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人並由真さん
平均点: 6.33点 書評数: 2034件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1934 6点 ミナヅキトウカの思考実験- 佐月実 2023/12/09 12:49
(ネタバレなし)
 水崎大学の新入生・神崎裕人は、新入生歓迎会の帰りに、夜の路上ですれ違った女性がいきなり全身発火して死ぬ怪事件に遭遇した。事情を聴取した警視庁捜査一課の棟方藤治刑事は何かの含みを込め、裕人に、同じ大学内のとある人物に会うように勧める。かくして過疎サークル「怪異研究会」の部室に赴いた裕人は、そこで美貌の先輩女子大生・水無月透華と対面するが、彼女は怪事件の陰に「案珍と清姫」伝説の清姫の存在を匂わせた。
(第一話「マクスウェルの悪魔」)

 プロローグとエピローグに挟まれた、全5編の連作ミステリ。基本的な内容は一応、謎解きものだが、正確にはもうちょっと幅が広い。

 若い作者(社会人の女性らしい)がそれなり以上に力を込めて書いた感じは伝わってきたが、全体的にキャラクターシフトもミステリの組み立て方の大半も、どっかで見たような印象。その辺は、ちょっと弱い。
(というか、こういうキャラクターミステリが好きそうな購読者狙いか。)

 いつか本物の怪異・妖怪に出会いたいメインヒロイン(探偵役)が、それっぽく演出された現実の人間によるオカルト犯罪をこれはニセモノ・まがい物だとバッタバッタ暴いていくという趣向は、ちょっと面白い? かとも一瞬、思った。
 でもまあ要は京極堂シリーズのアレンジだろうし、もっといえば伝記漫画の秀作(で評者の大好きな)『栄光なき天才たち』のハリー・フーディーニ編みたいだ。
 いやまあ本書の場合、その辺の文芸をちゃんと軸にしてあるのは評価しますが(ただし、その一方で、うん……)。

 全体に大味な反面、細部の工夫を拾うと意外に気が利いている? と思わせる部分もあり、トータルの評点はこんなところ。
 シリーズ化はされそうな気配もあるので、一応は意識のなかに留めておきます。

No.1933 8点 愚者の街- ロス・トーマス 2023/12/07 12:54
(ネタバレなし)
 1970年のアメリカ。「私」こと、米国の諜報機関のひとつ「セクション2」のスパイだったルシファー・C・ダイ(37歳)は、さる事情から組織を離れる。そんなダイに声をかけてきたのは、26歳の天才青年実業家ヴィクター・オーカットだった。オーカットの率いる組織「ヴィクター・オーカット・アソシエイツ」は、各地にある政治や経済・治安がまともでないスモールタウンの浄化を職業とする企業で、目的のためにはひそかな非合法活動も厭わなかった。オーカットの次の目標はメキシコ湾周辺の人口20万の小都市スワンカートン市。彼なりの思惑から、オーカットの仲間たちとともにこの計画に参加するダイ。だが、そこにダイの過去のしがらみが絡んできた。

 1970年のアメリカ作品。
 ロス・トーマスの第7長編で、ノンシリーズ編。

 今年の話題作で各誌のベスト級の作品なのに、本サイトは誰も読まない。トーマスの巨匠作家としての質的・量的な実績が大きいゆえにフリで手を出しにくいのかもしれんが、フツーに単品で一見で読んでも歯応えがあって、面白い。もったいないと思う。
(と言いつつ、評者自身も翻訳が出てから半年目で、ようやっと読んだが。)

 リアルタイムでのスワンカートン市での作戦の進行と並行し、かつて医者だった父とともに1930年代の末に上海に渡り、そこから数奇な運命をたどった主人公ダイの半生が、輪唱的に章を変えながら語られていく。

 現在と過去を行き来するドラマ(基本的に、輪唱のような二極の物語~いわゆるB・S・ヴァリンジャー風)が複合的にドラマを膨らませていくのはある種の王道だが、そのなかで下巻後半の展開に向けていくつかの布石も張られ、終盤では加速度的なクライマックスを迎える。

 もちろん話の主題的に『血の(赤い)収穫』や『殺しあい』(ウェストレイク)も作者の念頭にあったのだとは思うが、そういった現在と過去を並行させた構成、さらにトーマス調のノワール感の相乗で独特の読みごたえを獲得。
 登場人物も名前が出て来るキャラクターだけで100人前後だが、大方の描き分けもしっかりしている(一部は名前だけ出てすぐいなくなるが)ので、リーダビリティはかなり高い(会話が多い叙述も読みやすさの一因だ)。

 悪徳と血臭にまみれた物語ながら、物語の随所にどこかリリシズムが漂う……こう書いていくと、ある種の定番的な作品といった面も強いんだよな。
 でも、あちらこちらで意外なツイストを用意し、読み手の予断を裏切ってくれる面もある。
 大枠の安定感と、読み手を飽かさないスリリングさという意味で、たしかに秀作~優秀作ではあろう。
 
 評者自身、まだまだ邦訳が出ているもので未読のものもあるが、一方で、今後もトーマス作品の未訳作の紹介が進みますように。

No.1932 8点 幽玄F- 佐藤究 2023/11/30 02:59
(ネタバレなし)
 2008年。東京の四谷。8歳の少年・易永透は、高空を飛ぶ飛行機に憧れていた。そして操縦士になる人生の目標に憑りつかれた透は高校で、同じく空と飛行機に強い思い入れを抱く級友・溝口聡と出会う。それを機にまた、透の運命は大きく変わっていった。

