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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1697件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.89 7点 天正マクベス 修道士シャグスペアの華麗なる冒険- 山田正紀 2024/03/28 13:38
 第一話のトリックは賛否両論ありそう。私は断固支持する。時代背景に認識論を絡めて、見たことの無い景色を見せてくれた。
 第二話のトリックは必然性が判りづらい。一方で事件の背景は非情な世の習いで唖然。

 で、歴史改変SFの如き肝心の「マクベス」の部分は単刀直入に過ぎる。あまりに短い断章で、単なる付け足しみたいになってしまっているのでは? それでもキャラクターの肉付けがしっかりしているので、決別には切ない余韻が残った。それで充分じゃないかと言う気もまぁする。

No.88 6点 天保からくり船- 山田正紀 2024/03/21 11:30
 これは受け取り方に迷う。
 どうしてもあの大ネタが印象に残ってしまうが、必ずしもそれが作品の本質と言うわけではないだろう。九合目までは普通の時代アクション小説で、それなりに手慣れた書きようで充分楽しめた(敵味方が曖昧でなかなか本題に入らない嫌いはある)。
 その上でアレをやるなら、もう少し仕掛けと話の筋とに有機的なつながりを仕込んで欲しいところ。伏線の乏しさからして、執筆後半に思い付きで付け加えた設定か、とも勘繰りたくなる。
 しかし一方で、山田正紀らしいと言えば非常にらしいネタであって、つい顔がほころんでしまいもするのである。

No.87 7点 花面祭- 山田正紀 2024/03/16 12:55
 華道と言う素材と山田正紀ブシを巧みに融合。浮世離れした異界ではなく現代日本の生活者を描きつつ、花の彩り・時の移ろい・輪廻転生を鮮やかに幻視させる言の葉の力を感じた。トリック云々より人の心が織り成すミステリ。特に夏のエピソードは良く出来ているのではないか。
 ただ、“天才華道家” の天才性をエキセントリシティだけで表現しちゃうのはちょっと不公平かな~。この人はココが凄い、と言うのを具体的に示して欲しかった。全編を貫く “しきの花” は、正体が判ってみれば詭弁だろう。華道の素養があれば受け取り方も違うのだろうか。

No.86 7点 エイダ- 山田正紀 2024/03/01 13:59
 照れ隠しのような演出を施しつつの物語原理主義宣言である。断片的にばらまかれる様々な “現実” に於ける “物語”。個々で見るとそれぞれ読み応えのあるエピソードなのだが、それらが収斂する結末でやや推進力が落ちてしまったのが如何にも惜しい。
 読んでて良かったメアリ・シェリー『フランケンシュタイン』。本作中で言及されるイメージは原典でないと摑みづらいんじゃないかと思う。ホームズも登場(一応言っとく)。

No.85 5点 愛しても、獣- 山田正紀 2024/01/17 12:04
 男には “獣” が潜んでいる、と言うのはステレオタイプだと思うが、“こんな姿は見たくない” と思わせる部分を容赦無く突き付けてかつてなく読者を凹ませる山田作品。
 ただ、そういったメイン・テーマよりも、一世代前の炎上の様相が悲惨で印象に残った。しかも真相が明らかになっても光はあまり見えない。矛先があっちの家に変わるだけである。

 ところで結果論として、悪意ある彼女の行動が想定外の真相を引きずり出したわけで、その点の面白さはもっと強調しても良かったのでは。

No.84 7点 1ダースまであとひとつ- 山田正紀 2024/01/05 13:38
 初出誌がどこにも記載されていないが、全部書き下ろしなのだろうか(未確認)? ジャンルを分散させることで全ての作品が全ての作品の箸休めを為しつつテイストの変化を常に味わえる巧みな円環を描く短編集、を意図したのかもしれない。
 気軽に楽しめる短編が揃っていて概ね満足。「システムダウン」だけは今一つ。凝っているけどそれに見合った効果が得られていない。

