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クリスティ再読さん
平均点: 6.43点 書評数: 1253件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1213 5点 チャーリー・チャンの追跡- E・D・ビガーズ 2024/01/17 18:28
う~ん、どうかなあ...
いや、本作ツカミは大変いいんだ。中華スリッパを履いて殺された弁護士の事件、そしてインドの奥地で蒸発した軍人の妻の事件、と過去の事件を追うスコットランドヤードの副総監がサンフランシスコに来訪。たまたまサンフランシスコを訪れていたホノルル警察のチャーリー・チャンは新聞記者の紹介で副総監と会食。そこで知り合ったサンフランシスコの女性次席検事と財閥の若主人の縁に引かれ、財閥の若主人が主催するパーティに。そのパーティの席で副総監が射殺された!副総監が追跡していた過去の事件の記録が見当たらず、この件が殺人の動機では...
こんな話。うん、確かに面白そうではある。そして同様に蒸発した女性の事件2件に副総監は関心を寄せていた....「年月のカーテンの裏を覗きたい」とこの手の話は評者好物。
なんだけど、どうも中盤で話が停滞するのと、謎解きは大した話でもない。チャンの推理に関して、ミスディレクションというかややアンフェアな流れになっている部分もある。まあ女性検事・チャン・財閥若主人に加えて「チャーリー・チャンの活躍」にも登場するスコットランドヤードのダフ警部も追加登場、さらには地元警察の頭が固いフラネリー警部がヤラレ役みたいなもので登場、と捜査側のキャラが多すぎる気もするんだ。
事件のキャッチーさがもったいない、という印象。まあ評者、チャンのキャラはあまり好きではないしなあ....

No.1212 7点 ブーベ氏の埋葬- ジョルジュ・シムノン 2024/01/16 16:16
さてそろそろシムノンも最近の翻訳に手を出すことにしよう。
河出の「シムノン本格小説選」なら9冊出たわけで、その昔の集英社のシムノン選集に並ぶボリュームの非メグレの出版になる。だからミステリ色の強いものもあれば、そうでないものもある。実際、シムノンの一般小説というと、ミステリ色が強いもの、自伝的な内容のもの、一種のピカレスク、「第二の人生」といったテーマのもの、性の問題を扱ったものと内容は多岐にわたっている。本作は比較的ミステリ色が強いものだけど、パリの街角で急死した老人の「さまざまな過去」が露わになってくる話。
女性関係もそうだし、若く血気盛んな頃には当時で言えば「アパッシュ」というような不良青年だった経歴も、さらにはパナマで名前を変えて結婚し、コンゴの金鉱山で一山当てて....と波瀾万丈の「過去」が、身綺麗な独居老人の背後に横たわっている。急死によってその死が新聞に載ったことで、そんな過去が芋づる式に明らかになっていく。それを淡々とした筆致で描く小説だけど、「人生的な興味」というやつで、つまらないわけが、ないでしょう?

まあ評者だって、急に死んだら、ヘンテコな過去がいろいろと明らかになって....とかあるかもよ(苦笑) いや人間、実は誰しも「冒険」をしながら生きているものだ。つまらない日常さえも、その由来を探っていけば「冒険」という大仰な言葉でしか言い表せないような因果によって、織りなされているのかもしれないのだ。そういう面白みというのは、やはり「小説」の面白みであり、ミステリはそれを効率よく語るための形式なのだろう。

(ちなみにリュカ登場の作品だけど、上司の司法警察の局長はギョーム氏で、メグレじゃない、あと下積み刑事のムッシュー・ボーベールがナイスなキャラ)

No.1211 6点 怪奇小説傑作集1- アンソロジー(出版社編) 2024/01/13 22:53
ほんとうに幽的が出るのかい?

教祖平井呈一の編纂によるクラシックな怪奇小説アンソロで、しかも一番のクラシックを集めた巻。さらには翻訳も平井自身によるもの。いやねえ、平井呈一の文章に洒脱な江戸戯作の香りを感じるのがいい。大時代を大時代で訳したブルワー=リットンの「幽霊屋敷」から、モダニズム色を出した訳のブラックウッド「秘書奇譚」に至るまで、あたかも活弁の如き平井の八面六臂の活躍ぶりをまず楽しんでしまう。うん、平井呈一って凄かったんだなぁ...

でまあ、この巻にクラシック中のクラシックが集まっている。創元では例の「重複収録の回避法則」が働くために、怪奇小説の作者別短編集で、大定番が収録されない悪影響があるくらいのもので、傑作集を読まないなんてことがあり得ない級の重要アンソロである。
でも、怪奇小説の精華は短編にある、というのいうのも改めて感じる。ミステリはホームズの時代以降は長編主体のジャンルになっていると思うんだ。ミステリはミスディレクションを長くして風俗的要素を入れて、さほど冗長にならずに長編にできることが多いが、冗長な怪談は読者の緊張が持たない。だからまずアンソロや短編集によってその精華を味わうのが王道というものだろう。
そんなことを言いたくなるようなシンプルな切れ味勝負の「猿の手」「炎天」みたいな作品もあるし、見ようによってはコメディなブラックウッドの「秘書奇譚」もある。
しかし、マッケン「パンの大神」の錯綜した技巧的語り口ならば、これをラヴクラフトが精錬して自分の世界を築いたのがよく分かる。語り口の複雑化が読者の理解と記憶の容量を越えてしまっては何にもならないからこそ、この長さなのだろう。
そして名探偵登場!と言いたくなるようなレ・ファニュの「緑茶」。ヘッセリウス博士のようなゴーストハンターも、実はホームズの先祖の一人だと見ていけないのだろうか?

