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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1701件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1641 7点 機工審査官テオ・アルベールと永久機関の夢- 小塚原旬 2024/02/02 14:39
 “永久機関” と言う題材は魅力的なセレクト。なんだけど同時に弱点にもなってしまった。機構のメカニズムそして矛盾点が文章だと甚だ判りづらい。
 一応図版もあるが、“これはあくまで小説だから” って感じで遠慮がち。もっとしっかり、なんなら本文で説明しなくても図版だけで理解出来るくらい書き込んで欲しかった。こんな表紙イラストのくせに、今更気にすることないって。

 現代人たる読者は “永久機関は不可能” との認識で読むから扱いが難しいよね。

No.1640 7点 月光蝶- 月原渉 2024/02/02 14:37
 (ロジカルな推理の結果ではないが)犯人が判り易くない?
 一人だけ、存在感はあるのに物語に於ける配置がはっきりしない者がいて、“作者は何の為にこの人を登場させた?” と考えると犯人かな~、と。
 まぁそんな邪道な読み方はともかく書き方は面白い。文体の使い分けで、見える景色を巧みに描き分けていると思う。
 但し、“基地への出入り” の問題。確かに広義の “密室” ではある。しかしトリックがあの程度なら “密室” を連呼して期待を煽るのは止めた方が良かったのではないか。

No.1639 6点 トゥルー・クライム・ストーリー- ジョセフ・ノックス 2024/02/02 14:37
 芥川龍之介「藪の中」を700ページ弱に引き延ばしたもの。

 それは言い過ぎか。でも、長い。関係者のインタヴューで構成されているので読み易く、情報の密度は低いが、それを踏まえてもここまでの紙幅を費やす必要は無いと思う。
 物語として悪くはない。不動産王の火災事件が絡んで来たところは興奮した(アレが真相でも良かったんじゃない?)。
 一方、メタフィクション的構造の意義が物凄く有るかと言うと頷けない。我が国の新本格勢の方が上手だ。

 証拠物件の “雑誌などの出版物から切り取られた男の写真” について。裏面を調べれば出処を特定する手掛かりになり得るのに、その点の言及が無いのは作者の手落ち。
 あと、この手の作品に日本版解説はいらない。

No.1638 5点 情景の殺人者- 森博嗣 2024/02/02 14:35
 指示役がいて実行犯がいてと言う真相やその関係性など、最後にサラッと明かされて終わり。これは複数視点を使うとかして犯人サイドからもっと描かないと面白くない。
 物語の始まりとなる浮気調査は結局どういうことだったのか。“わざわざ証拠を摑まないといけないことかなぁ” はもっともな疑問で、それが解決していない。
 印象的な情景が無かったわけではないが、私は寧ろ “それを美しいと感じる、とはどういうことか” と言う方向へ考えさせられた。

No.1637 4点 ダミー・プロット- 山沢晴雄 2024/02/02 14:31
 何か不自然な話。
 読了後の総括として見返すと、(恐喝者殺しは別として)死んだ男と消息不明の女は、表向き主犯と直接のつながりは無い。重要なのはAの死体をBだと偽装することで、それ以外は余計なトリックを弄さないのが一番、のパターンだ。アリバイ工作とか、怪しいだけじゃないか。
 擁護するなら、予めキッチリ計画された犯罪ではなく泥縄的に展開した観はある。その点をもっと強調すれば説得力が得られたかも。
 “何故、手首を小包で送ったのか?” にまつわる部分には感心した。“被害妄想による殺意” も気持は判る。でもなぁ……過大評価は避けたい。

No.1636 9点 奏で手のヌフレツン- 酉島伝法 2024/01/27 12:34
 私は漢字マニアなので、たまに漢和辞典を読み耽ってしまう。
 常用でない漢字と言うのも当然ながら沢山あり、それら見慣れぬ文字(全くの未知ではなく個々のパーツには見覚えがあるところがミソ)を眺めるのは或る意味で至福の時。本書はそんな目眩く感覚で貫かれた作品。