 ポリティカルフィクションや航空冒険小説の要素も部分的にはあるが、主題は空に憑りつかれ、その憧憬の念の強さゆえにとんがった人生を送る主人公の結晶化されたドラマーー。
 狭義どころか広義のミステリとさえ言いにくいような作品だが、前述のようなある種の冒険小説的な後半の作劇も踏まえて非常に面白かった。
 というより、地の文のほぼ大半が「~だった」「~た」で終わる叙述や、人物描写の絶妙な積み重ねで織りなされていく、独特の個性を感じさせる小説としての味わいが素晴らしい。

 評者は作者の長編はこれで三冊目(『テスカトリポカ』のみ未読)だが、一作一作個々の興趣があり、その上でたぶん今回が一番、書きたいことの結晶感が高い。
 二重の意味で余韻のあるクロージングも心に染みた。
 
 特化した主題(航空もの)の作品ではあるが敷居はかなり低く、良い意味で口当たりは良い。
 作者が標榜する三島由紀夫作品への傾斜も、読者に三島文学の素養がないと楽しめないなどということもない(現に三島作品なんてまだ数冊しか読んでない自分も、何ら問題なく最後まですらすら読めた)。まあ三島世界に通じている読者の方が、本作のより深い読解ができるとかといったことはあるかもしれないが。

 今年の収穫といえる一冊、なのは間違いないであろう。

No.1931 7点 メルトン先生の犯罪学演習- ヘンリー・セシル 2023/11/26 01:04
(ネタバレなし)
 旧ジャケットカバーの蔵書を少年時代に買っているはずだが、例によって見つからない。
 で、何となく、最近になってなぜかこれが積極的に読みたくなって、ネットで同じ旧カバーの古書をソコソコ安い値段で買った。

 このところ少し忙しい(やや軽いワーカホリック)なので長編が読みにくいし、入れ子構造の連作短編集なら少しずつ楽しめるだろうと思ってページを開いたが……いや、結構面白い。

 目次を見ると20本近いネタが期待できるが、これがみんな先生の講義だったら後半にはさすがにマンネリになってくるだろうな、と思いきや、作者の方もその辺は十分に承知? と見えて、ちゃんとエピソードの提示にメリハリをつけてくる。

 そういう意味では後半の方が、幕間の叙述も込みで面白かった。
 特に新婚若夫婦の、二人きりでずっといるとマンネリになるので、二人きりの蜜月の価値を高めるため、いっとき、他人のあなたにそばにいてほしいと、メルトン先生に接近してくるあたりが妙にエロいというかヘンタイチックで爆笑した。これぞ英国王道のドライユーモア(たぶん少し違う)。
 終盤の挿話の(中略)ぶりも気が利いていて、一冊丸々楽しかった。セシルはまだ二冊目だが、先に読んだ『判事に保釈なし』よりずっとミステリ小説としての興趣に満ちた作品。

 ただし翻訳はちょっと凄いね。
「江戸の仇を長崎で」とか、貨幣の単位が円だとか、今なら確実に、おいおい……と言いたくなるような仕上がりで。
(ただまあ、その辺の昭和っぽさも含めて、どっか愛せる味でもあったんだけどね・笑。)

No.1930 8点 エレファントヘッド- 白井智之 2023/11/25 13:05
(ネタバレなし)
 序盤部で「え、こっちが(中略)」と軽く驚き、しかし油断はしないぞというつもりで、いつもの登場人物メモを取りながら読み進める。
 で、まあ、こういう作品なので……その人物メモも(中略)。

 白井節が炸裂した、悪趣味グロ、さらにスプラッター感覚まで滲ませた、しかして実によく練り上げた特殊設定パズラー。

 世界像はいささかややこしいが、ポイントの部分を咀嚼するとそんなに難しくもない? かもしれない。どこか藤子F作品に通じる部分もある。

 最後の大ネタ~(中略)ダニットには絶句。

 またひとつ、作者は異端の優秀作パズラーを著した、という感慨。
 体力のある人がすぐに読み返せば、いろいろと忍ばせてあった伏線の妙に驚きそうな作品である(いささか無責任な物言いだ・汗)。

No.1929 6点 小説版 ゴジラ-1.0- 山崎貴 2023/11/19 10:15
(ネタバレなし)
 1945年夏。零戦の特攻隊員として選抜されながら、生還して両親と再会することを悲願とした青年・敷島浩一は、愛機の故障を装い、整備兵のみが駐留する大戸島に不時着する。戦死した戦友への重い罪悪感に駆られながら欺瞞の生存の道を選んだ敷島だが、すでに敗戦を覚悟した整備兵たちはその選択を勇気ある行為だと受け入れた。だがそこに大戸島の伝説の巨獣「呉爾羅」が出現。十五mもの巨体に恐怖と神々しさを認めた敷島は零戦の機銃で応戦することが叶わず、彼の闘志の鈍化は多くの整備兵たちの犠牲の遠因となった。やがて迎える終戦。だが敷島の戦争はまだ終わっていなかった―。

