い、ついに凄惨な全面戦争に突入する。
殺し屋に何度も命を狙われるなど、シリーズ中最大の危機が佐江を襲うハードな物語である。設定が派手なぶん、書きようによっては荒唐無稽になった可能性もあるこの作品に説得力を付与しているのが、「Kプロジェクト」に象徴される巨大暴力団の生き残り策だ。 暴対法と暴排条例によって、確かに旧来の暴力団犯罪は減少した。しかし、変わりに暴力団はカタギと見分けがつきにくい集団となり、法網を潜り抜ける新たなシノギを見つけるようになった。犯罪を取り締まるための法律が、却ってそこからすり抜ける新たな犯罪のかたちを生み出してしまうという、いたちごっこが現在の裏社会と司法の関係であるという著者の冷徹な認識が、佐江がギリギリの窮地に追い込まれるこの物語に、さらに苦い味わいを付与しているのだ。 |