皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
小原庄助さん |
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平均点: 6.64点 | 書評数: 260件 |
No.20 | 6点 | 誰かが見ている- 宮西真冬 | 2017/08/04 10:17 |
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一作家一ジャンルというほど個性的なミステリ作品を世に送り出しているのが、メフィスト賞である。
昨年受賞作はなかったが、今年はこの作品が受賞。 受賞者OBの辻村深月に惹かれて応募したというが、なるほど女性たちの思いをしかと見据えていて、読み応えがある。 毒に満ちた本音がささやかれ、ママ友から排除され、家庭でも夫と子供にいとわれる女たちの衝突は、人間の嫌な部分を掘り下げるイヤミス的展開をたどり、実に息苦しい。 だが、中盤に意外な真実を明らかにして驚きを与え、緊張感を高め、最後は感動的な夫婦・親子小説に着地するから目頭が熱くなる。 人物像もプロットもテーマも良く、辻村深月なみの書き手になるかも。 |
No.19 | 7点 | コードネーム・ヴェリティ- エリザベス・ウェイン | 2017/07/31 10:14 |
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敵地に潜入した工作員の物語-ただし、典型的なスパイ小説や冒険小説とはだいぶ趣向の異なる作品。
時は第二次世界大戦中で、フランスに潜入した英国工作員の女性が捕らえられ、親衛隊将校は、彼女に英国の情報を書くことを強要する。 その手記には、ある思惑が隠されていた・・・。 本書は2部構成で、第1部は捕らえられたスパイの手記、第2部はまた異なる視点からの物語がつづられる。 叙述に仕掛けを凝らした超絶技巧のサプライズとは若干毛色が異なるけれど、ああ、そういうことだったのか-とすべてがつながっていく過程に、ミステリとしての快楽を堪能できる。 物語の根幹に関わるため詳述できないのが残念だが、驚きを感動に変えてみせる物語の構築も実に巧妙。 |
No.18 | 6点 | インフェルノ- ダン・ブラウン | 2017/07/28 10:32 |
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宗教象徴学の教授ラングドンが事件に巻き込まれながら歴史上のミステリや不可解な暗号に挑むシリーズ。
見知らぬ病室で目を覚ましたラングドンは、なぜ頭部に傷を負ったのか思い出せない。そこへ拳銃を持った女による突然の襲撃があり、一緒にいた女性医師とともに脱出。 やがて、次々と教授らに襲いかかる事件を解く鍵が、中世期末からルネサンス期のイタリアの詩人ダンテの代表作「神曲」の「地獄篇(インフェルノ)」にあることが判明する。 後半では、地球規模で増大する人口問題も重要なテーマに。 良く練られた物語だと感じさせられる一方で、ダンテの神曲と現代の謎との絡み方に多少の弱さを感じたのも事実。 |
No.17 | 6点 | ユートピア- 湊かなえ | 2017/07/23 11:01 |
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海辺の町で出会い、ボランティア基金「クララの翼」を設立した3人の女性の葛藤に過去の殺人事件を絡めている。
変な言い方になるが、悪意が潤滑油となって抑圧していた欲望が解き放たれてドラマが加速し、対立が激化していく。 心理小説的な側面が強く、女性たちの居場所探し、理想郷を求める感情のねじれ具合を丁寧に捉えている。 菜々子と光稀の娘たちの絆の強さが、秘められた事件の真相を露にする終盤の展開がなかなか面白い。 |
No.16 | 7点 | ヴェサリウスの秘密- ジョルディ・ヨブレギャット | 2017/07/20 09:56 |
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引き算でシンプルにまとめた小説もあれば、足し算で豪華に仕上げた小説もある。
この作品は足し算の力で圧倒している。 19世紀末、万国博覧会開催を控えたバルセロナが舞台。 主人公はダニエル記者と医学生の3人。 それぞれに苦難と秘密を抱えて、それぞれの物語が重なり合って大きなうねりを生み出している。 16世紀の医師の著書に隠された驚くべき秘密、バルセロナの地下空間での冒険など、物語を彩る要素も豊富。 分厚いけれども一気に読ませる波乱と驚きに満ちた作品。 |
No.15 | 6点 | 地下道の鳩- ジョン・ル・カレ | 2017/07/16 08:47 |
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スパイ小説の巨匠による回顧録。
世界各地での取材時のエピソード。映画監督、俳優、政治家といった人々との出会い。英国諜報機関に在籍中の思い出。小説の登場人物のモデルになった人々。創作についての考え。それぞれ独立した38章に、さまざまな秘密が記されている。 ル・カレの小説には、記憶に残る小さなエピソードがいくつも散りばめられているが、それは本書も同じ。 時には短編小説のような味わいもあり、ファンにはもちろん、重厚なイメージゆえにル・カレを敬遠していた方にもおすすめしたい。 |