 先日封切られた待望の国産新作ゴジラ映画の、公式ノベライズ。
 監督自身によるメディアミックスの小説化。

 ゴジラシリーズの前作『シン・ゴジラ』の公式ノベライズは出なかったし、アニメ作品や海外作品を別カウントにすれば、国産実写ゴジラ映画の公式ノベライズの刊行は、1999年の『小説ゴジラ2000』(Amazonで現在、古書価3万円だとよ!)以来、実に、およそ四半世紀ぶりである。
(あーあと、海外では出版されていて未邦訳の『ゴジラVSコング』のノベライズも、来年の新作『ゴジラXコング:ザ・ニュー・エンパイア』の日本公開にあわせて遅ればせながら、出してほしい。)

 で、新作映画の本編は、期待以上に出来が良かった。
 いや、ツッコミどころは皆無ではないが、得点要素の方から数えていけば十分に優秀作・傑作ではないかと。

 そんななかで映画の公開直後に、前述のように久々の国産実写ゴジラの公式ノベライズが刊行との情報を認め、ほぼ発売日にイソイソと新刊で買ってきた。

 ゴジラ映画の公式ノベライズなんて70年もの間にピンキリなので、期待値を高くすればキリがないが、いち早く読んじゃった人の下馬評がネットでたまたま目につき、(中略)ということなので、ソノつもりで読む。

 でまあ、これはこれでいいんじゃないか、という感じ。
 ストーリーは映画そのままだし、見せ場はどうしたって映画の迫力に及ばない面も多々あれど、一方で秀作映画の随所の細部を、監督自身が文章で相応に補完してある。良い意味での<水準的なノベライズ>。

 ソッチ方面の見識が薄い自分なんか、機雷の爆発メカニズムをきちんと説明してもらっただけでも、SFスーパーナチュラル存在のゴジラがいる世界を、現実と地続きのリアルな世界観にちょっとでも近づけ、引き寄せることができた。
(これって、マクリーンの『黄金のランデヴー』冒頭の銃器のリアル描写とかなどと、同じ効果だ。)

 まあ別の専業小説家のヒトに、改めて数年後にこの映画の大筋を踏まえて(多少アレンジしても可~むしろ適度に暴走して!)<本格的な小説>として、再度、肉厚にノベライズしてほしい気もするけどね。
 今回の映画そのものが、そういう伸びしろも十分にあるという意味でも、よくできた優秀作だったと思うし。

 映画は、またもう一回、二回くらい、公開中に劇場に観に行きたい。

No.1928 6点 九番目の招待客- オーエン・デイヴィス 2023/11/16 09:35
(ネタバレなし)
 ある年。とある週末の土曜日の午後11時。ニューオーリンズにある高層二十階建てのビルの屋上の「ビエンヴィル・ペントハウス」で、主催者不明のサプライズパーティが開かれた。謎の主催者からの招待状を手に、老若男女8人のゲストと、職業紹介所が斡旋したという老執事が集まるが、そこでラジオから流れ出る謎の声が今夜ここでゲストたちが順々に死ぬ運命を告げる。唯一の出入り口には高圧電流が流れ、高層の場からの脱出は不可能。そして連続殺人の幕が開いた。

 1932年の戯曲作品。

 同年に刊行された夫婦作家グウェン・ブリストウとブルース・マニングのミステリ長編『姿なき祭主:そして、誰もいなくなる』(あの、エドワーズの『探偵小説の黄金時代』にも記述紹介があった)をベースにした作品、という公称で初演されたらしい。
 が、今回の邦訳書の巻頭の書誌解説を読むと、いろいろややこしい事情があるような(なんか映画版『タワーリング・インフェルノ』の、原作二重構造の件を思い出したりする)。
 その原作? 小説『姿なき祭主』は数年前に邦訳も出ていて購入もしているが、あの悪名高い(らしい)シロート訳(らしい)とあとあとウワサが聞こえてきたので、コワクなり、買ったまま読んでない。
(う~ん、6000円+送料もの高いカネ払って、ナンだったなあ……と、今では少し後悔……汗。)

 という訳で原作? との比較はできないまま、こっちの戯曲版を読んだ。こういう形質の作品で、要はセリフとト書きだけの中身だから、あっという間に読める。

 でまあ、確かに『そして誰もいなくなった』の先駆的な面があるのは間違いないけれど、戯曲を読む限りお話は今となっては大味で(キャラクターシフトから、ある程度話が進んだところで、結末まで大方の予想がつく)、トリックも良くも悪くも軽業トリック。

 なにより、殺されていく連中も身を守るため、真犯人に接近するためにやっておくべきことをやってないという意味で、スキがありすぎる。

 というわけで絶対的評価としては21世紀のいま、マジメに読むとショボーンだが、当時、こういうものがありましたね、的な意味ではクラシックミステリファン、あるいは『そして~』に強い思い入れを抱くヒトは目を通しておいていいかもしれない。
(まあ少なくとも21世紀作品『孤島の十人』よりは、いくぶん面白かった?)
 
