皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
|
小原庄助さん |
|
|---|---|
| 平均点: 6.63点 | 書評数: 274件 |
| No.2 | 7点 | 悪の五輪- 月村了衛 | 2019/08/05 09:41 |
|---|---|---|---|
| 東京五輪が来年に迫る中で刊行された本書は、昭和の東京五輪をめぐる暗鬱で痛快な社会派クライムノベルだ。
主人公で映画好きの変人ヤクザ、人見稀郎は思う。「一円でも多く、自分だけが儲けたい。金、権力、名声、色、そしてまた金。オリンピックの五つの輪は、そのまま五つの欲を示している」。そんな諸悪をメディアはスルーし、五輪第一の絶対的な同調圧力が国家と社会の隅々にまで行き渡っている・・・。 五輪の記録映画監督に決まっていた黒澤明が1963年3月に降り、翌年1月に市川崑が選ばれた。物語は二つの事実の間にひろがる昭和の闇を次々に暴いていく。 稀郎が所属する東京の暴力団に、錦田欣明を監督にという話が持ち込まれた。稀郎は気が進まぬまま錦田に会う。人としても監督としても駄目だと思うが、映画作りへの夢と情熱は感じられた。稀郎にとって映画は、戦争で死んだ兄との思い出であり、欺瞞だらけの世の中で唯一信じられる嘘だった。稀郎は新たな映画作りに向かって錦田と走り出す。 オリンピック組織委員会から調べ始めた稀郎に、醜悪な情報が集まってくる。五輪に深く関係する企業の利権に、政治家と官僚の利権が見え隠れし、全国の大小暴力団の利権争いが重なる。映画界に巣くう差別も露呈する。稀郎の行く手を阻む巨大な闇の数々だ。 この虚構の物語には伝説のヤクザ花形敬や、反骨の映画監督若松孝二、映画界の実力者永田雅一や、フィクサー児玉誉士夫ら実在の人物が登場する。山田風太郎の明治伝奇小説は虚実を巧みに織り交ぜたことで知られるが、本作は月村了衛版昭和伝奇小説か。 しかし、山田作品が明治への挽歌であったのに対し、本作はいまだ終わらず次の五輪で反復されるだろう「悪の昭和」への怒りを、読者に強く強く求めている。社会悪ばかりか国家悪にもとどく、近年にない超硬派の冒険小説を、怒りを共有しつつ堪能した。 |
|||
| No.1 | 6点 | 一刀流無想剣斬- 月村了衛 | 2019/02/20 10:02 |
|---|---|---|---|
| 戦国末期を舞台に、剣豪として名高い神子上典膳が、家臣の謀反で国を追われた美しき澪姫と小性の小弥太を守って、追手の刺客と死闘を繰り広げる展開は、まさに剣豪小説の王道パターン。
異能の剣を使う黒蓑兄弟と戦う追加のチャンバラがあるかと思えば、澪姫たちが逃げ込んだ山の自然が行く手をはばみ、それを乗り越える冒険小説の要素もあるので、血湧き肉躍る興奮が満喫できる。典膳の活躍を通して、困難を克服する勇気、悪と戦う強い心を持つ重要性というテーマをさりげなく描いたところも、強い印象を残す。 一刀流の祖、一刀斎は典膳と善鬼を弟子にしたが、残酷な善鬼でなく典膳を後継者にしたとされる。この伝説を踏まえたどんでん返しを読むと、著者の時代小説への愛もよくわかるだろう。 |
|||