平井自身の解説の中で、ゴシック小説の「オトラント城奇譚」が、時代小説・怪奇小説・ミステリの共通祖先だという説を紹介しているが、まさに怪奇小説も「ミステリの別な流れ」のように見るのもそれなりの妥当性があるのだろう。

(このアンソロは、もともと東京創元社「世界大ロマン全集」の「怪奇小説傑作集」(全2巻)とやはり創元の「世界恐怖小説全集」(全12巻)をベースにして再編集したものになる。この本は平井自身の訳のものだけの巻というのもあり、世界大ロマン全集での1巻目から、ラヴクラフト「アウトサイダー」を抜いて「緑茶」をプラスした収録内容になっている)

No.1210 5点 青ひげの花嫁- カーター・ディクスン 2024/01/05 11:20
中期でカーの筆がノっている時期。俳優が自分に送り付けられた青ひげネタのシナリオを読み、実は犯人が送ってきたのでは?と疑った。俳優は犯人をあぶり出そうと青ひげのフリをして送り元らしき海岸の街を訪れ、女性を引っかけて物議を醸す。緊張が高まるさ中、そのホテルの俳優に部屋に死体が転がっていた...という中盤までのプロットの出来が素晴らしい。いやホント、一幕物の芝居にうまく詰め込んだらウケるんじゃない?と思うくらい。

逆に言うとこの低評価は、不可能興味や死体の処理方法などの仕掛けがバレやすくて、ミステリとしては今一つという理由から。さらに最後の兵隊訓練施設でのクライマックスが冗長なので興を殺がれる。俳優がそもそも青ひげなのでは?というメタな疑惑を匂わせる中盤までのサスペンスフルな展開が面白いのに、最終的にはもったいない感が漂う作品になってしまった。暗闇で関係者総出で見物するくらいなら、登場人物を少し整理した方がいいんじゃないかなあ。

あと芝居の題名で「喉切り隊長」が登場しているのが、後年の歴史ミステリの言及みたいで面白い。
カーといえば、英版準拠or米版準拠とか原因で、創元とハヤカワで邦題が違うケースが多い(あと創元が砕けた感じの英題を意訳する傾向)が、本作はハヤカワの中で改訳でタイトルが大きく変わった珍しい例。
そりゃ"My Late Waves"→「別れた妻たち」は訳として微妙で、内容的には誤解しているから改題は仕方ないけど、「我が亡き妻たち」くらいにしなかったのが何か不思議。別作品と勘違いしそうだ。
こんなの改題するなら「おしどり探偵」とか何とかしてほしいよ。

No.1209 6点 三人吉三廓初買- 河竹黙阿弥 2024/01/03 13:55
こいつあ春から、縁起がいいわえ

ミステリってその趣旨からも「おめでたい」は難しいところもあったりするからね(苦笑)お正月くらいは「お目出度い」ネタをやりたいわけで、今年は「三人吉三」。もうこのお嬢吉三の名セリフからしてお目でたい。夜鷹(街娼)が客が落とした大金を拾ったのを、女装の盗賊お嬢吉三が強奪する話なんだがなあ(だから大江戸ノワールのわけ)。

まあこの反語的なお目出度さ、にはどうやら理由があるようだ。江戸歌舞伎というものは、先行するいろいろな設定(世界)を引用して作るという作方があるわけで、三人吉三の場合には新春番組というのもあって曽我狂言の大前提がある。仇討の本懐を遂げるお目出度い話のパロディみたいなものなのだ。そしてさらに「吉三」とは、八百屋お七の恋人の寺小姓として取り沙汰される名前だったりするわけで、お嬢吉三が八百屋お七に見立てられて、最終幕で火の見櫓で太鼓(半鐘ではないが)を打つ。それが「一富士二鷹三茄子」の初夢のお目出度い夢見に重なる(富士=三人の構図、夜鷹、八百屋のナス!)。

まあこの話自体が「謎解き」の対象みたいなものだが、実は背景となる三人吉三の親世代の因縁やら、不良青年のお坊吉三の妹の花魁一重と通人文里の悲恋の脇筋、盗まれた家宝の名刀庚申丸とその購入対価百両が、関係者の間を転々とすることで話が縺れに縺れる。
大川端での三人吉三の出会いを待つまでもなく、親世代での因縁が重なっていて、お嬢と和尚は百両を落とした十三郎を介して義理の兄弟みたいな関係にあれば、和尚とお坊の親同士は仇みたいなもの。人間関係の複雑怪奇さが、ロスマク風と言っても過言じゃないくらいに重なり合う(苦笑)いやロスマクって歌舞伎風の因縁話だって言えばそうなんだ。

