皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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臣さん |
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平均点: 5.90点 | 書評数: 655件 |
No.595 | 7点 | 夜明けの街で- 東野圭吾 | 2019/09/18 10:48 |
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不倫話とミステリーの組み合わせ。
だいじょうぶかな、奥さんにばれないかな、とけっこうドキドキした(笑)。 恋愛・不倫モノはミステリー(サスペンス)に通じるところがあって楽しめた。 中盤ごろのある段階で、○○が探偵役で、不倫関係はこういう結末を迎えるのでは、と予測したが、まさにそのとおりだった。 ただ、真相そのものや、事件において○○や△△、××がどういう立場の人物なのかまでは想像できなかった。 トリックがあるわけでもなく、不手際なところも多々あり、ミステリー的にみればイマイチかもしれないが、面白くするためのプロット作りの巧さは抜群だと思う。 かなり上出来の作品ではないだろうか。 東野さんも素晴らしい恋愛モノが書けるのですね。 女性を描くのが下手だとか、女性の心理がわかっていないとかの声も聞かれるが、これだけ面白ければ問題なし。 クリスティーの男女モノの『ナイルに死す』や『検察側の証人』には及ばないが、こんな風に楽しませてもらえれば、個人的には大満足。 それに復讐物の要素があったのもよかった。 恋愛がベースになっている『容疑者Xの献身』は、マイナス面がどうしても気になって7点にしたが、本作はプラス面だけを見て7点にした。 |
No.594 | 6点 | 007/黄金の銃をもつ男- イアン・フレミング | 2019/09/18 10:39 |
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1964年、最後の長編。
フレミングの遺作ということで感慨深く読めたのはよかった。 ボンドの復活作品でもある。復活登場のシーンがなかなか面白い。 シリーズ最初の映画作品「ドクターノオ」が1962年なので、映像化を見据えたのか、派手なキャラクタが登場する作品となっている。 映画版を観ていないので、頭の中に映像は浮かんでこないはずなのだが、自分なりの想像にもとづく映像が浮かんできたのには驚いた。 本作の敵役であるスカラマンガは、ユニークでなかなか魅力的なワル。象のエピソードは印象的だった。本シリーズは、だいだいにおいてワルでもこんな扱いだし、そこが人気なのかもしれない。 一方のボンドは、冒頭でもラストでもけっしてカッコよくない。でもうまく描いてある。欠点を見せるのも人気の秘密なのだろう。 そのボンドとスカラマンガとの間で、もしかしたら友情が芽生えるんじゃないかと、ひやひやした。 と、キャラばかりを褒めたが、キャラのみの一点豪華主義で、ストーリーはスリルも変転もすくなく物足らない。「ゴールドフィンガー」ほどの変化のある話ならいいのだが、それには全くおよばない。 遺作なので評点はすこしオマケした。「ゴールド」の評点を6点にしていたので、本作とのバランスをみてプラスした。 |
No.593 | 6点 | コールドゲーム- 荻原浩 | 2019/08/27 10:12 |
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○○○系社会派青春ミステリー。