No.83 7点 雨の恐竜- 山田正紀 2023/12/29 15:24
 ヤングアダルトのレーベルを意識したのか、いつもより柔らかみのある文体、しかし時々いかにも山田正紀なやりとりが挿まって苦笑を誘われる。
 作者はその枠組みを上手く使って、中学生と警察官と恐竜をシームレスにつないでみせた。読者はいつの間にか十四歳になっており、夕日の中の恐竜はあまりにも美しい。

 ところで、登場人物紹介に “斉藤ヒトミ:本書の語り手” とあるが、彼女は視点人物であって語り手ではないよね。
 一貫して彼女の見たこと思ったことだけが書かれてはいる。一ヶ所だけサヤカの視点になる部分があるけど、それはその場にいたヒトミにサヤカが語った事柄だとの解釈も可能。
 すると実は “ヒトミ” と言う表記は一人称? 叙述トリック(笑)?

No.82 7点 五つの標的- 山田正紀 2023/12/21 13:04
 私は「真夜中のビリヤード」が、山田正紀の短編の中で五指に入るくらいには好き。氷川さんの出番が少ない気もするが、ポイントを絞るならこんなものか。敗者の悪足掻き、ラストのアイデアが良い。
 一つだけややテイストが違う「ひびわれた海」は、長編パニック小説からの抜粋みたい。同じような方向性でもっとちゃんとした作品が幾つもある、と言う意味で物足りない。
 いや、でもそれを言ったら、この作品集に山田作品としての新しさは、まぁ無いかな。小市民が(よせばいいのに)からっぽの拳を振りかざす様に、私は少し笑ってまた途方に暮れるのだった。

No.81 6点 蜃気楼・13の殺人- 山田正紀 2023/12/14 13:30
 全体を包む大きなトリック。それを成立させる背景の設定等には、関係者が色々と無茶をする理由がきちんと感じられた。
 しかし物理的トリックは……ランナー消失はともかく、串刺し死体や空飛ぶトラクターをあんな説明で片付けるなら、寧ろ無くても良かったのでは。

No.80 7点 天動説- 山田正紀 2023/12/07 13:56
 角川ノベルズ版は全2巻。戎光祥出版から合本で復刊。
 初出が雑誌連載なおかげか一話ごとにしっかり山場が盛り込まれ、安心して読めるエンタテインメント作。最終話のちょっとした飛躍も効いている。
 “鉄太郎” が次男であることが最後まで気になったが、結局何の伏線でもなかった。“心の臓だ!” って言い方がツボ。

No.79 7点 ジャグラー- 山田正紀 2023/11/30 12:53
 『ジュークボックス』の、続編、とはちょっと違うな、緩やかな姉妹編? どちらもJで始まる七文字。
 初期作品の “神” の代わりに、ここでは “言語” そして “コンピュータ” が触媒だ。
 “現実” も脳と言うセンサーのフレームに限定されたヴァーチュアル、との認識に則るなら、1~2章では日本中を巻き込んでいるかのような闘争が、3章では噂話レヴェルの遠景に後退する格差こそ本作のキモのように思う。重層構造のミステリに通じるところもある。
 ただ、個人的にはアメ・コミ(映画も含む)に馴染みが無いので、“余所のネタ” で終わってしまった。アトムやドラえもんで書いてあればなぁ……。

No.78 7点 弔鐘の荒野- 山田正紀 2023/11/24 14:16
 手堅い下請け企業謀略もの、かと思ったら後半で大いなる飛躍、しかし無体なツギハギではなくシームレスにつながって、一つの物語として自然に成立しているあたりは流石。死者はどうあるべきか、AIが問題になる現在、改めて読むと発表時よりリアルに考えさせられた。“橋を渡る/渡れない” の例えが切ない。あの政治家の “想像力の無さ” も凄いな。

No.77 6点 美しい蠍たち- 山田正紀 2023/11/18 12:30
  “思い切り人工的なミステリーをめざした” とは作者の弁。でも骨組みを剥き出し過ぎだと思う。色々な説明が台詞だけで済まされているけど、信頼出来る発言者などいないじゃないか。もうちょっと肉付けして欲しかった。それを排した点こそ “人工的” たる所以か?
 最初と最後でのヒロインの変化と、出番は少ないながらメイドの存在が効いている。戸籍上の続柄や相続に関する説明には疑問点アリ。