でこの話、時間経過が謎なんだけども、それでも舞台上では新春の江戸風景の中で、悪党たちが生き急ぎ死に急ぐ。それによって絡みに絡んだ因縁が解消されていく。そんなお正月の番組なのである。

No.1208 6点 ベローナ・クラブの不愉快な事件- ドロシー・L・セイヤーズ 2023/12/31 16:38
少女漫画を男性が読んだときに、一番ノれないのは、男性基準で見たときの「ダメ男」が女性にモテまくるあたりだ、という意見がある。ダメ男が好きな女、というのはいつの世にも絶えることがないわけで、なら世の男性諸氏にも希望があるというものなのにねえ(苦笑)
本書の解説(大津波悦子)でも、本書に登場する女性たちに焦点を当てて話をしているわけだが、本書の女性たちはしっかり者が多い。それに引き換え男性たちには、とくに第一次大戦で負傷し精神的な傷を負ったフェンティマン大尉が、代々続く軍人の家柄にも関わらず戦後社会に落伍してけなげな妻の扶養のもとにあって、屈折している...いやこのフェンティマン大尉の肖像は、実はピーター卿の経歴ともダブるわけで、ピーター卿にしたら他人事じゃない。だからこそ、この小説はピーター卿を「救う女性」が登場するか?といったあたりの興味が深いわけだ。
で、満を持して登場するアン・ドーランドの肖像が、セイヤーズの投影か?「この不美人でふてくされた口下手な娘」、でも一番印象的な本書のヒロインなんだよ。
だから、とくに本書あたりは第一次大戦でいろいろ傷を負った「ダメな男たち」の代表選手であるピーター卿を巡るコージー・ミステリだ、と読むのがいいんだと思う。男性の特権的な居場所である「クラブ」をめぐって「不愉快(unpleasantness)」な事件が起きること自体が、クラブのホモソーシャルなコージー(快適さ)に安住できなくなったピーター卿の不安定な生き方を示している。そりゃ次作「毒」でハリエット登場、となるよねえ。
まあミステリとしては、ピーター卿の推理が全体的な真相では周辺的な部分の解明に過ぎないから、パズラー的な興味が薄いと評されることにもなるんだろう。セイヤーズって第一次大戦後のイギリス社会を活写する風俗小説的な部分に一番の生命があるしねえ。

No.1207 6点 毒薬の手帖- 評論・エッセイ 2023/12/29 16:23
いわゆる「黒魔術」「毒薬」「秘密結社」の澁澤三手帖だけど、ミステリに一番ご縁があるのが、本書だろう。連載は「黒魔術」「毒薬」が旧「宝石」、「秘密結社」が「EQMM」、というわけでミステリ周辺書であることは断るまでもない。
というかさ、雑学ネタでここらへんに触れる場合、ネタ元は大概本書、というのも本書の影響力の凄まじさを物語っているだろう。エジプト・ペルシャ・ギリシャから始まって、ローマから中世・ルネサンス、そしてブルボン王朝での毒殺の横行、そして近代医学の発展とともに医者による毒殺犯罪(とくにパーマー医師)、そして「集団殺戮の時代」現代へ。もちろんオリジネーターとしての栄冠は博覧強記の澁澤のものである。
中田耕治も本書にインスパイアされて「ド・ブランヴィリエ侯爵夫人」を書いたわけで、この本の評で評者は「ひねくれた愛情表現」とブランヴィリエ侯爵夫人の毒殺を評したわけだが、本書に収められた女性毒殺者たちの肖像を見ると、毒殺がそのままエロスの表現だ、と言いたくなるほどだ。そのくらいにエロスと毒とは切っても切り離せないものだ、というのが本書のテーマみたいなものであり、またそれが「無意識の悪意」となって現代には蔓延しつつある...黒魔術に象徴されるような「悪の象徴」としての毒殺が、西欧文化の根底にある、なんて結論も出せるのかもしれないな。
しかし面白いことに気がついた。実は日本というのは戦国やら幕末やら暗殺が横行した時代であっても、毒殺というのはきわめて珍しい話だ、ということだ。そりゃ江戸時代の商家で「石見銀山鼠取り」による毒殺事件があるし、「伽羅先代萩」の政岡の毒殺警戒の話があるわけだが、欧米と比較したら意外なくらいに日本は毒殺事件が少ないのではなかろうか。
いやこの澁澤の手帖も、そういう「西欧の暗黒の文化」への憧れを掻き立てた本だ、ということにならないだろうか?

