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小原庄助さん
平均点: 6.64点 書評数: 261件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.61 8点 大江戸釣客伝- 夢枕獏 2017/11/17 10:42
江戸時代は大変な釣りブームであった。武士から庶民まで、われもわれもと釣りに出掛けた。釣りの入門書、釣技の秘伝書、釣場案内、魚料理の本などが数多く書かれ、釣り針なども魚種ごとにさまざまなものが作られていた。すぐ目の前に、豊富な魚介類に恵まれた江戸前の海があったればこそである。
本書は17世紀後半から18世紀までの、江戸の町と海を舞台に、釣客すなわち釣りに興じた人々を描いた物語である。史実と虚構を織り交ぜ、実在の人物を配しながらのミステリであるとともに、元禄期の時代相や当時の釣りの模様を記すエッセーであるという、なかなかユニークな作品である。
物語は、小舟でキス釣りに出た宝井其角と多賀朝湖が、釣りざおを握った老人の土佐衛門を釣ってしまうところから始まる。やがて津軽采女が登場し、紀伊国屋文左衛門や吉良上野介義央、水戸光圀、さらに徳川綱吉らが話に絡んでくる。采女は、実在の四千石の旗本で、わが国初の詳細な釣りと釣り具の解説書「何羨録」を著した人物である。
物語の背景にある二つの歴史的な事件も、分かりやすく語られる。一つは1684年の大老堀田正俊暗殺事件。もう一つは殿中松之廊下の刃傷に始まる赤穂事件。いずれも綱吉の治世で、江戸城中で起こった事件だが、物語にどう絡むのかは、ぜひ本書をお読みいただきたい。
本書の核心は「何羨録」に先立つ幻の釣技秘伝書とされる「釣秘伝百箇條」の作者、投竿翁についての部分である。投竿翁とは何者なのか・・・。
本書は主に、キスとハゼの江戸期の釣りを記すが、釣りファンであれば読み進むに従い、早く竿を握りたくてむずむずするに違いない。

No.60 6点 大幽霊烏賊 名探偵 面鏡真澄- 首藤瓜於 2017/11/15 10:07
江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作「脳男」とは大きく異なるタイプのサイコミステリ。
昭和の初め、新米医師の使降は、日本で最初にできた精神科専門病院へ赴任してきた。実在する病院をモデルに、昭和初期の精神医療の実態を背景にしながらも、作者ならではの迷宮世界を構築して、読者をどこまでも惑わせる小説になっており、あらゆる登場人物が怪しげだ。
いくつかの仕掛けや真相は、勘のいい読者ならば途中で気付く場合もあるでしょう。だが、そうした細部だけにこだわるのは、やぼというもの。
さまざまな人物の心の謎、精神の不可思議な世界をめぐるミステリとして堪能しつつ、不気味さの漂うホラー及び壮大なほら話の一種としてたっぷりと楽しんでほしい。

No.59 9点 最初の刑事:ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件- ケイト・サマースケイル 2017/11/12 10:38
のどかで美しい英国の田園地帯にたたずむカントリーハウス。富裕層の富と権力の象徴であったこの田舎の大邸宅は、ジェイン・オースティンの「高慢と偏見」をはじめ、いくつもの古典文学の舞台として、愛用され、多くの読者を魅了してきた。と同時に、シャーロック・ホームズやエルキューレ・ポアロといった名探偵が鮮やかな推理を披露する場として、世界中のミステリファンに親しまれてきた。
幸福な外見の裏に多くの秘密を抱えた善良な一族、怪しげな使用人、一族に反感を抱く地元民、無能かつ尊大な田舎の警察官、そして奇矯な振る舞いとは裏腹に鋭い推理で意外な真相を見抜く名探偵。誰もが一度は触れたことがあるに違いない定番ともいえるこのスタイルは、いつごろ、どうして誕生したのか?そんな疑問に答えてくれるのが本書だ。
1860年初夏、イングランド南西部の閑静な村に立つ「ロード・ヒル・ハヴィ」で、3歳になる当主の息子が惨殺された。スコットランド・ヤードから派遣された刑事課のプリンス、ウィッチャー警部は、現場の状況から内部の者による犯行だと確信。だが、プライバシーと家庭生活を礼賛する「常識」の壁の向こうで、欺瞞と隠蔽が複雑に絡み合う中、捜査は暗礁に乗り上げる。当時普及し始めたメディアである新聞が事件を書き立て、ビクトリア朝時代の大帝国に、他人の罪や受難をのぞき、詮索し、つつき回したいという探偵熱が巻き起こる。
ウィルキー・コリンズやコナン・ドイルといった大衆文学作家に多大な影響を与え、英国探偵小説の定番が誕生する礎となったこの事件を、作者は当時の一次資料を基に伝説的なミステリの手法を駆使して鮮やかかつスリリングに再構築した。事実のみが与え得る意外な真相に思わずため息が出るノンフィクションであると同時に、謎解きミステリとしても堪能出来る傑作。