(○○○は、裏表紙にも書いてないことなので、出版社や著者の意図をくみとって伏せ字にした。もしかしたらジャンルとして表示されるかもしれませんがw) 初めからそうと知っていたら読み方が変わっていたかも。 青春モノらしいユーモアを交えながら、いじめを取り上げ、ほどほどに社会性を出したところはグッド。 真相を含め、終盤は十分に楽しめた。ラストの1行はどっちでもいいとも思えるが、これもまた良し。 ただ、中盤かそれ以降に、起承転結の転にあたる、うねりが欲しかった。中途で真相が透けて見えるという読者も多くいるようなので、ラストだけにたよらないほうがよかったのでは。 それと、青春ミステリー要素を際立たせるために、主人公の光也や亮太に、目に見えるような大きな変化と成長が欲しかった。光也は、語り手+α程度ではもったいないし、亮太にはもっと活躍してもらいたかった。でも、いじめが背景にあるから仕方ないのかなぁ。 <ということで採点は> 真相、どんでん返し、サプライズ、サスペンスなど、ミステリー要素全体としては、6.5点。 青春のほろ苦さを超えてしまっているし、登場人物の成長が少なめだから、キャラクタ性を含め、青春モノとしては、5.0点。 上記のように「転」が弱いので、全体の物語性としては、5.5点。 文章的には、7.2点。 以上 |
No.592 | 6点 | メグレ警視- ジョルジュ・シムノン | 2019/08/19 10:20 |
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世界の名探偵コレクション10
20ページ前後の短編が4作と、60ページ弱の短編が3作収録されている。 『月曜日の男』はハウ物、『街中の男』は尾行物、『首吊り船』は船内での死の真相物、『蝋のしずく』は姉妹登場の本格もどき。 『メグレと溺死人の宿』は交通事故が発端の推理モノ。『ホテル≪北極星≫』は背景となる人間関係が面白い。これら2作は、メグレの強烈な推理、というか容疑者たちとの対峙の仕方が見どころ。『ホテル≪北極星≫』は、メグレが定年直前の事件という点にも注目できる。 『メグレとグラン・カフェの常連』は、メグレの退職後に発生した事件に関する番外編のような短編。引退後の話なのでメグレ夫人の登場機会も多い。話はメグレのカードゲーム仲間たちの間で起きた事件に関するもので、情愛系、人情噺系という感じがして、なんとも味わい深い。 |
No.591 | 6点 | メグレと殺人者たち- ジョルジュ・シムノン | 2019/07/29 09:59 |
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このストレートすぎる邦題よりも、「メグレと彼の死人」のほうがしっくりきます。
前半部分で、この字句を連発していたこともあり、著者の意図が伝わってきます。 結局、この原題は、その死体本人へこだわりがあることを示唆しているのでしょう。 こういうところは上手い。 かなり評判のいいメグレ物で、しかもパターンがいつもと違う。 そもそもメグレ物は、種々雑多なスタイルとは言えますが。 男からの電話と、その男の死が、メグレにとってはなぜか重要なのです。 そこから重大な事件の真相につながっていくなんて、思いもよりません。 聞き込みも多く、メグレの推理も多い。 国際的ということもあって、サスペンス性は豊富。 と、ここまでは絶賛。 ただそのわりに、平坦に感じるのはなぜ? 変な言い方ですが、サスペンスがあるわりに緊張感に乏しく、意外にゆったりとしている印象も受けます。 せっかく200ページぐらいに収めるのだから、もっとすっ飛ばしながら、ビシッ、バシッと変化をつけて決めてほしいような気もします。 ということで、ベスト・オブ・メグレとまではいきませんでした。 |
No.590 | 7点 | 春から夏、やがて冬- 歌野晶午 | 2019/07/16 10:40 |
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きっと何かあるのでは、と常に気にしながらの読書でした。
しかし、気にかかっても大抵の場合、少し読み進めば著者からの回答が得られ、な~んだ考えすぎかと、少し安心したり、少し残念に思ったりもします。 娘をひき逃げで亡くした平田と、その娘と同年代のますみとの交流が中心に描いてあり、それを読むだけでも十分に楽しめます。 読み終えてみればミステリーとしては物足りなさを感じる反面、全編をただようミステリーの雰囲気にはおおいに楽しめました。 それに、二人はいったい何を考えていたのだろうと、いろいろ想像を巡らすことができ、藪の中的な読後感が得られたのにも満足しました。 語り合うのに最適な小説かもしれません。 |
No.589 | 5点 | ST警視庁科学特捜班- 今野敏 | 2019/07/11 09:51 |