No.1206 6点 花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選- 柴田錬三郎 2023/12/28 13:09
本書のように末國善己編で、創元が捕物帳の「ミステリ名作」を選んで出しているのも面白い。以前銭形平次「櫛の文字」も評者は扱っているが、人形佐七、半七、若さま侍、月影兵庫、宝引の辰、木枯し紋次郎...このシリーズ結構出てるねえ。どうも本書が第一弾だったようだ。でもさすがに右門は出てないなあ(苦笑)
で眠狂四郎。そりゃさあ、大坪砂男がアイデアマンで付いている作家だし、「幽霊紳士」みたいにミステリしていけないわけでもない。でも、週刊新潮の人気連載であり、意外なくらいに紙幅が少ないんだな。ミステリを展開するには尺が短すぎる印象。もちろん眠狂四郎、転びバテレンが武家の娘を犯して生まれた罪の子で、円月殺法を遣うニヒリスト剣士。映画の雷蔵、TVの田村正和でお馴染みで、エロカッコいいキャラには違いない。
しかし小説で読むとやや印象が違う。将軍家斉治世下、のちに天保の改革を主導する水野忠邦の懐刀、武部老人に請われて、対立する水野出羽守が企む陰謀を暴き、差し向ける刺客や忍者を薙ぎ倒し...というヒーロー剣士的な色合いの方が強い。エログロは売り物だけど、陰惨さは薄いんだ。まあだから作品によってはミステリ的な仕掛けのある陰謀に巻き込まれ、そのカラクリを暴いたりもするのだ。
というわけでちょっとくらいはミステリな時もあるし、意外な真相があったりもする。けど、尺が足りないから、ミステリ興味は深掘りされない。
それでも本書の最後の方に収録された「美女放心」「消えた凶器」「花嫁首」「悪女仇討」あたりはわりとミステリっぽい。湯殿からの凶器消失を扱った「消えた凶器」とか、砂男の例の作品っぽい。でも湯殿での密室殺人ならバカミス的な「湯殿の謎」の方が、なんというか、らしい。「からくり門」は「神の灯」パターンだったりするが、やや小味かな。
それよりも、しっかりと江戸情緒を再現したシバレンの時代考証の凄さとか、ヒーロー小説としてのツボの押さえっぷりとか、奇抜なエロ描写とか、そういうあたりの方が興味深い。いやシバレンの時代考証はマジで凄いから、若い方だと読むのに苦労するんじゃないかな。江戸っ子の地口の遊びっぷりやら、漢学や謡曲の素養やら、そしてそれをサラリと出して見せるスタイリッシュぶり。昭和のエンタメって凄いんだな...と改めて感じ入る。

No.1205 6点 怪盗紳士ルパン- モーリス・ルブラン 2023/12/25 23:10
ルパン初登場の短編集。今回評者は偕成社で読んだので、原書初版仕様で「うろつく死神」がなく「アンベール夫人の金庫」と「黒真珠」を収録。評者老眼が進んでるから、字が大きい方が楽なんだよ(苦笑)
でも「アンベール夫人の金庫」はルパンの珍しい失敗談だし、「黒真珠」はルパン単独で仕事していた初期の事件、と読まずに済ますのはちょっともったいない短編だ。偕成社はおすすめだね。
で、いうまでもなくデビュー作で「逮捕」「獄中」「脱獄」と続く最初3本は連作になっていて、ルパンの「予告犯行」が結構「ワケあってやってる」陽動作戦なのがしっかり描かれている。さらに念を入れて「神秘的な犯行を有言実行」というルパンの性格を読者が刷り込まれることで、これが全体的なミスディレクションとして機能しているのが興味深い。
とはいえ「逮捕」のラストで「ルパン、フラれる」のが、これがイイんだなあ....でこのネリー嬢、この短編集のラストの「おそかりしシャーロック・ホームズ」にも再登場して、再度ルパンをフリ直す! 評者ホームズとの対決よりも、こっちの方が気になって困る(苦笑)
いやホント最初からルパンはキャラにブレが少ない。細かい辻褄は少年時代の「初仕事」を描いた「女王の首飾り」から始まる経歴と、後年の「カリオストロ伯爵夫人」と多少は齟齬するけど、気になる程でもない。ルパンって最初からルパンなんだ。

No.1204 6点 幽霊列車- 赤川次郎 2023/12/25 10:24
中学生だったかなあ、大昔に短編「幽霊列車」はアンソロで読んで、妙に感心した記憶がある...人気が出だした頃?いや最近こんな「思い出」系で読む作品をセレクトしている。それ以降赤川次郎って積極的に読んだことはなかったけども(そりゃ「セーラー服と機関銃」とか映画は見ているが)

改めて再読して「幽霊列車」はよく出来ているなあ。
走行中のローカル線の列車の中から8人の乗客が消失した、という不可能興味があり、それがハウダニットではなくて、ホワイダニットでキレイにオチているのが素晴らしい。「なんで不可能現象が?」という問いは本当は実に大事なことだと思う。
で真夏のビーチでの凍死体の謎(「凍てついた太陽」)やら、晴天なのに雨具完備の死体(「ところにより、雨」)など、「謎の設定」という面だと、なかなか興味深い作品が続く。
いわゆる「軽ミステリ」という視点だと、夕子宇野コンビがテンプレ的なキャラ設定だけど、しっかりと個性を出せているあたりになにげの筆力が窺われる。さらに楽しいファンタジックなスリラー「善人村の村祭」で〆る用意周到。
ミステリとして短編「幽霊列車」は優れているし、エンタメとして短編集もよくできていると思う。