No.76 7点 血と夜の饗宴- 山田正紀 2023/11/04 13:50
 “電脳ゴシックホラー” だそうです。
 主人公ポジションの人がバタバタ逝く流れは “犠牲の上に成り立つ戦争” っぽくて、妙に強い一般人が登場するより説得力がある。個々のエピソード(と言うか “死に方”)は短くも鋭くまとまっていて飽きさせない。パターンの繰り返しがジワジワ来る。でも前哨戦で終わっちゃうのね。此処からが本当の戦いだ……!

No.75 5点 ジュークボックス- 山田正紀 2023/10/28 13:52
 ランガーそして意味不明な戦争。基本のアイデアは魅力的なのだが、五人の死について順番に描く構成がやや単調。ジャンクな雰囲気は当然意図的なものだろうが、エピソード自体に全力で楽しむのを引き戻すような変な抗力があって乗り切れず。生成AIを先取りしたような最終章の種明かしの先に、もう一波乱欲しかった。

No.74 7点 宇宙犬ビーグル号の冒険- 山田正紀 2023/10/06 13:08
 一捻りした設定のおかげで、古式ゆかしい侵略もの冒険SFを素直に楽しめる。しかし、動物に仮託することで殺し合いの残虐さが中和されると言うのは、考えようによっては危険な手法かもね。

No.73 6点 ゐのした時空大サーカス- 山田正紀 2023/09/30 12:51
 人間と時間の本来の関係とは。素描のような短いエピソードを並べて物語の輪郭を浮かび上がらせる手法で、動的な展開は乏しい。雰囲気ものに留まったとの感もあるが、詩情を生かすにはこのくらいが良いのかもしれない。これは時空を一編の詩に変えてしまおうと言う企みであって、アクション映画を目指しているわけじゃないからね。

No.72 5点 私を猫と呼ばないで- 山田正紀 2023/09/14 13:25
 ミステリは薫り付け程度。これは飛び道具無しで二十枚を如何に凌ぐかと言う挑戦なのだろうか。エンタテインしないことこそがエンタテインメントである、みたいな。私としては切り込む糸口が摑めない話が多く困惑したが、最も意味不明な「つけあわせ」が最も印象に残っているのはどうしたことか。
 ところで猫が登場すると無条件で好感度が上がるな~(と言うのは実物の猫のことであって表題作のことではない)。

No.71 6点 まだ、名もない悪夢。- 山田正紀 2023/09/07 13:12
 “TVの深夜ドラマのシノプシス” なる設定はどの程度意味があるのだろうか。敢えてその趣向に乗っかるなら、映像化に向いていそうなのはせいぜい半分程度。モノローグが多過ぎると思う。御色気サーヴィス回もアリ?
 その設定は単なる体裁だから! と言う作者の開き直りが、完全にSFの「冷凍睡眠の悪夢」や不条理なオチの「訪問販売」の収録を許したのではなかろうか。でも無理のあるものほど、映像を脳内でイメージするのが面白かったりもする。
 中途半端な設定は気にせず、単なる奇妙な味の作品集として読んでも良し。

No.70 8点 第四の敵- 山田正紀 2023/08/10 12:28
 目次を見るといきなり! カフカじゃないか。これは私の専門なので任せたまえ(嘘)。
 例えば巨大にして曖昧な “敵” の組織は「流刑地で」の奇妙な処刑装置を抽象化したものと読める。主人公がやらせのドキュメンタリーの主役を務めさせられそうになるのは「変身」の逆転であるし、何処まで行っても中枢に近付けない無力感は『城』そのものだ(嘘)。
 しかしこちらはエンタテインメントだから、カフカのように停滞はせず西へ東へテンポ良く駆け回る。敵も味方もキャラ立ち充分。ミス・チャンは出番さほど多くもないのにラストで随分良い役だね(確かに真意を測りかねる……)。

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虫暮部さん
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