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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1706件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.686 5点 大江戸ミッション・インポッシブル 幽霊船を奪え- 山田正紀 2020/02/25 10:53
 前巻の順当な続きであって、それ以上の物凄いものでは、まぁない。どくろ大名のキャラクターはナイス。時代物ならではのトリックには苦笑。少し端折って1冊にまとめた方がスピード感も出て良かったのでは。ビジネスのことは言うな!

No.685 6点 カナリヤ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2020/02/20 13:45
 なにしろ有名な“アンフェアな手掛かり”のネタバレ作品であるからして、答え合わせ程度のつもりで読み始めたが、それだけでは解釈しきれない矛盾が色々あるし、警察は無能だし、かなりやきもきさせられ予想以上に楽しめた。
 ところで、当時は四階建て程度の規模のアパートメントで専属の“電話交換手”と言う職業が成立したんだ? いつの世もテクノロジーは職を奪うね……。

No.684 7点 流氷民族- 山田正紀 2020/02/20 13:43
 SFサスペンス、なんだけど思い返してみるとSF要素つまり亜人類に関する魅力的な設定は殆どが又聞き情報。美少女が写真と同一人物だときっちり確認されたわけではないし、眠る人々もスケールの大きなカルト集団に見えなくもない。あり得ない場面が読者の前に直接提示されることはなかったので、全てが壮大な勘違いとの解釈もアリ?
 それはそうと、終盤の船上の場面はカタルシスに満ちていた。峰くん見直したぜ。その後のミステリ的解説が結構ぐだぐだなのには参ったけどね。

No.683 5点 二度のお別れ- 黒川博行 2020/02/15 12:19
 あまり好みのタイプではない。が、その割に面白く読めた。が、真相は“やっぱりそうか”である。
 逃げ切った犯人がしかし全然幸せになっていない、と言う部分をサラッと流していて勿体無い。そこはもっとじっくり読みたかった。構成上難しいか。

No.682 7点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2020/02/15 12:18
 文章が良い。美文名文ではないが、読者を作品に踏み込んで行く気持にさせる力がある。刀自が手毬唄を聴かせる場面はゾクゾクした。歌詞自体はプロローグで既に提示されているのに改めてそんな気分になるのは凄いことだ。
 真相解明によって全てがピタリと嵌った感じは正直あまり無いが、本作に於いてはさほどマイナス要素ではない。
 登場人物が多くて混乱するので、フルネームでの表記をもっと多くして欲しかった。

No.681 5点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2020/02/15 12:17
 読みながら思ったこと(順不同)――

・こういうプロットは他にも読んだことがある(クイーンの作品の方が元ネタなのかもしれないが)。
・文化に基づく習慣を根拠に性別を推測するのは強引。
・誰一人引っ掛からない偽の手掛かり、って単なるページ稼ぎでは。
・詐欺行為のカムフラージュに窃盗/強盗/不法侵入を行うのは、捕まるリスクを増やすだけでは。
・七匹も買われる前に何か変だと思わないものか。店員が“買ったものをどうしようと御客様の自由ですから”と言うキャラクターならともかく。
・殺人現場を調査中のエラリーは、何故“偶然、ドアノブを拭いて指紋を全部拭きとった”のか。下手すると証拠隠滅。

 しかし、突っ込みどころの無い作品が優れていると言うわけでもなく、一番面白かったのは、手掛かりがわざとらしい「ガラスの丸天井付き時計の冒険」。巡らした策が却って首を絞めている、余計なことしなきゃよかったのに、と普通なら言うところだが、ここでは犯人のミスに説得力が認められていいね。

No.680 5点 グレイメン- 石川智健 2020/02/08 10:52
 文章は、まぁ褒められたものではない。どうにも硬くて、直線だけで描いた絵、みたいだ。ただ、兎にも角にも絵になってはいる。小説の文章はこうあるべし、と言うのは狭量な先入観なのかもしれない。米韓でも出版されたとのことで、翻訳に於いてはこういう侘び寂びの無い文体が有利に働くかも。
 色々突っ込みどころはあるが、作者の意図はどうあれ、楽しめる与太話。とりあえずそれで充分。

No.679 7点 5まで数える- 松崎有理 2020/02/08 10:51
 可笑しな味わいの、しかしなかなかの佳作揃いだと思う。もとより決してリアルな設定の話ではないが、語り口の醸し出す絶妙な嘘っぽさが本書を特別なポジションに引っ張り上げている。

No.678 4点 ラミア虐殺- 飛鳥部勝則 2020/02/08 10:49
 なんじゃこりゃあ。ゲテモノは嫌いじゃないが、やはりそれだけじゃ駄目なんだな。百歩譲って大まかなプロットとしてはまぁアリかもしれないが、その具体化が全然上手く出来ていない。誰かリライトしたら?

No.677 7点 人面屋敷の惨劇- 石持浅海 2020/02/08 10:48
 状況設定は面白い。しかしこの殺し方はリスキー。被害者が絶命する前に誰かがひょいと現場を覗いたら、一命を取り留めることもあり得る。下手人は被害者に顔を見せているわけで、苦痛を与えることよりも確実な絶命を優先すべきでは。