 しかしそれこそ真面目に考えるなら、叢書「奇想天外の本棚」のファンキーぶりがよくわかる一冊ではあるよな。
 評点はちょっとだけオマケ。

【2023年11月25日】
 原作? の『姿なき祭主:そして、誰もいなくなる』は、プロ翻訳家の新訳で『姿なき招待主』の邦題で扶桑社文庫から近日刊行だそうである。
 高いカネ払って、シロート訳買って、ますます馬鹿馬鹿しい(怒)。

No.1927 8点 好きです、死んでください- 中村あき 2023/11/14 12:18
(ネタバレなし)
 その年の夏、八丈島から30キロほど離れた孤島「漆島(正式名・売島)」で、ネット向け番組『クローズド・カップル』のロケ撮影が行われる。内容は10代末~20代前半の3人ずつの男女計6人を集めた、筋書きのないリアリティー恋愛ショーだ。今回の番組内容にミステリの要素を加えるということで、「僕」こと大学に在学中の新鋭ミステリ作家・小口栞(しおり)は6人の出演者の一角に迎えられ、共演者や3人のスタッフとともに島に向かう。だが遅れて参加するはずの増援スタッフが来れなくなった。そんななか、島では怪異な状況の殺人事件が。

 10年前の旧作『ロジック・ロック・フェスティバル』は購入だけしてあって、読んでないと思う。
 いずれにしても作者の久々の新作ミステリのはずで、しかもガチのクローズドサークルもののフーダニットパズラーということで楽しみにしながら手に取った。

 リアリティー恋愛ショーなるものは、今年、アニメ『【推しの子。】』を観ていたので容易に認知できたが、閉ざされた舞台、少ない頭数の登場人物という大きな制約のなかで、適度に起伏のあるストーリーが高いリーダビリティで展開。
 良い意味での軽さもあって、サクサク読める。

 謎解きミステリとしての完成度については、鬼面人を驚かすようなものは皆無で、適度に青春ミステリの要素もにじませた正統派の謎解き作品になっており、終盤の(中略)な反転も心に響く。
 なぜ犯人が(中略)したかのホワイダニットも、ありそうではあるものの、しかし明確に前例が思いつかない。やはり新たな創意かもしれない。ならばけっこう面白いアイデアかも。

 優秀作、とまでは言えないが、とても素直に丁寧に紡がれた、好感のもてる秀作。最後に明らかになる動機も(中略)。

 思っていたよりも、良い意味で普通の、ごく真っ当なミステリであった。評点は作者の復活(?)を祝して0.5点ほどオマケ。

No.1926 7点 鏡の国- 岡崎琢磨 2023/11/13 14:00
(ネタバレなし)
 西暦2063年。「和製クリスティ」と称された大物女流ミステリ作家の室見響子が逝去した。響子の姪で彼女の作品を愛読していた「私」は、独身だった響子から、遺した作品群の著作権相続人に指定されていた。響子の遺作は、彼女が作家生活の初期に書いた長編「鏡の国」に手を入れたもので、響子自身の現実の人生をモデルにした一種のドキュメントノベルともいえるものらしかった。響子と仕事の上で昵懇だったベテラン編集者・勅使河篤のはからいで、同作の刊行前に当該策の原稿に目を通した「私」だが、その勅使河はあることを言い出した。

 いやまあ……ラストまで読んで非常に、作者らしいなあ、というか、ああ、このヒトなりのひとつの区切りの作品なんだろうなあ、という感じ。

 ミステリ味の部分も、小説的なサプライズも確かに薄目……ともいえるんだけど(汗)、この作品で書き手というか著作家として<訴えたいこと>が、何冊かこの作者の長編作品を読んで心惹かれてる自分としては、覗けるような思いである。
(ま、一読者の勝手な思い入れかもしれんけどよ。)

 そーゆー意味でとても(中略)読めました。

 ただ正直、細部で疑問に思う所がいくつかある。
 ここで言う訳にはいかん事柄なので、どっかで読書会とかやってないだろうか? 参加して、ヒトのご意見とかを聞いてみたい。

No.1925 7点 あなたが誰かを殺した- 東野圭吾 2023/11/12 15:44
(ネタバレなし)
 その年の8月のとある別荘地。その夜、4つの別荘(うち一つは本宅)を利用する計15人の老若の男女(一部はゲスト)が、バーベキューパーティを開いていた。だがその憩いの場は、短時間のうちに惨劇の現場にかわり、複数の被害者が出た。その直後、事件はさらに予想外の展開を迎え、大枠では終焉の方向に向かうが、いくつかの残された謎があった。休暇中の警視庁捜査一課のベテラン刑事・加賀恭一郎は、知人の頼みで非公式にこの事件に介入するが。
 
 あー。東野作品は、まだどうにかフタケタ程度の消化なので、評者が初めて出会う加賀シリーズだよ。笑ってください(笑・汗)。
 たぶん高木彬光を十数冊読んでいながら、神津恭介との縁がなかったような感じなんだろーな。

 で、期待通りにスラスラ読める。そのリーダビリティの高さとテンポの良さは、さすがに巨匠という感じ。
 
 芯はしっかりとしたフーダニットパズラーながら、形質としては変化球の部分もある作品。その辺のバランスの良さもベテランらしいということであろう。
 事件の解法が(中略)という部分に拠り、劇中人物が次第にストーリーの駒のようになってくるのは、良い面もあれば……といった感慨。

 しかし真相を知ったあとで、全体の物語の構造を考えると若干の違和感も抱いたが、たぶんその辺は、そのつもりで改めて読み直せば、きちんとうまく捌いてあるのであろう。
(そんな程度でシロートの考える事を、送り手が意識してないとも思えないので。)