No.1203 7点 幽霊紳士- 柴田錬三郎 2023/12/16 09:06
書けなくなって落魄した大坪砂男がシバレンのアイデアマンやっていた、という有名な話がある。シバレンで唯一「ミステリ」カテゴリに入る本作あたりに、その「大坪臭さ」が感じられるか?というのもちょっとした読みどころなのではないのだろうか。

物語の主人公が一応の結末をつけてほっとした瞬間に、どこからともなく現れて「意外な真相」を囁く灰色の紳士-幽霊紳士。前の話の人物が次の話でも連鎖的に登場して、話を繋いでいく構成が実に秀逸。シバレンらしく色と欲が全開のアブラギッシュな昭和のバイタリティを感じる話で、そんなギラギラした瞬間に、意外な陥穽に落ちこむあたり、ミステリのオチというよりも「奇譚」といった感覚の切れ味。

いや実際、殺人が主体でミステリしている、といえばそうなんだが、いわゆる「トリック」とかそういう話ではなくて、人間心理の微妙なあたりをキッチリと突いているのが見事。(少しだけバレ)人命よりカナリアの命の方が大事な殺し屋に人間性の荒廃を感じたり(「私刑」やら「花売娘」やらの世界に近い)、義足の乞食の夫婦生活の真実に驚かされたりやら、総じて「ミステリ的な真相」以上に男女関係やら人間心理の真相の方に、興味深いものが多い。

だから「ミステリであってミステリでない」うまい立ち位置が本作のキモ。そこらへんにもやはり「文学派」の大坪っぽさを感じるが、色と欲の円月殺法の切れ味はシバレンならではのもの。

...いやだからさ、皮肉で辛辣な幽霊紳士はそんな人間の現実を肯定しているんだとも思うのさ。

No.1202 5点 神野推理氏の華麗な冒険- 小林信彦 2023/12/14 21:30
ミステリマニアってのは、翻訳ミステリと洋画とジャズにやたらと詳しい....そんな時代があったわけ。小林信彦といえば「昭和ヒトケタの心情」の作家であり、昭和ヒトケタとは敗戦によって欧米との実力差に直面した世代でもある。

日本において、西欧的な形での名探偵は、パロディとしてしか存在し得ないのではないかと言いたいのです。

だからこそ、ミステリマニアに心の奥底に潜む「西欧への憧れ」の感情と、裏返しの「情けない日本の現実」の葛藤を、パロディ・ミステリのかたちで小林信彦が語ろうとした小説なんだ。

いや昭和ヒトケタの子供世代の評者とかが、こんなことを書けてしまうあたり、本作での小林信彦はオヨヨ大統領シリーズのノリが薄れて、シリアスな自己批評に向かっているかのようだ。この後自伝的な「メディア論小説」に流れていくわけだが、そんな「手の内」をここまで晒してしまうのは、ミステリ作家としてどうなんだろう。実際、後半になるほどネタ切れ感の強い短編集だと思う。意外なくらいにマジメにミステリしていて、意外なくらいにミステリとしてつまらない。

考えてみれば「ニッポンの名探偵」にはどこかしら欧米への憧れの気持ちを隠せない面がある。その気持ちを嫌がる作家は、キャラを盛らずに鬼貫警部のような警察官探偵や、非シリーズの一般人探偵に流れたんだと思うんだ。言いかえると、名探偵を改めて肯定した新本格は、こういう日本の現実にこだわる「昭和ヒトケタ」的屈折がリアリティをなくした後で生まれたものなんだろうな。

(ちなみにホームズの「最後の事件」を模した「神野推理最後の事件」は「合言葉はオヨヨ」の後日譚みたいな話である)

No.1201 7点 トマト・ゲーム- 皆川博子 2023/12/09 23:44
そのうち読まなきゃね、と思っていた作家。赤江瀑の後継者みたいに言われることもあるからねえ。いや70年代の大昔何かのアンソロで「漕げよマイケル」を読んだことがあって、その時にタイトルと皆川博子という名前がしっかり刷り込まれた。なので「漕げよマイケル」収録のこの短編集から手を付けようか。