 視覚的説明を極力排して言葉のイメージで築かれた世界は、やがて必然的に言葉そのものの基盤を失ってしまう。例えば、彼等は人らしいし顔の横には耳が付いていて頭には髪が生えるらしい。しかし耳の形状は判らず髪は痛覚を持っている。そうなると顔とは? 頭とは? となって、信用出来る言葉がどれなのか混迷に向かう。それが読んでいるうちに、判らないなりにイメージが固まり、曖昧なまま確からしく思われて来る。イヤこれは頭が歪むぜ。
 生態が曖昧な “人” でも日々の営みや親子の情は普遍なんだな~、と言った甘い感慨は、作者にとってきっと目的ではなく手段。ハードとソフトが逆転して、この異世界構築自体が主目的なんじゃないかと思う。
 それでもやはり大団円はやって来る。(通常の)物語的なカタルシスに飲み込まれて、それはそれで暫し感泣。涙石が落ちる身体でなくて助かった。

No.1635 7点 歌われなかった海賊へ- 逢坂冬馬 2024/01/27 12:32
 こういうプロットはジレンマを孕んでいると思う。
 “体制の奴等の言うことを鵜呑みにしてはいけない”、それはそのまま “反体制の彼等の言うことも鵜呑みにしてはいけない” と言うことである。ほんのちょっと視座を変えれば(変えずとも?)これはテロリストの物語。ナチ側にだって個人単位で見れば同じようなドラマがあってもおかしくはない。
 つまり、“戦時下でもこんな風に抗った市民がいた!” と安易にヴェルナーに絆されるようなら、それはそれで危険だ。それが本作の教訓。

No.1634 7点 可燃物- 米澤穂信 2024/01/27 12:32
 飛び道具無しで地味。謎のポイントを親切に絞って判り易いが、その結果として小粒な印象。
 葛の思考は地の文で記述されるが、口に出す言葉は少ない。テレパシーじゃ伝わらないんだからさ。意図の共有を図らないこういう指揮官は、たとえ有能でも結構危険なんじゃないだろうか。

 そして巻末。法律的な手続きについて、弁護士が検め済み、とわざわざ断っているのだから、作者はそこに注目して欲しいのだ。
 つまり、諸々のミステリで描かれる警察官の行動は法律上リアルではない、正しくはこう、と実作を以て指摘している。自粛警察に倣って言えば “警察警察” 小説? うわっ、嫌な奴。

No.1633 7点 ブラウン神父の秘密- G・K・チェスタトン 2024/01/27 12:30
 意外にも全編をミステリとしてそこそこ楽しく読めた。中でも「ヴォードリーの失踪」が見事。

 ネタバレするけれど、「マーン城の喪主」は何か変だ。病死、と思ったら実は決闘、と思ったら実は謀殺。
 でも、対外的に病死で押し通すなら、どんな殺し方でも構わない筈。なぜ芝居じみた “決闘” の形を取ったのか?
 関係者の意図について記述が曖昧で断定はしづらいが、このトリック(=謀殺をフェアな決闘に見せかける)はさしあたり相手方の介添え人ただ一人を標的として行われている。それを世間に対するカムフラージュとして機能させるには、“実は決闘” と言う秘密がもっと人々の口の端に上る状況が必要。ところが “病死” で片付けたいなら、もはやそんなカムフラージュは、病死ではないと知る人間を増やすだけの邪魔者なのである。
 結局、犯人はどういう決着を目指していたのか。“病死” にしたいなら決闘プレイは不要。“決闘だけどフェアなものだったからそんなひどい罪ではないんですよ” と言うことにしたいなら病死を装うのは不要。と言うことになる。読者の視点と作中人物のソレを混同した作者のミスだと思う。