 なんにしろこれで加賀シリーズとの接点もようやくできたので、機会を見て旧作の名編や歴代の話題作なども少しずつ読んでいきたい。
(↑でもって、この本作の主題のひとつは、こーゆー……(以下略)。)

No.1924 7点 爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー- おぎぬまX 2023/11/11 10:28
(ネタバレなし)
 その年の4月。東京の町田市で、4歳の小野寺ひかるという男児が誘拐された。だが当人はやがて無事に保護され、誘拐犯と思われる男は死体で見つかった。ひかるは「正義のヒーロー」が現れたとして、そのヒーローの似顔絵を描く。かたや、町田市で活動する地域密着型の映像制作会社「MHF」のデザイン部の若手社員・志村弾は、そのひかるが描いた似顔のヒーローの図柄を認めて驚愕する。なぜならそれは、以前に志村がデザインしながらもお蔵入りになった企画のヒーロー「シャドウジャスティス」に酷似していたからだった!?

 先日読んだ『キン肉マン』の二次創作小説・ミステリ集がけっこう面白かったので、同書の小説を実作された著者のオリジナルミステリ長編を手にしてみる。
  
 評者は1960年代の第一次怪獣ブームの頃から特撮怪獣ファンやっているジジイだが、低予算枠のローカルヒーロー分野には知見が薄い(というかほとんどまったくない)ので、そんな専門ジャンルの現場を描く業界ものとして、かなり興味深く楽しめた。
(当然のことながら、メジャーな特撮作品の分野と繋がってくる部分も、それなりにある。)
 あと、作者が狙って書いてるんだろうとは思うけれど、それでも一部のサブキャラがとてもいい。

 大筋としてフーダニットパズラーの軸を守り、事件の構造を最後までシークレットにしながら、読み手が飽きないように途中で小規模なミステリ味をいくつも設け、「これこれこうなんだから、ああだったんですよね」という謎解きを用意してあるのは、作者なりの本気さを感じさせて快い。
 多才な作者は漫画家としても活躍し、まともな連作ミステリコミック集を描いているらしいが、その辺の若い受け手を退屈させないようにするサービス精神を本書の中でも感じた。

 作品全体の中身は、よくも悪くもネタを詰め込み過ぎた感じもするが、もしかしたら器用な余技作家の戯作と舐められたくない、というプライドめいたものかもしれない。
 失礼ながら作者の本業? の芸人としての活躍にはまったく縁がないが、たぶん真面目で、いい意味で意識の高いお仕事ぶりなんだろうと思う。

 で、真犯人の正体に関しては、こういう決着なら、もうちょっと情報を明確に……という部分もないでもなかったが、よくよく考えると一応は、その必要なデータは作中から採取できるようにもなっていた。本当はもっと伏線をフェアに張っておきたいが、あまりわかりやすすぎても困る、というバランス感ゆえの仕上げかもしれん。そう考えると、まあ仕方がないかも。
 
 軽妙そうな設定、題材に比して、望外に骨っぽい作りの一冊。
 ただし好意的に見た上で、ホメ切ってしまうと、なんか違うような作品でもあった。

 できましたら、物語設定や登場人物などはまったく別のものでもいいので、オリジナルの長編ミステリをもう数冊、書いてもらえると嬉しい。
 どんな感じのものが次に来るのか、そーゆー興味の湧く種類の一冊だった。 

No.1923 5点 人生は小説(ロマン)- ギヨーム・ミュッソ 2023/11/10 15:21
(ネタバレなし)
 2010年4月。ニューヨークの一角から、著名な、しかしほとんど世間に顔を晒さない39歳の女流作家フローラ・コンウェイの娘で、3歳のキャリーが姿を消した。その後の消息は半年以上たっても不明で、フローラは焦燥を深めるが、彼女を後見する出版社の代表ファンティーヌ・ド・ヴィラットはある提言を申し出た。一方、物語は、パリ在住の45歳の小説家で、すでに20年以上の実績と20冊近いベストセラーを誇る人気作家ロマン・オゾルスキの周辺を語り始める。

 2020年のフランス作品。今年の邦訳分のミュッソ作品で、ページ数はそんなに長くないが、ふたりの作家を軸とした数名のメインキャラの軌跡を語りながら、現実そして虚構めいた? 場の中でのドラマを行き来する内容は結構、観念的な趣もある。

 それで終盤で結構な大技が使われているのだが、本作の場合は前述した作品の独特な形質と相殺し、読み手のこちらの心に本当ならもっと響きそうなところ、私(評者)の場合、どこかでズレてしまった感じ。
 言い換えれば作者に振り回され、読者のこっちもその勢いに付き合えばよかったものの、いつの間にかすべってしまった感覚だ。
(読後にAmazonの感想を覗くと、ものの見事に評価が割れてるが……わかる! 非常によくわかる!!)