最初期の短編集で5作収録。
ライダーたちが「肝試し」として、コンクリの壁に向かってフルスロットルで突っ込んでスピンターン。一歩間違えばコンクリの壁にぶつけたトマトになるリスクを侵しながら、ギリギリ壁に近いところでターンする度胸比べの「トマト・ゲーム」。ライダーが集う喫茶店のマスタと、場違いな家政婦は若い日に米軍基地で知り合い、トマト・ゲームを通じて因縁があった。若者の三角関係でこのトマト・ゲームが再現され...という話。
これを「青春小説」にしないのが作者の手腕。あくまで中年のマスターと家政婦の過去の因縁とその決算がメイン。女性作家だと同性に辛辣な面がある、というのは通例だが、家政婦の屈折したキャラがナイス。
「アルカディアの夏」はコノハズクを買う少女とその母と通じる元家庭教師の話。コノハズクのエサとしてハツカネズミを繁殖させるとか、けっこうエグイ話なのが、やはり「青春小説」ではなくて、赤江瀑風のエロスと倒錯のテイストが滲み出てくる。
で「漕げよマイケル」が一番ミステリしている。受験競争が動機で計画殺人を犯す高校生を倒叙で描いている。ここにも同性愛興味やら、悪辣な罠(これにトリック風なものがある)、そして親への幻滅。いや評者これ読んだの中高生くらいのはずだから、自分の立場でいろいろ妄想したのかなあ?赤江瀑同様に、外形的にはミステリでも、ミステリから逸脱する部分が大きい。

うん、そんな感じ。今まで読まずに取っておいた価値がしっかりありそう。楽しみ。

No.1200 8点 高丘親王航海記- 澁澤龍彦 2023/12/08 19:21
評者1200冊キリ番だから、こんなのはいかが。
神格化された作家・評論家である。確かに評者も澁澤龍彦は読んではいるんだが、それほどハマった、という意識はない(すまぬ、幻想小説マニアのスノッブさに反発する気持ちも強いんだ)。でも、ダークで逸脱的なテーマを扱わせたら日本最高の権威だったわけで、裏文学界の教祖である。
本書が唯一の長編小説で遺作になる。となるとどうしても肩に力が入る....はずだけど、実は入らない。上品でさらっと流したような小説なんだけど、実はいろいろ「ひっかかる」ポイントがある。

平安朝初期の政争で敗れ皇太子から出家の身になった高丘親王は、60歳を越えて唐に渡り、さらに東南アジア回りで天竺を目指す...しかし澁澤自身の病気(喉頭がん)を投影したように、旅の途中で病に倒れ「虎に食われて死に、虎の腹中にかかえられて天竺に」。
その旅を導くのは若き日に父帝(平城天皇)の寵姫として、親王にとっても憧れの女性だった藤原薬子の幻影。「そうれ、天竺まで飛んでゆけ」と投げられた玉は親王自身の魂でもあり、親王が飲み下し自らの病を悟ることになった真珠であり、また薬子が戯れた親王の睾丸、さらには薬子の化身のような幻想の鳥「頻伽」の卵、そして獏が食べたよい夢が化した芳しい糞でもある。

このような生と死とエロスをないまぜにしたイメージによって、高野山奥の院で今も「生きている」師である空海と、子を産んだらミイラとなる身を定められたパタリヤ・パタタ姫と同様に、親王は死にながら虎の腹中で死を超克する...
そんなイメージの重なり合いの旅。いや評者も「あとの仕事はニコニコしながらあの世に行くくらいのことだ」なんて言い放つようなお年頃だからねえ。

いいじゃないの。こんな死に方ならば。
良い夢なら評者だって芳しい「獏の糞」になれるさ、きっと。

No.1199 6点 富豪刑事- 筒井康隆 2023/12/07 12:12
評者って筒井康隆は苦手作家なんだ。
一時必要に迫られて代表的な作品を集中して読んだこともあるんだが、どうも「合わない...」という印象だけが強いんだなあ。いや大変「頭のいい作家」だと思う。楽しめない、というわけじゃないんだが、「アタマのよさの使い方」に違和感を感じちゃって「う~ん、こんなこと、したいの??」と疑問に感じることが多くて興を殺がれる。ギャグ・パロディは大好物なわけで、小林信彦なら好きなんだけどもねえ。

というわけで「富豪刑事」。確かにミステリ・プロパーじゃない筒井康隆の「アタマの良さ」を発揮した作品で、所収の4短編すべて工夫と仕掛けを凝らしているのはわかる。「ミステリという形式」を作者が「面白がっている」のは伝わるんだよね。
しかしそこに「愛」はないんだ。筒井康隆って極端に「愛」に欠けた作家じゃないのかな、って思ったりする。「読者はこんなのしたら面白がるだろう?やってやろうか」と言わんばかりのところが、この人にはある。
だからこの人の「メタ」な仕掛けは、すべて韜晦だ。それに評者は「イヤな感じ」を抱くんだよね....困った。

とはいえね、捜査側が奇想天外な罠を容疑者に対して仕掛ける、というのは昔は「逆トリック」という言い方で、ミステリの「技」としてよく使われた(ホームズとかね)だからミステリの「本道」の一つなのだと思ってる。また、最後のホテルの話が、実はこれも一種の「密室殺人」になっているのが面白い。本作の「密室」って実は「逆密室」みたいな側面があって、興味深いのは確か。

だけど、この大富豪の刑事が金に飽かして捜査する、という趣向は、細野不二彦の「東京探偵団」の方がずっと成功しているとも思う。マンガの方が、突き抜けた「カネの使い方」ができてしまうんだ。