No.58 6点 有楽斎の戦- 天野純希 2017/11/11 10:27
本書には短編6作が収録されている。そのうちの3作で主人公を務めのが織田有楽斎。織田信長の弟でありながら、戦が嫌いで、茶の湯を愛する。戦国武人から臆病者として、侮られている人間だ。
その有楽斎が、本能寺の変、関ケ原の戦い、大阪の陣という戦国の転換点で、ぶざまな姿を見せ続ける。でも、それがいい。荒々しい戦国時代になじむことが出来なかった有楽斎が、最後に得た希望から、人の生きる意味が見えてくるのだ。
さらに有楽斎の人生に重ね合わせるように、本能寺の変に遭遇した博多商人の島井宗室、関ケ原の戦いを引っかき回す小早川秀秋、大阪の陣で失意にまみれる松平忠信の物語が収録されている。
これにより戦国時代が、立体的に感じられるようになっているのだ。各作品の面白さは当然として、ユニークな構成が、本書の価値をより高めているのである。

No.57 6点 ルパン、最後の恋- モーリス・ルブラン 2017/11/09 09:41
知性の権化のようなシャーロック・ホームズと違い、洒脱なる言動に激情を秘めたルパンの冒険は、謎とロマンに満ちた壮大な舞台設定が真骨頂。
この作品も、英仏帝国にまたがる国際的陰謀から高貴なヒロインを救うべく、縦横無尽の活躍を見せる。強きをくじき弱きを助ける”義賊魂”も枯れていない。
ただ、そんな生き方に「もう飽き飽き」と語り、疲れを感じさせる場面も。スラムの子供たちを励まし、教育を通じた社会改革を熱く語る姿は、「奇岩城」「813」の彼とは明らかに異質。
訳者あとがきには、手書きの推敲が残る約160枚のタイプ原稿がお蔵入りとなった後、自宅クロゼットにしまい込んだ孫娘が、解禁するまでの経緯も綴られ、興味深い。

No.56 7点 都市と都市- チャイナ・ミエヴィル 2017/11/09 09:40
2009年発表直後から評判を呼び、SF、ファンタジーの両分野で主要5賞に輝いた作品。
もっとも、冒頭は一見ごく普通の警察ミステリ。時は現代、所は南欧の(架空)都市国家ベジェル。
郊外で若い女性の刺殺死体が見つかり、ボルル警部補は、所轄の若い女性刑事とコンビを組んで捜査を開始する。だが、舞台の都市は全然普通じゃない。
ベジェルにはもうひとつの都市国家ウル・コーマが地理的に重なって存在するが、両国の国民は互いに相手国が存在しないかのようにふるまう。たとえ目の前にいても(建前上は)相手国民の姿は見えず、声も聞こえない。
この突拍子もない設定が、作者の手にかかるとだんだんリアルに思えてくるから不思議。
SFのテーマを警察ハードボイルドのスタイルで描く、前代未聞の都市小説。

No.55 4点 弁護士探偵物語 天使の分け前- 法坂一広 2017/11/06 12:05
もしフィリップ・マーロウが日本の弁護士だったら・・・と表現するならそんな小説。
主人公の「私」は福岡県の弁護士。被告人の弁護を担当した母子殺害事件をめぐって、お役所体質の裁判所や検察と真っ向から衝突。司法に見切りをつけた「私」は逆境を乗り越え、事件の裏に隠された巨悪を暴いていく。
全編が主人公のマーロウ風の語りで進行。ブルースをBGMにウイスキーを飲み、危機的な場面でもシニカルに自嘲してみせる。美人に対しては、挑発的なせりふで愛を表現。ただし、マーロウほどの達観した印象はなく、やや意固地に感じられるときもある。そこに人間くさい愛嬌を見出すか、鼻につく自己愛だと受け止めるかが、好き嫌いの分かれ目でしょう。
本作の刑事司法のリアルな内幕描写には、現場に身を置く弁護士ならではの説得力がある。作品の底流に作者の切実な問題意識があるのでしょう。シニカルな語り口は、正義の代弁者然となってしまうことを避けようとした、作者の照れ隠しとも取れる。