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特殊技能を持つ科学捜査員たちの捜査物語。
といっても、特殊技能所有者は5人もいるので、それぞれはそれほど目立たない。 脇役であるはずの、昔ながらの刑事、菊池や、気の弱いキャリア警部のほうが負けじと目立っている。 ミステリーとしては、殺人が3件発生して、派手さはある。謎も多い。 でも、むりやり収めた感があり、謎解きやサプライズを求めると物足らない。 やはり、みなさんのご指摘のように、濃いキャラの集団ヒーロー物を楽しむつもりで読むのがいちばんでしょう。 しかも、シリーズ第1作では、全員のキャラを生かすのはむずかしいから、その後のシリーズを読みながら全員のキャラを楽しむという姿勢が理想的な読み方でしょう。 |
No.588 | 4点 | 最後の逃亡者- 熊谷独 | 2019/07/01 10:19 |
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第11回サントリーミステリー大賞受賞作。
ソ連時代のモスクワ等が舞台。 綿密に調査をしているのがよくわかります。これを想像では書けないでしょう。 場面の多くが主人公たちの逃亡シーンで、緊迫感が伝わってきます。ストーリー自体もよく練られていると思います。 残念なことが3点。 まず、ラスト。これはいただけない。暗すぎる。 2つめは、なぜ追われるのかという点。いちおうわかるが、もうちょっとくわしく書いてほしい。 そして、文章。視点が多すぎるし、転換も多すぎる。主人公クラスが4,5人いて、感情移入もできない。 唯一の日本人の登場人物、技術者・岡部信吾をもっと深く描き込んでほしいですね。 視点については、本格ミステリーでもないのでどうでもいい、とも思うのですが、いつもクセのように気になり、すぐに文句を言ってしまいます。 でも本作の場合、それが原因でかなり読みにくくなってしまいました。たんに読み方が下手なのかなと思ってしまいます。 |
No.587 | 6点 | ドルチェ- 誉田哲也 | 2019/06/10 09:31 |
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所轄勤務のベテラン女性刑事、魚住久江シリーズ。
主人公の魚住は、姫川シリーズの姫川玲子ほど個性的ではないし派手さもない。発生する事件にも強烈さはなく、殺人は一切ない。 魚住はいつも容疑者側に立って、容疑者たちのちょっとした秘密を探るところが全編に通じる特徴。 全体的にたよりなくあっさりはしているが、秘密を探っていく過程は十分に楽しめる。 この作家さん、本シリーズ、姫川シリーズ、ジウシリーズなど、女性刑事モノを得意としている。 誉田氏の他の作品の評でも書いたが、この著者は大衆受けするツボを心得ている。女性を主人公にするのも、そのあたりを考えてのことだろう。 |
No.586 | 7点 | 宝島- 真藤順丈 | 2019/06/05 13:15 |
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第160回、直木賞受賞作。
復帰前の沖縄が舞台で、突如として消えた、戦果アギヤー(米軍基地からの略奪屋)のリーダーを慕う男女3人(親友、弟、恋人)の、その後の沖縄返還まで(1950,60,70年代)を描いた青春ミステリー超大作。リーダーは、略奪はするも、奪った物をみなに分け与える、コザの義賊のような存在だ。 テーマはリーダー探しなのか? 年月が経つにつれ、三者三様、生き方や考え方が変化していく。3人がその後、あまりにもかけ離れた職業に就くところが面白い。 戦後の沖縄はおそらく荒廃していただろうに、登場人物たちは、なぜか荒々しく、生き生きとしている。こんな状態に置かれた人たちだからこそ、そうなるのだろうか。 読みながら、江戸侠客物や現代やくざ物、スパイ物、戦争物みたいな印象を受けていたが、やはり違う。沖、米、日が絡んだ国際謀略・闘争&青春物、といったところか。 直木賞の審査員評はおおむね絶賛。 個人的には、作風も分野も文体も、嗜好から少しずれていたが、シリアスな内容ながらも陽気な登場人物たちの行動に興奮しながら、楽しい読書ができた。しかも、アノ謎に最後まで引っ張られたのもよかった。 当時の沖縄を知らないだけに、リアリティがあるのか、荒唐無稽なのかもわからないが、スケールのでかい時代小説、冒険小説に臨むつもりで読めば、そのあたりは解消できるし、まずまず楽しめるだろう。 付け足しみたいだけど、ミステリー要素としては、大きな謎が2つあった。 大河小説なのにミステリー的な真相がラストに明かされれば、大河物としての値打ちが減殺したり、安っぽくなったりすることもあるが、本作については全くそんなことはない。 開示された真相は、期待以上のものだった。 |