No.1198 7点 妖神グルメ- 菊地秀行 2023/12/06 21:08
本作は1984年に刊行されているわけだから、日本のクトゥルフ神話のハシリみたいな作品でもあって、それこそクトゥルフ神話の解説書に確実に言及があるくらいのエポックメーキングな作品だったりするんだ。
トンデモない怪作でもある。

寝ぼけたような高校生、内原富手夫は、それこそマムシ・ゴキブリ・ネズミでも極上の料理に変えてしまうような「ゲテモノ料理」の天才だった。星辰が邪悪な位置に巡り来たり、再びルルイエが浮上しクトゥルーが復活する日が近づいた。内原の悍ましい料理をクトゥルーに捧げようとする、アラブ人アルハズレッドの誘いに内原は乗った! しかしクトゥルーの復活を阻止しようと米軍とアーミテージ博士は画策する。内原の赴く先々で、米軍とマーシュ率いるインスマウス軍団とヨグ・ソトト派が三つ巴で争い、巨大な魚人ダゴンとアメリカ太平洋艦隊が戦い、正道の料理の天才ギルクリストが内原に挑戦状を叩きつける。内原はクトゥルーを満足させることができるのか?

ブロックの「アーカム計画」って結構マジメに「クトゥルフ神話のアクション・ホラー路線」の決定版を作ってやろうとしていたわけだけど、この作品は搦め手作戦。「アーカム計画」同様にラヴクラフトの原典をいろいろ再現するわけだが、すべてそれを「ゲテモノ料理」に集約してしまう(苦笑)
内原富手夫って名前もナイアルラトホテップのモジリで付いているわけで、実のところ「人間の味方」というわけでもない。ダーレスの側じゃなくて「ラヴクラフトの側」に立っているのかもよ。
で「クトゥルフの呼び声」で生存者がいた理由とか、なぜ内原がクトゥルフに料理するのを引き受けたかとか、ちゃんとオチがある。いやこれ凄いよね(笑)ヤラレた、としか言いようがない。

まあだから、クトゥルフ神話でもしっかり親しんでいる「上級向け」作品。ジュブナイルなんてとんでもない。時代を考えたら、相当凄い話だと思うんだ。

No.1197 3点 拳銃無頼帖 抜き射ちの竜- 城戸禮 2023/12/05 20:09
渡辺武信の「日活アクションの華麗な世界」の頃だもの、評者学生時代はそれなりに日活アクションも見た世代なんだね。名画座のオールナイト主体で回ったよ。けどねえ、評者なんかはニューアクション期が好きだったから、意外に赤木圭一郎は見てなかったりするんだな。ジョーといえば「日本のハードボイルド俳優」として、評者世代のシネフィルの間でも人気だったわけだから、「ニッポンのハードボイルド」に、やはり日活アクションも影響を与えていると見ちゃ、いけないのかな?

で本作、赤木圭一郎のブレーク作の同題映画の原作。城戸禮といえば春陽文庫で膨大なタイトル数を誇っていた作家だけど、ミステリ作家と言っていいのか...困るね。確かにアクション小説には違いないんだよ。

早撃ちの名手で「殺さず」の殺し屋である「抜き射ちの竜」が、暗黒街の影の支配者である楊の世話になることになる。楊は竜を片腕として厚遇するが、楊の冷酷な手口に反発を抑えられなくなり、反旗を翻す...

という話。もちろん楊は香港を根城とする中華系のギャングで「第三国人」という言い方がリアルだった時代の作品。意外にガンアクションの場面は少なくて、単に「抜くぞ!」と威嚇するだけで、ヤクザたちは恐れ入る。刑事の妹と純愛しちゃうし、非情さもないなあ....


日本人....その言葉が竜二の胸に、ぎくッときた。そうだ、俺も日本人だったっけ。その日本人が、楊の意のままに同じ日本人を傷つけ、同胞を廃疾者にする片棒を担いでいる。これでいいのか?...悔いに似た一種の正義感が、今更のように甦ってきた。

と急に改心。ハードボイルドじゃないなあ....いやこういう余計なお説教的な心理描写とか先回りしたような予告とか原作には多いんだ。はっきり古臭い大衆小説である。

映画では宍戸錠が「コルトの銀」という竜のライバルとして、存在感があるんだが、原作には似たようなポジションで「両刃の源」と「コルトの徹」がいるにはいるが、小物臭が強い。やはりジョーあっての「コルトの銀」ということになるわけだ。う~ん、映画(それほど名作、というほどでもない)にも遠く及ばない原作だなあ。

Wikipedia なんかでも「ハードボイルドの先駆者」みたいに書かれている部分はあるんだが、西部劇か股旅モノを応用したような雰囲気の方が強い。大坪砂男の「私刑」なら、土着ハードボイルドと呼んでいい「鋭さ」と「新しさ」があるけど、これだとモダンな講談みたいなもの。