No.54 7点 銀の島- 山本兼一 2017/11/04 18:59
フランシスコ・ザビエル来日の裏で進められていたポルトガルの陰謀を壮大なスケールで描いている。
アジアで布教を行っていたザビエルは、ゴアで洗礼を受けた安次郎らとともに来日する。そのころ、日本に多量の銀があるとの情報をつかんだポルトガルの軍人バラッタは、国王に石見銀山の占領を進言、敵情視察のため日本を訪れる。やはりポルトガル国王の支援を受けてきたザビエルも、バラッタの陰謀に巻き込まれていくが、それを知った安次郎はザビエルと決別。明の大海賊・王直に助けを求める。
石見銀山の占領計画はフィクションだろうが、アメとムチを使い分けて南米やアジアに広大な植民地を築いた西欧列強の手法をベースにしているので、本当にあったのではと思わせる迫真力がある。それだけに、外交能力も軍事力も劣っている日本が、バラッタに戦いを挑む展開は、政治サスペンスとしても、海洋冒険小説としても秀逸だ。
多くの武将が石見銀山を狙っている事実を知ったバラッタは、特定の武将に武器と資金を提供することで銀山の開発権を手に入れようとするが、これは現代の先進国が、資源の豊富な発展途上国に介入するときの構図と同じである。
まだ途上国だった日本が直面する外交的な危機は、今や先進国になった日本が、適切な外交をしているかを考えるきっかけになるのではないだろうか。

No.53 8点 アンダー・ザ・ドーム- スティーヴン・キング 2017/11/03 13:09
良くも悪くも過剰に物語るのがキングである。
小さな町が突如、透明なドームに囲まれてしまう。空高く、また地中深くまで障壁が及び、かろうじて空気と水と電流を通すのみで、住民たちはパニックに陥り、すさまじい戦いが発生する。
という紹介をするとドームの存在の解明と新たな戦闘を期待してしまうが、それは終盤あっさりと片付けられる。作者の眼目はあくまでも町を舞台にした群像劇にある。住民たちが持つ恐れ、憧れ、悔い、憎しみといったものが異常な状況下で顕在化し、エスカレートしていく恐怖をとことん描いている。そして数十人の人生模様を鮮やかに交錯させていく。
同じくモダン・ホラーの旗手ディーン・クーンツなら急発進、急ブレーキ、急ターンのジェットコースターを体験させてくれるが、キングはあくまでも優しく劇的に進路を変え、住民たちの人生と内面をクルージングする。
クーンツは愛と希望を主人公に即して感情豊かにうたいあげるけれど、キングは感情を表白させつつも象徴の極みへと向かう。
冗長だが、代表作であることは間違いないでしょう。

No.52 5点 遠い唇- 北村薫 2017/11/03 13:08
七編からなる短編集でそのうちの数編は女性が語り手。
ミステリとしてはある男性人物の視点から江戸川乱歩の「二銭銅貨」の裏側を推理する「続・二銭銅貨」も興味深いが、やはり女性作家と名探偵がダイイングメッセージを解き明かす「ビスケット」が面白い。
短詩型に造詣の深い作者は、巧みに俳句や短歌を引用して、隠された人物の思いを引き出し、女性たちの心象風景をしっとり映し出す。
完成度はやや甘いけれど、叙情が心に残る。