 「メルーの赤い月」。成程、この駄洒落の為にブラウンと命名したんだな。

 もう一点。“棍棒のような握りのついた太く短い蝙蝠傘” とあるので、装画の傘は違うね(笑)。

No.1632 6点 琉璃玉の耳輪- 津原泰水 2024/01/27 12:30
 謎解きよりも数奇な運命と活劇がメインの江戸川乱歩系探偵小説。登場人物達の錯綜した動きはなかなか歯応えがある。
 原案(1927年、公募に落選した映画脚本の草稿)も併読。割と雑な展開をどうにかまとめる為に津原泰水は大胆に改変した。加えたネタの中には尾崎翠「第七官界彷徨」他を髣髴させるものもあったりして、“原案を小説化” と言う状況を巧みに遊んでいる。
 もともときっちり平仄を合わせないまま終わらせることの多い津原が、今回は立場上伏線回収に勤しんでいるのが可笑しい。追加部分で言えば、久々に再登場した木助があっという間にああなってしまうのは切なかった。

No.1631 5点 抜け首伝説の殺人 巽人形堂の事件簿- 白木健嗣 2024/01/17 12:06
 妖怪話や田舎の情緒で雰囲気を出したいのか、事件捜査の整然とした流れで行くのか、どっちつかず。真相よりダミー推理の方が印象的。破綻はしていないが、新しい何かと言ったものではなかった。視点人物の卑屈なキャラクター設定は良いかも。

 “100年” なるイラストレーターによる装画がやけに怖く感じて見る度に心臓が暴れるんだけど、どう?

No.1630 5点 愛しても、獣- 山田正紀 2024/01/17 12:04
 男には “獣” が潜んでいる、と言うのはステレオタイプだと思うが、“こんな姿は見たくない” と思わせる部分を容赦無く突き付けてかつてなく読者を凹ませる山田作品。
 ただ、そういったメイン・テーマよりも、一世代前の炎上の様相が悲惨で印象に残った。しかも真相が明らかになっても光はあまり見えない。矛先があっちの家に変わるだけである。

 ところで結果論として、悪意ある彼女の行動が想定外の真相を引きずり出したわけで、その点の面白さはもっと強調しても良かったのでは。

No.1629 5点 蠅の王- ウィリアム・ゴールディング 2024/01/17 12:02
 奇妙な手触りの小説だ。
 孤島に漂着した少年達。そこに至るまでの説明は殆ど無し。人数も経歴も不明。都合良く温暖で、食物も手に入る環境。
 それはまるで、或る瞬間に突然実体化されたような、しがらみの無い箱庭。“人間のあり方を追求した” のは確かだろうが、私には人間を超えた高位知性体がその為の実験観察をしているように思えた。“ような” ではなく本当に孤島と少年達を地球と言う実験室に創ったのである。
 と言う視点で読むと、“蠅の王” の台詞は単なるイメージではなく実際に音声として存在したのだろうし、ラストに登場するアレもその何者かの采配だ。メタ的には完全にSF。
 以上は多分に曲解だけれど、私にとってはプラスに働いた部分。

 以下はしっくり来なかった部分。
 少年達の前半の言動が全然リアルではない。危機感の無さ。蛮人ごっこなんてするか?
 暴走の始まりも、何故あの程度のことがきっかけになったのか、または逆にあの時点までは何故平気だったのか(もっとさっさとグチャグチャになるかと予想していた)。極限状態の描写なら孤島ミステリ(の出来の良いもの)の方が遥かに優れている。

No.1628 5点 殺人現場へ二十八歩- 都筑道夫 2024/01/17 12:01
 文庫版解説に倣って都筑道夫作品を構成要素に分解すると、①ストーリー。謎と論理のエンタテインメント。②小道具への興味、諸々の薀蓄。役に立たない物事について実に博識。③下町の風物の活写。多分にノスタルジックではあるが、もはや良くも悪くも作者の看板。
 なまじ②③で巧みにページが埋まってしまうせいで、本書では①のミステリ部分がなおざりにされている気がする。“新しいアイデア” と言う感じが全然しない。