No.585 | 6点 | 儚い羊たちの祝宴- 米澤穂信 | 2019/05/20 12:43 |
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ラストに衝撃があると聞いていたが、それほど驚けなかった。
それよりも、ストーリーそのものが味わい深いし、ユーモアを交えた話につい引きこまれてしまう。そんなところが良かった。 時代設定や、その時代の、ちょっと異質な主従関係を軸にした話がなんともいえず、怖さと、わずかな笑いを誘ってくれる。 『山荘秘聞』と『玉野五十鈴の誉れ』が、個人的にはまずまずの出来だった。 「バベルの会」でミステリー的にもっと強くつないでほしい気もしたが、作品群のイメージからは、この程度がよかったのかも。 妙味な雰囲気のある短編群だったが、評としては並みの上で、ごくごく普通のレベル。 |
No.584 | 7点 | 予告された殺人の記録- ガブリエル・ガルシア=マルケス | 2019/05/08 13:28 |
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南米のとある村社会で起きた殺人に関するルポルタージュ小説。
(以下、ややネタバレ気味) 花嫁となるアンヘラ・ビカリオに関する、ある理由で、アンヘラの過去の相手だったとされるサンティアゴ・ナサールがどのような経緯で殺されたのかが主題で、さらに当事者たちのその後のことも語られている。 釈然としない点はある。 こんな理由で、こんな経緯で、惨殺といってもいいほどのやり方で殺されることが、あまりにも不条理すぎる。 アンヘラの家族・ビカリオ一家(殺害者側)や、バヤルド・サン・ロマン(アンヘラの結婚相手)にとっては、いまの日本とはかけ離れた南米の村社会においては、不名誉で屈辱的なことなのだろうと、理解するしかない。 でも釈然としなくても面白い。いや釈然としないからこそ惹きこまれるのでしょう。 それに、なんといっても、時間軸を行ったり来たりしながら語られる手法が、興奮が持続して、いいのかもしれません。時系列にせずに、静と動が入り乱れるように、最後にクライマックスをもってくるあたりに、著者のエンタテインメント作家としての力量を感じられます。 数年前に本書を初読し、このたび評をアップするために、あらすじを必死で思い出そうとしましたが、細部を思い出せず、結局再読しました。 映画化作品もあるので、110分でおさらいするのもいいでしょう。ただ、原作が140ページ程度なので、集中して一気読みすれば時間的な差はほとんどないはず。と思って再読を選びましたが、やはり思いのほか時間がかかりました。 (余談ですが) 本サイトでタイトル検索をすると、同名の国内作品(高原伸安氏の作品)が出てくるのには驚かされます。 ガルシア・マルケスという作家は、1982年のノーベル賞作家で、国内外で人気が高く、影響を受けた作家も多いようです。高原氏もそんな作家のひとりなのでしょうか。 |
No.583 | 4点 | 夕暮れをすぎて- スティーヴン・キング | 2019/04/23 13:04 |
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長短全7編の短編集。
「ジンジャーブレッド・ガール」はワクワクしながら読めた。でも、それ以外の6作は、どれもこれもイマイチ。 短編なのに長く感じるのは、1作のネタが単位量当たりで見て小さすぎるからだろうか。 「ウィラ」や「エアロバイク」は魅かれるところもあってまだましだが、他4作は、はっきりいってよくわからんまま終わってしまうような感じだ。 それとも自分に、本当の意味での短編読みのセンスがないのだろうか? 個人的には、短編でも、長めに関係なく、しっかりとしたプロットのあるものがいいのだがなぁ。 ただ、文章的には悪くない。いつものような細かな描写には引きこまれる。 でも、本書の場合、それが災いしたのかなぁ。 |
