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小原庄助さん
平均点: 6.64点 書評数: 266件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.3 8点 ワン・モア・ヌーク- 藤井太洋 2024/08/21 08:19
二〇二〇年三月六日、オリンピックを間近に控えた東京に、一人の男が降り立つ。身分を偽り、不穏な金属の塊とともに入国した男の名はイブラヒム。元イラクの核物理学者だ。そして流暢なアラビア語で彼を案内する。女性通訳ボランティアは、デザイナーとしても活躍する但馬樹。二人は東京で原爆テロを起こし、新たな核被災地とするための協力関係にあった。警視庁で外国人が絡む犯罪を担当する早瀬隆二と高嶺秋那、かつてイブラヒムの仕掛けたテロに巻き込まれた経験を持つ国際原子力機関の技官・館野とCIAエージェント・ナズらは、テロリストの真意を探るため奔走し、原爆の実験可能性について検討を重ねるが、三月九日、ついにテロ予告動画が流れる。
日付が示唆する通り、東日本大震災とそれに伴う福島原発事故が、本書を貫く太い背骨になっている。未曽有の災害を前に、知識・情報・技術・感情、何を拠り所に、どう対峙するべきか。リアルな人物・技術描写に引っ張られ読み進めるうちに、あの時悩んだこと、思い至らなかった事、そしてこれからも考え続けなければならないことが、次々と脳裏をよぎる。強烈な風を吹かせる極上のタイムリミット・サスペンスだ。

No.2 7点 ハロー・ワールド- 藤井太洋 2023/12/21 08:32
主人公は、専門を持たないエンジニアの文椎。タイトルの「ハロー・ワールド」とは、一番初めにプログラムで書かせる文字列のことだ。
表題作の「ハロー・ワールド」で、文椎はブランケンといいうiPhone用広告ブロックアプリを作る。他のアプリと比べて性能が勝っているわけでもないのに、順調にダウンロード数は増えていく。特にインドネシアでの売り上げが高い。そこそこの実績しかないエンジニアが作ったアプリが、遠い海の向こうにいる人たちの人生を変えてしまう。一連の出来事をきっかけに文椎が遭遇する未知の世界は、インターネットの自由を脅かす世界だ。大きな力を持たない個人が抑圧から逃れるのは難しいが、技術者としてできる限りのことをするところがいい。
「五色革命」は、反政府組織の大規模デモによって封鎖されたバンコクで文椎は事件に巻き込まれる。言論や情報を統制する社会が貧しいとは限らない。圧政から解放されたはずなのに、以前よりも人々の暮らしぶりが悲惨になったいる国もある。自由とは危険を冒してまで手に入れる、もしくは守る価値のあるものなのかと考えさせられる。「巨像の肩に乗って」では、ツイッターにまつわる考察が興味深い。最初は革命的に思えたものもいつの間にか権力に取り込まれるという閉塞感を越えて、文椎が最後に至った境地が爽快だ。

No.1 7点 GENE MAPPER -full build-- 藤井太洋 2019/09/12 10:03
技術系の知人と話していると、時々、現実の話なのか、空想なのか戸惑うことがある。今やコンピューターが描き出すバーチャルリアリティー抜きには現実を語れず、遺伝子操作も環境問題もテクノロジー産業で商品化が進んでいる。
この作品は、遺伝子設計技術と拡張現実技術が普及発展した近未来を舞台にしている。完全に遺伝子設計された「蒸留作物」が食卓の主役になっている時代。遺伝子デザイナーの林田は、自分が手掛けたイネが遺伝子を崩壊した可能性があると告げられる。
操作プログラムが暴走して封鎖されたインターネットから原因究明用のデータを探り出すため、林田はベトナム在住のハッカーに協力を依頼。コーディネーターの黒川と共に事件の真相を追う。
インターネット崩壊、コンタクトレンズに投影される拡張現実、遺伝子工学による農業、地域環境や社会産業構造の変化を織り込み、技術が暴走する危険性を描きながらも、科学技術とその最前線に立つ技術者への信頼も感じさせる好著。
著者は、ソフトウェア開発に関わる技術者であり、本書の原型は電子書籍として個人出版されて大評判になった。著者の視野には、近未来が「現実」として把握されているかのようだ。

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小原庄助さん
ひとこと
朝寝 朝酒 朝湯が大好きで~で有名?な架空の人物「小原庄助」です。よろしくお願いいたします。
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平均点: 6.64点   採点数: 266件
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