No.51 7点 深い疵- ネレ・ノイハウス 2017/10/30 19:02
ドイツで累計200万部を超えたベストセラーシリーズの初翻訳。
ホロコーストを生き延びたユダヤ人として著名だった92歳の男性が殺害され、現場に謎の数字が残された。捜査にのりだす首席警部オリヴァーと部下の女性警部ピア。司法解剖の結果、被害者はナチスの武装親衛隊員だったという信じがたい事実が判明。第二、第三の殺人現場にも同じ数字が残され、被害者とナチスとの深い関係が浮かび上がる。
被害者たちの間にどんな関係があり、暗く悲惨な歴史と事件のつながりは何か?オリヴァーとピアはカギを握るとみられる旧家を調べ始める。
2人の緻密で精力的な捜査と並行して、一族をはじめ旧家に出入りする癖のある面々のたくらみや行動が多面的に描かれ、ストーリーはぐんぐん加速していく。
主人公たちの人物造形とプライベートの描写も興味深い。ベストセラーになったのも深くうなづける上質のミステリ。

No.50 7点 フィルムノワール/黒色影片- 矢作俊彦 2017/10/30 19:01
神奈川県警の主人公が、往年の美人女優から幻のフィルムと若者の行方を捜してくれないかと頼まれて、香港に飛んで調査する物語。
相変わらず生きのいい軽口、シニカルな観察、華麗な修辞と、”日本のチャンドラー”の真骨頂を見せているのだが、驚くのは次々と映画の引用と蘊蓄が繰り出されること。
映画オタク向けのレベルなので映画の知識がないと堪能しきれない面はあるが、失踪人捜しというハードボイルドの王道の設定をかりながら、ハリウッドや日活&東映映画、香港映画まで縦横に論じて、文化と精神風土をつまびらかにしていく才能は稀有である。

No.49 6点 暗闇の蝶- マーティン・ブース 2017/10/27 10:52
この作品は派手な仕掛けは一つもない。しかし読み終わったときに静かに心に染み入ってくる。
蝶を描く画家だというふれこみの男は、地元の人々と穏やかに交流しながら、ワインと美食を楽しみ、静かに暮らしている。ただし誰に対しても一定の距離を置き、決して本当の自分をさらけだすことはない。
一人称で語られる物語によって、少しづつ男の過去が浮かび上がり、やがて過去が影のように男につきまといはじめる。現在の穏やかな暮らしを愛しはじめていた男にとって、それはつらい選択を意味した。
かすかに諦念の漂う語り口と、芸術、文学、美食、ワインと多岐にわたる話題に魅了された。美しく、そして切ない小説である。

No.48 8点 白の祝宴- 森谷明子 2017/10/25 11:30
紫式部を探偵役にした時代ミステリ。
帝の寵妃・中谷彰子は、出産を記録するため女房たちに日記を書くことを命じ、まとめ役に香子(紫式部)を指名した。若君誕生の日、定子皇后の忘れ形見・敦康親王の屋敷に賊が侵入、手傷を負った賊は、彰子が宿下がりしていた土御門邸に逃げ込むものの、忽然と姿を消してしまう。
賊はただの物取りなのか、それとも彰子の子供を皇太子にするために、敦康の命を狙ったのか、香子は捜査を開始するが、今度は一条院内裏で呪符が見つかってしまう。
産婦に使える女房は白の衣装を着ていたなど、作中には平安朝の風俗も丹念に描かれているが、それが謎解きの鍵にもなっているので、緻密な構成には驚かされるでしょう。
女の嫉妬と欲望が渦巻く後官が舞台だけに、事件を複雑怪奇にする人間関係は”大奥もの”のような楽しさもある。盗賊消失の謎と呪符を置いた犯人が浮かび上がるにつれ、なぜ「紫式部日記」が書かれたのかという歴史の謎、文学の謎も明らかになるので、王朝文学が好きな人も満足できるように思える。

No.47 5点 自殺予定日- 秋吉理香子 2017/10/22 10:28
主人公の女子高生は、フードビジネスで成功した父親の数億円もの生命保険を手に入れるために、継母が父親を殺したと確信したのだが、肝心の証拠がなかった。
そこで死をもって継母の罪を告発しようと考えていく。
やや風水の話がうるさいが、意表を突く設定、ホラー的要素、ラノベ的キャラクター造形、料理と占いとビジネスに関する蘊蓄、そして友情と恋愛を盛り込んだ温かな結末と、現代エンターテインメントの販売戦略にのっとったかのような小説。

