皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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小原庄助さん |
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平均点: 6.64点 | 書評数: 267件 |
No.2 | 8点 | 凍てつく太陽- 葉真中顕 | 2019/01/30 09:04 |
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葉真中顕は、次にどんな小説を書くのか楽しみにしている作家だ。心を躍らせ読み始めると、期待を裏切られることなく、一気に引き込まれた。
舞台は1944~45年の銃後の北海道。特高警察の巡査でアイヌの血を引く日崎八尋が朝鮮人になりすまし、室蘭の軍需工場の「飯場」に潜入する。もう、この設定だけで、わくわくしてくる。 小説の楽しみのひとつに、未知の世界を知る、というものがある。恥ずかしながら、アイヌや戦時中の北海道についての知識が希薄だったので、たいへん興味深かった。 殺人事件が新たな殺人事件を呼び、ページをめくる手が止まらない。軍需工場から網走刑務所、アイヌの集落、南方の戦地まで、物語の世界が重層的に広がっていく。膨大な資料を読み込み、綿密な取材を重ねたことが、行間から伝わってくる。この小説では、戦前の日本の皇民化政策の影響が色濃く描き出されている。日崎八尋が皇国臣民としての誇りを持つ一方、民族のアイデンティティーを堅持しようとするアイヌもいる。そのグラデーションは、朝鮮人労働者の内部でも同様だ。 大和人がアイヌを、日本人が朝鮮人を、つまりマジョリティーがマイノリティーを描くのは難しく、勇気がいる。当事者からの厳しい評価にもさらされる。だが、そんな懸念はいらないだろう。俯瞰の視点と想像力を駆使して登場人物に寄り添う姿勢の両方が見事に生きていた。アイヌや朝鮮人の心理は、畳みかけるように連なる骨太なエピソードによって巧みに描かれる。日本人に過剰適応する彼らの姿や朝鮮人の間のヒエラルキーは、被差別民族の悲哀をさらけ出し、戦争の愚かさを炙り出す。 小説にとって大事なのは、書く側の「まなざし」だと思う。著者の社会への問いかけは、物語のなかに、あまたちりばめられている。もちろん、エンターテインメント小説に欠かせない驚きもしっかりとある。細やかな伏線と鮮やかな結末には、思わず唸ってしまった。 |
No.1 | 7点 | 政治的に正しい警察小説- 葉真中顕 | 2018/01/21 10:17 |
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「ポリティカル・コレクトネス」にとりつかれた作家の迷走を描く表題作は極端に走り面白いが、笑劇としての着地がもうひとつ。ただし、ほかの短編はみないい。
特に冤罪の顛末を捉えた「推定冤罪」は最後の最後(ラスト一行)に驚きの真相を明らかにして秀逸。偶然通りかかったカレー店で母親の思い出の味に再会する「カレーの女神様」は、しっとりとした叙情性のある作品かと思うと後半では視点が変わりグロテスクホラーに。植物状態になった祖父の願いを探る「リビング・ウィル」も終盤でがらりと転調して尊厳死の問題を突きつける。 この”テーマ主義”の特徴は児童虐待を扱った「秘密の海」でも顕著で、仕掛けを施した語りで切れ味の良い仕上がりを示す。注目の短編集だ。 |