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YMYさん
平均点: 5.88点 書評数: 306件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.246 7点 シンデレラの罠- セバスチアン・ジャプリゾ 2023/03/24 23:04
「私は二十歳の娘、事件の探偵であり証人、被害者であり犯人なのです。さて一体わたしは誰でしょう」という人を喰った極限的な筋立てを持つ虚構の世界。
プロットだけを追求した退屈な手品小説と一蹴する向きもあるが、御伽噺に使われるような文体で悲痛な物語を語っていくあたり、単なる知的ゲームに終わっていない。

No.245 4点 スモールgの夜- パトリシア・ハイスミス 2023/03/24 23:00
映画「太陽がいっぱい」や「見知らぬ乗客」の原作者として知られるハイスミスの最後の作品である。
ゲイの主人公リッキーと彼を巡る人々の話が、無機質と言ってもよいほど感情の稀薄な語りで綴られており、ミステリと呼べる要素はほとんどない。正直なところ、ハイスミスの熱心なファンでなければ、興味を失わずに読み通すのは難しいだろう。

No.244 8点 異常【アノマリー】- エルベ・ル=テリエ 2023/03/08 22:40
奇妙な状況に遭遇した人々を多彩な文体で描き出す、風変わりな群像劇だ。
殺し屋に小説家、弁護士に女優に建築家。様々な客を乗せて、旅客機はパリから飛び立った。だが、目的地ニューヨークの近くで、異常な乱気流に巻き込まれる。
第一部では年齢も職業も多様な人々のそれぞれの事情が、おのおの個性に合わせた文体でつづられ、その人々を乗せた旅客機がどんな事態に遭遇したのかが語られる。第二部以降では、人々が事態に対処し、それぞれの決断をくだす様子が描かれる。語りの順序にも工夫を凝らし、所々に遊び心のある仕掛けを配し、多様な人々のドラマを描き出す。
予備知識を仕入れずに読みたい、企みと仕掛けに富んだ小説だ。

No.243 7点 アリスが語らないことは- ピーター・スワンソン 2023/03/08 22:31
父を亡くした若者と、その継母の物語。
父が事故死したと知らされたハリーは実家に戻る。警察によると、殴られた痕跡があったという。死の真相に触れたがらない若い継母のアリスに、ハリーは疑念を抱くという現代の章と、アリスの生い立ちを語る過去の章が交互に並ぶ。
アリスの過去と現在との間に横たわる空白への関心が読者をひきつける。意外な驚きに満ちたサスペンスである。

No.242 6点 指差す標識の事例- イーアン・ペアーズ 2023/02/19 23:23
十七世紀、王政復古時代の英国を舞台にした歴史ミステリである。
四人の語り手が書いた手記を継ぎ合わせた構成になっており、それぞれを四人の翻訳者が担当するという凝った作りになっている。第一の語り手であるヴェネツィア人の青年が毒殺事件に遭遇することから話は動き出す。
彼の目に映った事件の様相と、第二の語り手のそれとはまったっく異なる。四つの手記を合わせると壮大な物語が浮かび上がってくる趣向となっている。

No.241 5点 灰の中の名画- フィリップ・フック 2023/02/19 23:07
作者は有名な絵画の鑑定士であり、いわば自家薬籠中の物を題材にしたわけである。絵画に対する蘊蓄や、美術業界の裏話めいた描写も専門的になりすぎず、程の良さを心得ている。また、美術の専門家がこれほど格調のある文章や、しっかりした構成の話を書けることに感心するばかりである。
内容としては、サスペンスものというより、サマセット・モーム張りのじっくりした味わいのある作品である。最後のオチめいた皮肉な結びも余計にその感じを強くさせる。

No.240 6点 ラスト・チャイルド- ジョン・ハート 2023/02/04 23:07
作者は、家族の軋轢や崩壊を、好んで取り上げるらしく、本書もそれを主要なテーマにしている。
主人公ジョニーは、十三歳の少年で行方不明になった双子の妹のアリッサを、友達のジャックの手を借りつつ捜索する。事件は子供の失踪が相次ぎ、さらに複数の遺体が発見されるに至って、異常犯罪者の犯行と分かる。ジョニーは、アリッサもその犠牲になったのではと必死に捜索を続ける。その執念が、物語をぐいぐいと引っ張る、大きな力として働く。
必ずしも、ハッピーエンドには終わらないが、崩壊した家族が別のかたちで再生しそうな予感を抱かせる締めは、この重い小説の救いになった。