No.1627 4点 ママに捧げる殺人- 和田はつ子 2024/01/17 11:59
 我孫子武丸『殺戮にいたる病』はOKなのに、何故コレは違うのだろうか。吐くから? 痩せ過ぎた骨の感触が怖い? 凄絶な心身の病、でも正直に感想を言えばみんな気持悪い愚者達だ。潔い程、共感出来る隙が無い。上手く描かれているせいで忌避したくなる。

 人間関係が都合の良い偶然で成り立っており、何か大きなトリックを期待したが肩透かしで残念。作中で刑事の思考を借りて読者に向かって言い訳してるけどね……。

No.1626 8点 すべてはエマのために- 月原渉 2024/01/11 12:51
 転落(二回もある)なんてほんの一瞬だから、意図的に目撃させるにはかなり微妙にタイミングを計らねばならない。従って目撃者二人のうち片方が共犯者で、もう片方を誘導する形だった筈。するとアクロイド方式か、またはシリーズ・キャラクターが犯人、どっちにせよ大胆だ。
 なんて思ったのだが、この指摘は野暮?
 
 それを抜きにすれば、登場人物達の心情が腑に落ちると言う点で、シリーズ中屈指の説得力。

No.1625 6点 ポンド氏の逆説- G・K・チェスタトン 2024/01/11 12:50
 逆説とは何か。真理に反する説である。従って逆説の前に真理がなければならない。しかしGKCはまずタイトルでこれは逆説であると宣言してしまった。何と言う厚かましさ。そのため読者は真理を逆説の逆のものとして設定し直させられることになる。逆説にぶら下がった間接的な真理は心理的な不安定さを誘発するので文章は逆接だらけになるし道聴塗説ばかりで関節は複雑骨折に至ることも少なくない。最も重要な教訓は “物は言いよう” と言うことであって、その舌先三寸はまさしく見習いたいところだけれど、ミステリとしての面白さには必ずしも直結しないのが本作の難点であり、そのつまらなさを読むことこそ面白いと言う事実によって逆説を体現しているのだから作者の大言壮語も相互作用の一要素として有効性を認めざるを得ないのが何か悔しいじゃないか。

No.1624 6点 ハロウィーン・パーティ- アガサ・クリスティー 2024/01/11 12:50
 Trick or treat! じゃないの? アレは米国の風習? 日本人的な理解だと “こんなのがハロウィーン?” と疑問にも思うが、英国人による英国舞台の話だから嘘八百でもなかろう。

 犯人のキャラクターは気持悪くて魅力的。あと最後に殺され損ねた彼女も。
 但し、ストーリーや舞台の空気感とは合っていない。が、全編耽美世界にしないその齟齬、あんな思いも日常の言葉に回帰して行くあたりがクリスティっぽいとも思う。
 (現在の)第二の殺人は成り行きも描写も雑だ。“殺人は癖になる” って奴か。それとも作者は犯罪の低年齢化に対する警鐘を意図したのか。

No.1623 6点 秋雨物語- 貴志祐介 2024/01/11 12:49
 「フーグ」のラスト。防腐剤入りの水に漬かっているなら、内臓も腐敗しないのでは。そこまで強い効き目は無いか?
 「白鳥の歌」。作中でバッド・エンドに解釈されているのと正反対のことを私は思った。命と引き換えの幻であっても、ひととき手にした奇跡の声。それを使いこなすだけの能力があり、レコードとして遺せた。これは幸せな話じゃないのか?

No.1622 5点 湯殿山麓呪い村- 山村正夫 2024/01/11 12:48
 あちこちで物語がブツブツ切れている。なかなか村へ行かないのでやきもき。
 “謎の遍路” は呪いそのものが怖いのではなく、イマドキそれを信じている危なそうな人間の存在を暗示するので怖い。と言う演出を犯人は結構理知的にやっている? タイトルに象徴されるおどろおどろしさが、例えば横溝のようにはストレートに伝わってこない嫌いがある。ヴィジュアルにすれば怖いか。
 一番怖いのはエピローグ。示唆された部分には説得力を感じた。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1701件
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