 “女性らしいふくらみのほとんどない肢体”だから色仕掛けは難しいだろう、と言う意見について、個人的には否定的である。

No.676 5点 宇宙細胞- 黒葉雅人 2020/02/03 13:27
 ぶっちゃけ、『ΑΩ』(小林泰三)みたいだ。“片手”と言う設定から『寄生獣』(岩明均)も想起させられる。『鉄腕バーディー』(ゆうきまさみ)にはバチルスなんてのが登場するし、遡れば『ソラリスの陽のもとに』(スタニスワフ・レム)、新しいところでは『粘菌人間ヒトモジ』(間瀬元朗)等。不定形の生命体とぐにぐにぷよぷよと言うのは一部の人類に普遍的な憧憬なのかもしれない。
 出発点を考えると割と順当な展開で、物凄い驚きは無い。ラストの部分も、もっとグイグイ読ませる文章力があればねぇ……偏執的な文体は意図的なものだと思うが、私とは微妙にセンスが合わなかった。全体的に、もう一つ何か欲しい感じだ。

No.675 5点 キリオン・スレイの生活と推理- 都筑道夫 2020/02/03 13:23
 “こういう奇妙な事件にしたい、その為には犯人がこういう風に動けばいいはずだ”と言う作者の思惑だけで登場人物が駒のように行動して不自然。犯人やその関係者の作為が妙に回りくどかったり、心情的に何故そこでそう動くのか納得しづらかったり。物語としての枝葉末節をもっと整えるべきだった。

No.674 7点 ユートロニカのこちら側- 小川哲 2020/02/03 13:22
 情報技術による“ありそうな未来”、と言うことで大枠のパターンには既視感がある。しかし物語る手管の上手さ、脇役の説得力、あちこちに埋め込まれた小ネタなど、メイン・テーマ以外の要素が良く出来ていてそういう部分で勝ちだ。個人情報の監視によって発見される予備犯罪者への対処、なんて問題も俎上に乗せられている。

No.673 7点 終末曲面- 山田正紀 2020/02/03 13:19
短編と言う枠の中に押し込められた物語の軋みが聞こえる。背景としてもっと大きな世界が感じられ、いわば設定としては長編的、結末は短編的、故に文字で表現された以上のエッセンスが行き場を失くしてえも言われぬ焦燥感を生み出した。特に「薫煙肉のなかの鉄」の世界にはもっと浸りたかった。
 「銀の弾丸」は、日本人作家による史上二作目のクトゥルフもの作品だとか(一作目は高木彬光「邪教の神」)。

No.672 5点 イシャーの武器店- A・E・ヴァン・ヴォークト 2020/01/30 12:37
 二大組織の対立を背景に、スパイ・スリラーや経済事件やロマンス等々の小ネタを混ぜ、面白い部分もあるのだが総体としていまひとつ噛み合っていない。原因は、“武器店”なる存在に説得力が足りない(単なる反政府組織と何が違うの?)にもかかわらず存在感は大きいので、物語の基本設定があやふやになっていることか。過大評価は避けたい。

No.671 6点 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー 2020/01/30 12:32
 随分と俗っぽい牧師さんだ。GOOD!
 ところどころにさりげなく埋め込まれたユーモアも冴えている。

 「夜中の十二時にスーツケースを持って、森の中で何をするつもりだったんでしょう?」
 「ひょっとすると――古墳の中で眠るつもりだったのかもしれませんよ」

 とか。これに何も突っ込まずにシレッと続くところが GOOD!

 “最初はまさかアクロイドではと疑った”←私も!

No.670 8点 息吹- テッド・チャン 2020/01/30 12:31
 極端に寡作な兼業作家が、しかし評価も人気も上々、と言うポジションに就けるのは、作品が高水準なだけでなく、取替えの利かない個性あってのことであろう。
 「商人と錬金術師の門」は、まぁ面白いが、意図的に借り物のスタイルで書いているせいもあって“個性”と言う感じはしない。
 それを除けば、どれもかなり高水準かつ個性的。「息吹」など、まさにセンス・オヴ・ワンダー、笑いも感動も許容する無二の世界だ。
 ただ、「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は――訳文の巧みさも相俟ってディジエント達の愛らしさがたまらない。考えさせられつつも胸が温かくなる傑作――なのだが、既視感がある。具体的に何に似ていると言うわけでも、この作品に限った話だと言うわけでもないけれど、AIやITを題材にしたSFは“その時期の最先端を見て、更にその先を想像する”と言う点で早い者勝ち競争みたいになっていないだろうか? 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」にもそのケがある。タイム・ラグが生じ易い寡作の短編作家は不利。

No.669 5点 花の下にて春死なむ- 北森鴻 2020/01/30 12:29
 表題作と「魚の交わり」で描かれた哀切な人生と謎の絡みはなかなか読み応えアリ。この2編だけなら高評価出来た。
 しかしそれ以外は、ミステリとしても人情話としても中途半端。文章力がその不足を充分補えたとも言い難い。“わいわい語り合う推理クラブもの”と言う形式を、上手く使いこなせていない気がした。

No.668 6点 樹木葬 ―死者の代弁者―- 江波光則 2020/01/27 11:09
 何年たっても世界は殺伐として、子供達は死ねとか死ぬとか喚き続けるのだろう。でも歳を重ねたって繕い方が多少身に付く程度だ。人間になるのはとても面倒臭い。作者はどこまでも一人称のまま、読者の背中を少しだけ蹴飛ばして放置する。

No.667 7点 声の網- 星新一 2020/01/27 11:03
 広義の“レトロフューチャー”か。電話が携帯電話に進化しないまま別方向へ向かった時間線。同作者のショート・ショート群ともまた違った空気感(登場人物がエヌ氏ではなく具体的な日本人の名前である点も大きいかも)を持つ作品世界の予見性には驚いた。無色透明な文体で綴られる、微かな不穏さを孕む静謐な物語は、それ故に、怖い。
 実は、インターネットが普及する以前に本書を一度読んでいるのだが、その時に抱いた感想は全く記憶にない。もう二度とそんな読み方は出来ないだろう。嗚呼口惜しい。

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虫暮部さん
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泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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