No.239 5点 異時間の色彩- マイクル・シェイ 2023/02/04 23:01
宇宙から飛来した発光生命体によって未曽有の災厄に見舞われた谷間の村。その顛末を迫真の筆致で描いている。
一人称の回想記文体、大業な形容詞の頻出、老齢の知識人を主人公とする点など、作者は敬愛する先達のスタイルを律義に再現して見せるが、後半の怪生物による殺戮シーンでは、グロテスクな描写の本領を発揮して、独自色を打ち出している。

No.238 5点 女彫刻家- ミネット・ウォルターズ 2023/01/25 22:34
母と姉とを殺害、斧で死体をバラバラにしたオリーヴ・マーティンは、無期懲役の判決を受け、刑務所に収容されている。彼女の事件を本にするため、フリーライターのロズが取材を始めた。オリーヴ自身の話を聞いたり、弁護士に会ったりしているうちに、無実ではないかとの疑問を抱く。
捜査を担当した元刑事にロズが会い、この物語の役者がそろうと、関係者たちの過去が次々と暴かれる。さまざまな人間模様をストーリー展開の中に織り込みつつ、犯人追求が続く。
異常に太ったオリーヴ、その父、隣人、元刑事らユニークな登場人物が忘れられない。そしてショッキングな幕切れも。

No.237 7点 東の果て、夜へ- ビル・ビバリー 2023/01/25 22:25
犯罪小説、ロード・ノベル、少年の成長物語という三つの要素を兼ね備えているが、それらの要素がことごとく定型を裏返している。十五歳の主人公はボスである叔父の命令で、弟らと四人でLAから五大湖のほうへ、日本列島が横に二つ並ぶほどの距離を車で向かう。ロード・ノベルの旅は、当てもないか善意の目的が多いのに反して、本書は裏切り者を殺すため。普通ニューヨークあたりから西行きの話が多いのに、これも逆だ。
旅の一同は黒人。白人たちに怪しまれないようにドジャースのファンを装うが、むしろドジな連中で、ご難続きなのはロード・ノベルの常道とはいえ、道中の仲間が増えていかない点が斬新だ。

No.236 6点 優しすぎて、怖い- ジョイ・フィールディング 2023/01/11 23:12
社会的地位があり、世間の信望も厚い夫に記憶を失った妻が、次第に抱き始める疑惑。ジェーンの一人称でストーリーは展開され、記憶を失っている不安が次第に募ってくる夫への不信感として成長し、自分すらも信じられない状況に陥る主人公の心理描写が秀逸である。
主人公の女性が記憶を失わなければならなかった理由は、病んだ現代社会を反映したテーマであり、そこに作者の深い問題意識が読み取れる作品である。

No.235 6点 五番目の女- ヘニング・マンケル 2023/01/11 23:05
ヴァランダー刑事の粘り強い捜査によって繋がりのなさそうだった二つの事件は、次第に奇妙なシンクロを見せ始める。無残にも串刺しで殺された老人と、姿を消した花屋に共通するものは何か。事件が解決へと向かう精緻な展開と鋭い社会性はお見事。

No.234 6点 緋色の迷宮- トマス・H・クック 2022/12/27 23:25
写真店を経営しているエリックは、教職につく美しい妻とおとなしい息子との生活に満足していた。だがある日、八歳の少女エイミーが行方不明になり、ベビーシッターの息子キースに疑いがかかる。誘拐して性的暴行に及び殺したのではないかというのだ。
ここでは誰もが弱さを抱え、癒えぬ傷を持ち激しい不安の中で生きていて、ある者は倒れ、ある者は破滅へと突き進む。人々は対峙し交錯し事実を探り合い、奥深く埋め込まれた謎を解き明かしていく。
その巧妙な仕掛け、堅牢なプロットはさすがで、前三作には及ばないものの、それでも小説の醍醐味を十分に味あわせてくれる。読後感は苦く厳しいけれど、それでも随所で語られる諦観は人生の真実を照らしている。