まあ試しに読んでみただけだがねえ。宍戸錠なら「拳銃は俺のパスポート」「みな殺しの拳銃」「殺しの烙印」と「ハードボイルド三部作」と称賛されるあたりはホントにストイックなハードボイルドらしさを味わえるわけで、「ミステリのハードボイルド」とはちょっと違う文脈での「ハードボイルド」も日本になかったわけじゃないと評者は思っているよ。

(たぶん後の加筆だと思うけど、最終章で実は竜は隠密捜査の刑事だったというバレがある...おいなあ....泣くよ)

No.1196 7点 嫉妬- ボアロー&ナルスジャック 2023/12/05 10:43
ボア&ナル後期って日本ではあまり話題にならなかったこともあって、評者読んでなかったが....うん、本作「嫉妬」とかね、フランス純文学お得意のガチ心理小説か?と思っていると、実は違うんだ。

一人称小説で、妻の浮気を疑う小説家志望の俳優が、パリ郊外の浮気現場で、その妻の浮気相手を銃撃して殺した。主人公の目撃証言もあったようだが、被害者の同性愛が明らかになったことで、主人公は嫌疑から外れてしまった。誤殺でも目撃証言があれば困った立場に主人公は追い込まれるのだが、主人公が匿名で懸賞に応募した小説が受賞して大ベストセラーになってしまった!名乗り出るにも名乗り出れないジレンマに主人公は落ち込み、不審に思う妻との関係も悪化する。その妻とドライブに出かけた主人公は事故にあう...

軽妙に話が皮肉で思わぬ方向に展開していく。なんというか、心理的というよりも、ずっと客観的な筆致で描写がされていくから「ほんとにボア&ナル?」と思うところもある(苦笑)いやでもボア&ナルらしい心理描写と展開の妙もあって、「軽い」感じで楽しく読める。

プロットの綾に翻弄される。ちょっとした新境地だと思う。
だったら後期の読んでない作品にも改めて興味が湧いてくる。
(空さんご指摘のように、訳はあまり良くないな)

No.1195 7点 レアンダの英雄- アンドリュウ・ガーヴ 2023/12/03 20:21
ガーヴお得意の海洋冒険スリラー。
そりゃ鉄板、と言っていいでしょう。イギリスの植民地からの解放闘争の指導者を、アイルランド人でヨットマンの主人公が雇われて、囚われの島から脱出させようとする話。なぜ主人公に白羽の矢が立ったか、というと「ヨットマンは大体イギリス人だから信用できない」んだそうだ。そういうデテールのリアルが、いい。
そしてこのヨットマンの相棒としてスポンサーから寄こされたのが、指導者を崇拝する若き解放運動の女性闘士のレアンダ。最初は遠慮もあったが、次第に主人公と息が合ってきて、ヨットでの遠征もスムースに、虜囚の地ユルーズ島へ....

という話。うん、だけど、ガーヴだから。単純な冒険物語じゃないんだよね。でもこのネタはバラすと読者の興を大きく殺ぐ。ガーヴっていつでも不条理なほどの「悪意」が話の急所にあるんだ。そんな悪意が爆発するんだけど、これもまたガーヴだから、悪意の主には因果応報。これを期待していいのがガーヴ。
めでたしめでたし。
(でも皆さんも指摘するけど、幕切れのあと、二人はどうやって脱出したんだろう?)

No.1194 6点 さあ、気ちがいになりなさい- フレドリック・ブラウン 2023/12/03 20:06
「異色作家短編集」の1冊で出た本。何よりのウリは、星新一訳。
日本のアイデア・ストーリーの第一人者が、アメリカのアイデア・ストーリーの教祖の名作集をやるわけだ。
確かに星新一っぽい言葉の使い方もあるが、こうしてみると意外なくらいに資質の差が出ているようのも感じる。ストイックなペシミストである星新一と、楽天性を恥ずかしがって意地悪なイタズラをを好むブラウン、といった構図で評者は読んでいたなあ。だから「シリウス・ゼロ」とか文明批判というよりも、「真面目さゼロ」な話として読んだ方がいいと思ってる。アホみたいな話が書ける、というのがブラウンの一番の強みじゃないのかしら。

そうしてみると表題作も、ナポレオン狂という誇大妄想をいかに変な風に着地させるか、を巡って(わざと)こねくり回した話のような気がするよ。こういう無意味なくらいに叙述でややこしくして煙に巻くのがブラウンらしいあたり。「ノック」なんてそうでしょう。「地球最後の男が聞いたノックの主」というテーマで、いろいろ思考実験する話じゃないのかな。
そういう意味だと、ブラウンの体質として、ミステリの多重解決みたいなノリがある。多くの作品にリドル・ストーリーな面があり、この二重性を一番ミステリらしくオチにしたのが「沈黙と叫び」だと思う。

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.43点   採点数: 1253件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(97)
ジョルジュ・シムノン(89)
エラリイ・クイーン(45)
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ロス・マクドナルド(26)
ボアロー&ナルスジャック(18)
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