 いつかしばらくしてから、落ち着いて読み返した方がいいかもしれない。
 そんな一冊であった。

【2023年11月11日追記】
 あー、書き忘れたけど、作者が例によってメタネタで遊びまくっていて、今回は私の大好きなベルモント&ジャクリーン・ビゼットの『おかしなおかしな大冒険』ネタまで登場してきたのはすんごくウレシイ(笑)。
 この作品の小説世界は、あの映画の世界と世界観を共有するのね(大嬉)。

 しかしいい加減、同映画の日本語版ソフト出してください(怒)!
 CSや配信でもフツーに日本語版、見せてください。関係者の方(懇願)。

No.1922 8点 八角関係- 覆面冠者 2023/11/09 17:19
(ネタバレなし)
 長女が探偵作家の三姉妹をふくむ四人の女性。警部補の刑事と、富豪の亡き父の遺産を継承した三人の兄弟。あわせて八人の男女が四組の夫婦を形成して、一同は親族の関係にあった。そしてそんな八人は、先代の遺した遺産を利殖に運用する三兄弟が所有する大邸宅に同居していた。もともとはそれぞれ互いに惹かれ合って結ばれた四組の夫婦だが、今は八人の男女のうちの大半が別の夫や妻の伴侶に劣情を抱き、三角関係の四組版「八角関係」を構成していた。そんななか、屋敷の周辺で、広義の密室状況といえる殺人事件が発生する。

 あの「妖奇」の姉妹誌「オール・ロマンス」に、昭和26年に連載された、覆面作家(正体は諸説あるが、21世紀の現在も未確定)による長編パズラー(B~C級? 昭和パスラー)で、72年目にして初の書籍化だとかなんとか。
(ジャケットカバーの表紙折り返しと解説に「76年ぶり」と書いてあるが2023マイナス1951で、72年ぶり、のような気がする……。)
 この話題性だけでご飯6杯はいける! ということでウハウハ言いながら読んでみる。
 
 評者が本文を楽しんだあとで目を通した巻末の解説によると、連載当時は「愛欲推理小説」および「愛欲変態推理小説」なる肩書がつけられていた作品だそうで、なるほど本編の方には中期以降の笹沢佐保やギアがかかった以降の西村寿行を思わせるムフフ描写がいっぱいで、小中学生は読んではイケナイ内容(とはいっても昭和20年代半ばの小説だから、エロといってもかわいいもんだが)。

 序盤数十ページは爆笑しながら読んだが、最初の殺人が起きるあたりからマジメ度が急に高まり、以降はいやらし描写を随所に交えながらも、かなりまともな謎解きミステリとして展開する。

 さるポイントに注目すると、評者のように冊数だけは読んでいる読者などでもある程度は作品の真相を察することもできるし、一部のトリックなども既成作品のイタダキだが、一方で、これだ、こーゆーものを読みたかった! といいたくなるようなバカミス度の高いメイントリックなどは、実に楽しい(笑)。nukkamさんのおっしゃるように、その辺りに絡む伏線の妙もいいよね。

 クロージングのサプライズも含めて、とても楽しかった。ちょっとゲテモノ気味ながら、実はけっこうマトモな作品で、こういうものの発掘は本当に嬉しい。
 こーゆーのが数年に一冊は読めればいいなあ。

 評点は実質7.5点。素晴らしい発掘企画と精緻な解説(ただしトリックで関連する既存作のネタバレに、実質的になってしまっているのが困りもの)で1点追加。
 8,5点を小数点切り捨てて、この評点で。

No.1921 7点 あの魔女を殺せ- 市川哲也 2023/11/08 08:37
(ネタバレなし)
 とある魔法を用いた魔女の時代の伝承が語り継がれる世界。「俺」こと35歳のフリーライターで、少し前に愛妻を事故で失った麻生真哉は、さる筋からの紹介で、世界中に知られた異才の人形師である常世(とこよ)三姉妹のもとに赴く。群馬の山中のその館は、三姉妹の祖母で、政財界にも顔がきいた高名な霊媒師・常世黄泉が遺した邸宅だった。そして同家を訪れた麻生とその6歳の娘・真里が遭遇したのは、怪異な密室殺人であった。

 
 蜜柑花子シリーズを離れた作者の初のノンシリーズ作品で、久々の長編。

 主要人物たちに関わるかなり凄惨な逸話が書き連ねながら、同時にしばらくすると一人称の話者も、「俺」=麻生から別の者に交代。
 なんか仕掛けがあるんだろうな、と思いながら読み進めていくと、物語は(そして謎解きミステリの流れは)こちらの予想の斜め上へとぶっとんでいく。これ以上は言わない。

 最後まで読むとピーキーなことをやりきった完遂感はかなり高く、蜜柑花子シリーズの一部のぬるさからすると、着実な進歩は感じる。最後の終焉に至る伏線のまとめ方も良。
 ただし謎解きパズラーとしては、悪い意味で一歩二歩、はみ出てしまったとも思う。この辺もあまり書けないが、要は、ある種の大前提を了解した上で、それでもちょっと(中略)ということです。
 ただまあ、読みものとしてはなかなかオモシロかった。
 こういうクセ玉の方が合っている方だったんですな。
 また次作が出たら、読ませてもらいます。

No.1920 7点 残像- 伊岡瞬 2023/11/07 18:01
(ネタバレなし)
 ホームセンター「ルソラル」でバイトとして働く19歳の浪人生・堀部一平は、同僚のバイトで60代半ばの葛城直之の具合が悪いので、彼を自宅まで送った。葛城は、老朽アパート「ひこばえ荘」の住人。一平はそのアパートの住人仲間である衣田(ころもだ)晴子、天野夏樹、香山多恵という3人の女性、そして冬馬と呼ばれる小学5年生の男子と、なりゆきから親しくなった。だが一平は、葛城と女性たちの間に、何か秘密めいたものを感じる。一方、衆議院議員の吉井正隆の長男で24歳の会社員・恭一の周辺では、とある事件が起き始めていた。