No.14 | 6点 | 三銃士の息子- カミ | 2017/07/13 09:58 |
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抱腹絶倒のフランス作品。
主人公が「三銃士」のダルタニャン・アトス・ポルトスの全員を父とする(この設定も荒唐無稽だが)三銃士の息子。 この主人公が、美しい娘のために悪い公爵への報復を果たそうとスペインに行く道中が描かれる。 ユーモアたっぷりの描写とダジャレの連発とはいえ、この三銃士の息子はなかなか機知に富み、事件を鮮やかな手さばきで解決するばかりか、最後にはほろりともさせてくれる。 作者自身のイラストも楽しいし、原文にないダジャレを創作してしまった翻訳も素晴らしい。 憂鬱を吹き飛ばすのにうってつけの作品。 |
No.13 | 8点 | IT- スティーヴン・キング | 2017/07/10 09:40 |
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デリーという架空の街を舞台にしたこの物語は、1958年と1985年の二つの時間を自在に行き来する。
登場するのは七人の少年と少女。 彼らの子供時代と成人後のストーリーを交錯させながら、デリーという街のある「災厄」が描かれていく。 ピエロ、吸血鬼、ゾンビ、宇宙人、そして巨大な蜘蛛。 ありとあらゆる恐怖のシンボルと同時に描かれるのは、この世界にある現実の恐怖。 子供たちのモンスターとの闘いは、社会的暴力との闘いでもある。 そういう意味でもこの作品は、極めて優れた「社会学小説」と言える。 |
No.12 | 7点 | バン、バン!はい死んだ- ミュリエル・スパーク | 2017/07/07 09:10 |
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異彩を放つ粒よりの短編集。
「双子」では美しい双子を持つ夫婦と独身女性の交流がつづられ、人間の負の側面がじっくり味わえる。 どのエピソードも日常にありそうなことなのでいっそう怖い。 乾いた語り口が滴るような悪意を際立たせている。 「ポートベロー・ロード」「遺言執行者」はユーモアを漂わせながらも、あざけるような筆致に毒がたっぷり。 どの作品も後味は悪いが、妙に心に食い込んでくる。 そこが作者の魅力と言える。 |
No.11 | 5点 | デビル・イン・ヘブン- 河合莞爾 | 2017/07/04 10:10 |
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近未来の東京を舞台とした警察サスペンス。
日本ではいま実際にカジノ法案を成立させようという動きが活発になっているが、本作はそんな現実を生々しく物語に取り込みつつ、未来の東京の姿を大胆なフィクションに仕立てている。 青い目をした伝説のギャンブラー、「黒い天使」のカード、巨大なタワー、「死神」の登場など、けれん味たっぷりの設定を前面に押し出している。 しかし同時に事件の背後にあるたくらみを知ると、どこか虚構とは思えない恐ろしさが感じられる。 |
No.10 | 7点 | 三秒間の死角- アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム | 2017/07/01 10:37 |
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警察の潜入捜査官パウラは麻薬シンジケートをつぶすため、囚人を装い刑務所で活動することになる。
危険な潜入捜査の緊迫感が、作品全体にピーンと張りつめており、舞台が刑務所に移るとさらに強まり、ページをめくる手が止まらなくなる。 非情で利己的な政府首脳と比して、孤独なパウラの計画がいっそう鮮やかに感じられ、喝采を送りたくなる。 見事に構成された冒険小説。 |
No.9 | 6点 | 暗殺者の鎮魂- マーク・グリーニー | 2017/06/28 09:58 |
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逃亡中のグレイマンは偶然、昔の恩人の死を知り、墓参りに向かう。
だが、そこで恩人の子供を宿す夫人を含む家族を救うため、麻薬カルテルと戦うことに。 今回のグレイマンは組織のためではなく、個人的な恩義のために奮闘する。 前2作よりグレイマンの人間的な面が強調されているが、超人ぶりは相変わらず。 絶体絶命の状況を卓越した能力で次々と切り抜けていく姿は痛快そのもの。 その策略が荒唐無稽ではなく論理的なのも、このシリーズの魅力でしょう。 |
No.8 | 7点 | 彼らは廃馬を撃つ- ホレス・マッコイ | 2017/06/25 10:18 |
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不況のさなかの1930年代、夢を求めてハリウッドにやってきた男女が、過酷なマラソン・ダンスに挑む。