No.46 6点 怒り- ジグムント・ミウォシェフスキ 2017/10/22 10:23
海外ミステリーの原産国としては珍しい、ポーランドの作品。
ポーランドの地方都市で、検察官シャツキが難事件を追う物語。工事現場で白骨死体が掘り出される。シャツキは、第二次大戦中の死者の遺体だと考えた。だが、検視で意外な事実が明らかになる・・・とここまではスタンダードなミステリである。
だが、事件の真相が浮かび上がるにつれて、物語は途方もない展開を見せる。最後には、唖然とさせるところに着地する。
物語を支えているのは、検察官シャツキの人物造形だ。筋の通った偏屈者で、上司も部下も困惑させる。大事なものを守るためには手段を選らばない。
陰惨な事件を描きながら、ユーモアを感じさせる語り口も魅力的だ。

No.45 6点 真夏の雷管- 佐々木譲 2017/10/18 16:14
「笑う警官」に始まった北海道警察シリーズの最新作で、安心して読める佳作。
前半、少年たちの万引き事件や、万引きする少年の家族の背景などを捉えていて、個々の挿話は面白いものの、一体どこに話が向かうのかと思っていると、別々に起きた事件が次第につながり、ある爆破計画が浮かび上がってきて、物語が熱を帯びてくる。刻限サスペンスになり、刑事の佐伯たちが爆破犯の狙いを推理して各地へ奔走し、未然に防ごうとするが、どこで、どのような仕掛けで爆破するのか容易に見えない。
物語の心地よい疾走感と緊張感に包まれ、一気読みしてしまった。
とりわけチーム佐伯の交流をユーモラスに綴るエピローグがニヤリとさせて面白く、実に読後感もいい。

No.44 6点 地上最後の刑事- ベン・H・ウィンタース 2017/10/18 16:05
半年後に小惑星が地球に激突し、人類は滅亡すると予測されている近未来を舞台としている。
主人公はある事件に違和感を覚え、同僚の失笑にもめげず地道な捜査に取り掛かる。その誠実さ、ひたむきな正義感、若く傷つきやすい感性が物語の大きな推進力になっている。
人生の期限を切られ苦悩する登場人物たちの姿に、あらためて生と死をしみじみと考えさせられる。
地球の終末期を描いた作品は少なくないが、本作は悲壮感のさじ加減が程よく、会話も軽妙で、なによりも主人公が魅力的で惹きつけられる。

No.43 6点 フォマルハウトの三つの燭台<倭篇>- 神林長平 2017/10/18 15:59
最先端科学は難解だ。たとえば人工知能(AI)が人間の知性限界を超える「シンギュラリティー」以降の世界がどうなるのか見通すのは、文字通り人智を超える。あるいはそれは、日常生活と魔術や神話が地続きになったような世界かもしれない。
この作品は、伝説の燭台を巡る物語。この燭台を一つともせば自分自身を知り、二つともせば他者の視線で自分が見え、三つともせば世界の真の姿を体感できるという。
そんな神話ファンタジー風な序文で始まる小説の舞台は、なぜか近未来の長野県松本市周辺。おまけに登場人物の多くはとぼけた中年男たち。そこに伝説の燭台や、角のあるウサギ「ジャカロップ」、そして変な機器たちが登場して、型破りな事件を繰り広げる。
人間と機器たちの対話は、ちぐはぐで漫才のようだが、魔法の燭台が照らし出す世界像は衝撃的なものだ。

No.42 6点 消えた修道士- ピーター・トレメイン 2017/10/10 10:10
7世紀のアイルランドは、現代のわれわれから見れば異世界と言っていい。
だが、その世界を律する法は、男女の平等や民主的な手続きなど、現代的な特徴を備えていた。
アイルランド南西のモアン王国。王と、敵対する大族長とが和平を結ぼうとしていたが、何者かが両者を襲うという展開。
本作は権力者たちの謀略劇であり、裁判シーンでクライマックスを迎える法廷ミステリでもある。謎の戦士たちの襲撃に秘宝の争奪戦と、法廷ミステリらしからむ冒険活劇風の見せ場もたっぷり。
読者を異世界に誘いつつ、襲撃者の正体をめぐる謎解きを楽しめる作品。

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小原庄助さん
ひとこと
朝寝 朝酒 朝湯が大好きで~で有名?な架空の人物「小原庄助」です。よろしくお願いいたします。
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