 角川文庫75周年ということで、文庫書き下ろしの新刊。
 
 伊岡作品の諸作同様、人間の救いがたい闇が主題のひとつになり、一方でそれとは別に人間の輝きや明るさ、温かさにも目が向けられる内容。

 読後にネットの感想を見回して、今回の伊岡作品(本書)は、特にラノベみたいだ、というコメントを読んだが、まだ十代の主人公・一平を主軸としたメインドラマの部分など、ああ、たしかに、という感じである。

 500ページ近い紙幅をすらすら読ませ(人物メモをとりつつ、実質3時間かからずに読んだか)途中でテンポよく物語の反転を随時見せるのは、職人芸。
 それでも後半の展開というか、一部のキャラクターシフトの扱いに作者側の都合の良さを感じる部分もないではなかったが、それが作劇の定型を脱している分、そんなこともあるのかもな、的な妙なリアリティを感じさせなくもなかった。
 どういう後味で終わるかはある種のネタバレになるかも知れないのでナイショだが、それなりに充実した気分でページを閉じる。

 ちなみに本作はノンシリーズもののはずだが、テーマのひとつが(中略)なため、当方がまだ未読の作者の初期作に似たような文芸設定のものがあるので、その後日譚かな? とも、あるタイミングで一瞬、考えたりした。
 実際のところは違うようだけども。

 伊岡作品はこのところ毎年、数冊は新刊を楽しませてもらっているので、年内にもう一冊くらい、シリーズものとかが出てくれればウレシイ。

 本書の評点はちょっとオマケ。

No.1919 7点 でぃすぺる- 今村昌弘 2023/11/05 14:16
(ネタバレなし)
 とある地方の三笹山(みさまやま)の周辺。「おれ」こと小堂間(こどうま)小学校の6年生の男子「ユースケ」(木島悠介)は、前期まで学級委員長だった女子・波多野沙月(サツキ)そして4月に転向してきた女子・畑美奈(ミナ)とともに、二学期から、学級新聞を編集製作するクラス内の「掲示係」になる。オカルトマニアのユースケは、学級新聞の紙面を借りて自分の知識や知見をアピールしたいという狙いがあったが、サツキの方にはまた別の目的があった。それは先に変死したサツキの年長の従姉妹の「マリ姉」こと波多野真理子がパソコンの中に書きのこしていた「七不思議」の怪談にからむものだった。

 ローカル・ホラーの大枠の中で、いろいろ謎解きミステリ好き向けに仕掛けて来る、ジュブナイルっぽい(ただし目線は大人向けだろう~ませた子供にも、読んでほしい気もするが)ハイブリッド作品。
 
 作中作のような感じで語られる複数の怪談の秘密、世界観の深淵、そして終盤のサプライズの連打と、かなりよく出来ている一冊。楽しく読んだ。
 ジャブ的に繰り出される小技の連打で稼ぎまくる、そういう形質の作品でもある。
 
 シリーズものになってほしいような、これ一本での完結感を大事にしてほしいようなそんな味わいの長編でもあった。

 一か所だけ惜しいのは、322ページの4行目
ユースケとサツキは(誤)
ユースケとミナは (正)
だね。
 まさかのいきなりの叙述トリックの仕込み? かと思ったが、ただの誤植または誤記であった。再版か文庫化の際に、直しておいてください。

No.1918 5点 鵼の碑- 京極夏彦 2023/11/02 18:24
(ネタバレなし)
 当方の「百鬼夜行シリーズ」長編遍歴は、

・『塗仏の宴』……ただでさえ、あの長さにひるんだ上に、無神経な知人にキーワードらしきものをネタバレされてしまい、興味が著しく減退

・『邪魅の雫』……ミステリを習慣的にはほとんど読んでない時期に、さすがに本シリーズの長編なら楽しめるだろと新刊で読み出し、しかし結局、どうにもつまらないので、途中下車
(読み出した長編ミステリをとにもかくにも最後まで読まなかったというのは、自分の人生の中でもめったにないこと、ではある)

 その2つを例外に全部読んでいる。
 傍流の「今昔百鬼拾遺」三部作も全部読んでいる。

 ということを前提に、久々の正編長編の新刊、お祭り騒ぎの気分のなかで手に取った。
 しかし前に書いたと思うけど、『夜の黒豹』(だったか?)で金田一耕助が休眠し、『仮面舞踏会』で復活するまでの期間、その倍前後の年月、ファンは待たされたんじゃないかしら(正確には調べていないけど)。

 で、内容ですが3~4つの謎が絡み合う構成、あっち側で追っかけている人が、実はこっち側の……的な趣向は楽しかったし、よくできていると思うけれど、とにかくこの長さに見合う面白さも、ミステリ&物語のときめきもない、という印象。

 人物メモを作りながら読んだおかけで人間関係や話の流れは理解できたつもりである。
 おかげで、記憶にある『邪魅』の途中までのシンドさ、つまらなさ(あっちは当時、人物メモは作らなかった)よりはずっとマシだが、さほど盛り上がらないまま、あ、もう終わりなの、という感慨。
 