狙うは賞金と、映画関係者の目にとまること。 競技では何組もの男女が踊り続け、競技中に起こるさまざまな事件が、そして男女の心情が描かれる、 狂騒の中で、スポットライトを浴びることなく消える男女を描いた小説。 殺す者と殺される者でありながら、2人の間に憎悪はない。 題名と呼応する最後のセリフが、居場所を見つけられなかった者の悲しみと絶望を浮かび上がらせる。 夢を見ることと、その冷酷な結末が長く胸に残る。 |
No.7 | 7点 | ブラックサンデー- トマス・ハリス | 2017/06/22 09:45 |
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米政府の対イスラエル武器供与に報復するため、パレスチナゲリラが大規模なテロを計画するというのが大まかな筋。
作者は元々、米大手通信社の敏腕記者。 取材で得た膨大なデータで物語をよりリアルに描写していく。 ページをめくるたび、犯人グループの緻密な計画が現実味を帯びていき、犯人を追うイスラエルの情報機関の精鋭部隊、FBI捜査官たちの具体的な対抗策を垣間見ることもできる。 刊行は40年以上前だが、この物語は異様なほど現代の国際情勢や頻発するテロ事件と重なる。 過激なテロ実行犯たちが同作を参考にしているとは考えたくないが、それほど現実に世界各地で起こっている悲劇と、想像の産物である小説が示すメッセージが合致してしまう。 ソフトターゲットテロに備える意味でも、悲しいかな本書は秀逸といえる。 |
No.6 | 6点 | ノア・P・シングルトンの告白- エリザベス・L・シルヴァー | 2017/06/19 16:46 |
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自身の生い立ちから裁判までを語る、ノアのシニカルな口調が忘れがたい。
過去の回想と獄中の現在を行き来しながら、予想を覆す展開が連続する。 ノアのユニークな人物像と、驚きに満ちた結末が記憶に残る作品。 |
No.5 | 5点 | 報復- ドン・ウィンズロウ | 2017/06/19 16:41 |
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テロとの戦いをテーマにした冒険小説はすでに数多く書かれているが、この作品もその系譜に連なる作品。とはいえ、この作者にしてはかなりの異色作。
旅客機爆弾テロで、妻子を失った元特殊部隊員が、資金を集め、傭兵を集め、自らの手でテロリストをかりたてる。 作者の魅力である独特の語り口をあえて抑えて、ぜい肉をそぎ落とした文体で語られる物語。 テロリストに対する、そして祖国アメリカに対する怒りをも内包した作品。 |
No.4 | 6点 | 伴連れ- 安東能明 | 2017/06/14 19:52 |
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少年犯罪・ストーカー・医療過誤・介護など現代的なテーマを積極的に扱っている。
しかもその問題点をえぐりつつ、展開にひねりをきかせ、予想外の結末へと導いていく。 とくに二転三転する「Mの行方」と表題作が秀逸。 毛並みはいいものの、いかにも現代的で責任の重さをしかと認識できない女性刑事が成長していく姿と、やり手の女性署長との対峙とサポートなど本筋を支える脇筋も悪くはない。 |
No.3 | 5点 | ジョニー&ルー 絶海のミッション- ジャック・ソレン | 2017/06/14 19:45 |
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「ジョニー&ルー掟破りの男たち」の後日談。
盗まれた美術品を盗み返す怪盗、ジョニーとルー。 新たな依頼の背後には、世界をまたにかけた謀略が。 クライマックスは日本が舞台になるところも興味深い。 大味な作りではあるけれど、豪快な展開と緊密なアクションで読ませてしまう勢いあふれる作品。 |
No.2 | 5点 | 樫乃木美大の奇妙な住人 長原あざみ、最初の事件- 柳瀬みちる | 2017/06/11 16:43 |
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引っ込み思案の主人公とその仲間がアクリル造形が変形した事件、図書館脅迫事件、クリエーターをめぐる醜聞を追及していく。
キャラが生きる要素は仲間と舞台と事件だが、個性的な「ぼっち」(ひとりぼっち)たちを集めて謎を解くグループを作ったところに新しさがある。 しかも舞台は美大で独特の雰囲気があるし、事件は日常の謎でも考え抜かれている。 キラキラした青春ミステリ |
No.1 | 6点 | さよなら、シリアルキラー- バリー・ライガ | 2017/06/11 16:18 |
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主人公は、幼いころから父親に殺人のノウハウを教えこまれて育ったため、連続殺人犯の心理と手口がありありと感じ取れる。
そして死体や現場を冷静に分析しながらも、もしかしたら自分も父親のような変質的殺人者になるのではないかと恐れている。 意表を突く設定と、異様な緊迫感と、思いがけない展開で楽しめる。 |