No.233 4点 記憶を消した少女- グロリア・マーフィー 2022/12/27 23:18
母親の殺人現場を目撃して心に傷を負った少女という設定は珍しくないし、登場人物も限られているから、真犯人の見当もすぐにつく。
シンプルすぎる構成だが、じっくり書き込んであり飽きさせない。静かなサスペンスが持続していくが、途中でもう少し山場があった方がより効果的だっただろう。エミリーの心の深層に潜む謎と、彼女の奇矯な言動はかなり強い印象を与えるが、それだけに後半の彼女の変化はやや唐突。

No.232 6点 カルカッタの殺人- アビール・ムカジー 2022/12/14 23:11
一九一九年の大英帝国植民地下のインド、カルカッタを舞台にした歴史ミステリ。元スコットランド・ヤードの警部を主人公に混沌の地カルカッタでの殺人事件を悪戦苦闘を描いている。
本作で扱われるのはガンジーが不服従運動を開始した時代であり、民族運動の高まりによる緊張感が読みどころ。主人公と現地の人々、同僚のインド人新米刑事や混血の美女アニーとの交流の中で改めて浮き彫りになる当時の人種問題は、ポピュリズムから不寛容な時代となりつつある現代にも通じるものだ。

No.231 5点 七つの墓碑- イーゴル・デ・アミーチス 2022/12/14 23:06
二十年の服役を終えたばかりの元マフィアの男ミケーレが、ミケーレを含む七人の犯罪者たちに暗殺予告を出した謎の連続殺人犯・墓堀り男と対決するまでを描くロード・ムービー的な怪作。
実質的なデビュー作とあってストーリー・テリングに粗い部分もあるが、登場人物たちの殺伐とした数々の犯罪を描いているにもかかわらず、ミケーレの行動はなぜか謎の爽快感がある。言葉少なで古典小説を好む内省的な主人公像も面白い。

No.230 5点 カジノ- ニコラス・ピレッジ 2022/12/02 23:14
ともにシカゴ時代に暗黒街に身を置いた友人同士でありながら、フランクの妻ジェリをめぐって、仲たがいするフランクとスピトロ。
ギャングとその関係者の人間模様もさることながら、知られざるカジノの舞台裏が詳しく描かれている点でも興味深い。その代表的なものがスキミングと言われる、いわゆる賭博の売り上げのごまかし。
取り締まる側の賭博管理局や州のゲーム委員会も、、監視カメラの設置や抜き打ち検査など、あらゆる手段で対抗。その駆け引きは一流のスパイ小説以上。

No.229 5点 わたしの名は紅- オルハン・パムク 2022/12/02 23:07
十六世紀のコンスタンティノープルを舞台にした、トルコの歴史ミステリ。
フーダニットで、容疑者は二人に限定される。章ごとに語りの視点が変わり、殺人者の章もあれば、容疑者の章もある。容疑者三人は細密画師なのだが、彼らの細密画に対するスタンスの違いを理解することで、殺人者もわかるという作者からの挑戦が感じられる。

No.228 5点 二つの時計の謎 アジア本格リーグ2- チャッタワーラック 2022/11/18 23:26
マフィアの姿も見え隠れするハードボイルド仕立てながら、クロフツの有名作品をもとにした犯行が描かれる。
クロフツのトリックのような精緻なアリバイを犯人は試みたはずだったが、タイのゆるやかな空気の中、事件は当初の計画とは違う方向に転がってしまった点にとぼけた味がある。

No.227 6点 裏切りの紋章- ドナルド・ジェイムズ 2022/11/18 23:20
登場人物はいずれも曲者ぞろい。前半は見事なサクセス・ストーリーで、二人の兄弟が懸命にのし上がっていく様がスリリングに描かれ興味をそそる。後半になって、一族の生臭い闘争シーンに突入するや、殺伐というよりドロドロした人間模様が描き出されて、異様な雰囲気を漂わせている。通俗に陥りがちな設定にもかかわらず、風格を感じさせる。

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