 メインゲストヒロインの記憶のなかの殺人の真相に関してはちょっと面白かった。
 あと、昭和29年が舞台、大ネタがアレ、また別のメインゲストキャラの親類縁者の下の名前が……ということで、あのメタファーが出てくると期待したが……。
 まあ、ある意味では「出てきた」のかな? あのハリボテ感こそ比喩だよね(なるべくネタバレにならないように書いてるつもり)。

 妙な言い方だが、観念的な意味で実に印象的なモンスターを描いた、初期のあの作品の絶対性を、本作は逆説的に補完した面もあったような気がする。

 評点としては、正に「まあ、楽しめた」なので、こんなもん。
 なお都内の板橋区周辺の人は、池袋のブックオフ二階の、新書本コーナーを覗いてみてください。
 いま行くと、もの凄い光景が見られると思います(笑)。

No.1917 6点 蒼林堂古書店へようこそ- 乾くるみ 2023/10/31 21:41
(ネタバレなし)
『イニシエーションラブ』が、世評ほど良いと思えず
(というか楽しめず~どこが評価ポイントかはわかるつもりだが)

『Jの神話』が、実にイヤンな感触で

さらに『セブン』が
<この十年のうちに読み終えられず投げ出した、数少ないミステリのひとつ>

 ……である自分は、とことん乾くるみと相性が悪いという自覚がある。

 が、これはフツーに楽しめた。

 どっかのネットの噂で、ミステリマニアの登場人物たちによる、ミステリのトリヴィアを詰め込んだブラックウィドワーズクラブの縮小版みたいな紹介をされてたので、興味を惹かれて、ネットの通販で安く入手。
 内外新旧の長編を読む合間につまみ食いしていたが、経糸のストーリーを含めて気持ちよく読了できた。
 ミステリとしては各編たしかにゆるめだが、そこがまたこの世界にはよく似合っているんじゃないの。
 ウワサ通りに茅原しのぶの愛らしさは絶品。実は見事なフィニッシングストローク、しかも最後の一行ギリギリという趣向にもニヤリ。
 
 ちなみに本作が柚木さんちの……じゃねえ、林さんちの四兄弟サーガの一角だということは、このサイトで初めて(改めて?)意識した。いや、その設定に特にまったく関わらず、楽しく読めたんだけれども。

No.1916 7点 午後のチャイムが鳴るまでは- 阿津川辰海 2023/10/28 08:36
(ネタバレなし)
 2021年9月。都内の「九十九ヶ丘高校」の校内で、登場人物の話題になった(あるいは心に浮かんだ)5つの<謎>を順々に語っていく連作短編ミステリ。

 作者の引き出しの多さ、広さはこれまでにも実感していたが、今回はひとつの場のなかでバラエティ感豊かなエピソードを並べ(メインの語り手たちもそれぞれ異なる)、一方で(以下略)。
 いや、相変わらずその技巧ぶりと、何よりも書き手自身が楽しんで書いている感覚は受け手のこちらも心地よい。

 一冊トータルで見て、手数の多い仕掛けのうちのいくつかは早々に見破れるが、しょせんは作者の豊富な仕込みの一角に過ぎない。
 気持ちよく、うん、やられたと思う。

 ちなみに基本的に「日常の謎」の「青春ミステリ」仕立て。
 なかには単品で読むと、ミステリ味が希薄とたぶん感じるものもあるが、それはそれで(以下略)。

 ちなみに終盤に行くにしたがって、あらぬことも考えましたが、それはたぶんこちらの思い過ごし……なんでしょうな?

No.1915 6点 隣人を疑うなかれ- 織守きょうや 2023/10/25 22:16
(ネタバレなし)
「私」こと、千葉県のアパート「ソノハイツ」に住む漫画家の卵で、今はアシスタントで生活している20代後半の土屋萌亜(もあ)は、神奈川で殺された17歳の高校中退の少女・池上有希菜を先日、近所のコンビニで見かけたことに気が付く。萌亜は隣人のフリーライターで20代半ばの小崎涼太に相談。その案件は、小崎の姉で近所のマンション「ベルファーレ上中」に住む人妻・今立晶を通じて、晶の友人で刑事の妻・加納彩へと繋がっていくが……。

 今年の新刊。大き目の活字でサクサク読める。
 かたや作者も、ついに持ちネタの法律トリヴィアを使い果たしたか、そっちの方には今回はほとんど話が広がらない。

 全体的に、赤川次郎の20~40冊目あたりの時期、書きなれてきた頃のなかでの佳作みたいな印象。話のテンポは悪くない。

 ただし真犯人の素性というか、隠し方についてはいささかチョンボ。推理小説にするように見せかけて、そうはなってない。
 もう一方のサプライズの方は、まあまあ効果を上げたが。

 あと、小説として読んで、ともにメインヒロインの一角である晶と彩のキャラ描写がどっちもなんか似てるのがアレ。もうちょっと印象深い芝居をさせあって、うまく差別化させる余地はあったような気がする。

 どっか、やや長めのフランスミステリみたいな雰囲気そのものはキライではない。

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人並由真さん
ひとこと
以前は別のミステリ書評サイト「ミステリタウン」さんに参加させていただいておりました。(旧ペンネームは古畑弘三です。)改めまして本サイトでは、どうぞよろしくお願いいたします。基本的にはリアルタイムで読んだ...
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