No.582 | 6点 | 死の接吻- アイラ・レヴィン | 2019/04/03 10:13 |
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三部構成のミステリー。
第1部は犯罪者視点によるクライム・サスペンス、第2部は素人探偵1による捜査ミステリー&サスペンス、第3部は素人探偵2による真相解明推理&サプライズ・エンディング。 総称すれば、恋愛要素ありの半倒叙・半謎解き・全サスペンス作品といったところでしょうか。 いまなら、複数視点による章立て、カットバックなどのテクニックや、それらの複合ワザは、あたりまえのように使われますが、当時としては、メリハリをきかせた画期的なアイデア作品だったのではないかと想像します。 種々のテクニックを使って読者を楽しませてくれる。本当にすばらしい作品です。 じつは、文庫裏の解説と登場人物表だけで瞬間的に犯人を当てちゃいました。というか倒叙モノかと勘違いしたぐらいです。 第2部で犯人は明かされますが、個人的には上記の理由からもちろんOKですし、第2部につづく、すさまじき場面転換のある第3部があるので問題はないように思います。 この第3部では、著者がヤケクソになったか、と思えるぐらい唐突感ありの劇的な幕引きが待ち受けています。これには少しだけ絶賛するも、多大なる呆れも感じられました。 |
No.581 | 7点 | ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編- スティーヴン・キング | 2019/03/12 09:42 |
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「刑務所のリタ・ヘイワース」
映画「ショーシャンクの空に」の原作といったほうが、わかりやすいだろうか。 映画は痛快、感動ものである一方、原作はそのあたりは控えめで、しかもボリュームが170ページなのであっさりとした感じがする。 でも決して悪いわけではない。エピソードが要所、要所に披露されるのがよいし、レッドとアンディーの友情物語という骨格ももちろんよい。そして、ラストも言わずもがな。 副題のとおり、希望に満ちた春らしい作品だった。 「ゴールデンボーイ」 強烈な300ページ超の長編だから、乗れば満足すること間違いなし。 話は静かに始まるが、少年トッドと、老人ドゥサンダーの交流は徐々に凄絶さが増していく。 悲劇の主原因はトッドにあるが、ドゥサンダーもかなりのくせ者で手ごわい存在。この二人がぶつかり合ったり、協力し合ったりする中盤までも楽しめるが、後半の場面転換後から結末までがまたすさまじく読み応えがある。 副題のとおり、まさに転落の夏物語だった。 少ない登場人物でサスペンス感を表出した、ジェームス・ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」や、ルース・レンデルの「ロウフィールド館の惨劇」などが好みの方なら、間違いなく楽しめるはず。 キングの文章や表現方法は、他人行儀なところがなく、身近に感じるところがいい。特に「刑務所のリタ・ヘイワース」のレッドの語り口には魅かれる。 なかなかこういう作家にはめぐりあえない。ほんとうに素晴らしい。 |
No.580 | 4点 | 2分間ミステリ- ドナルド・J・ソボル | 2019/03/04 12:53 |
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解けるか、解けないかは別にして、推理クイズとしては、まずまずの出来だろう。
というか、文章だけで推理クイズを成立させ、それを本にするのには、この程度の短さ、この程度の内容が精一杯なのだろう。 ちなみに、私も正答率は3割程度だった。 でも、やはりミステリと呼ぶにはあまりにも短すぎる。小説として成立していない。 ウェバーの「5分間」シリーズというのがあるようなので、つぎはこれに挑戦しよう。 |
No.579 | 6点 | 悪魔の降誕祭- 横溝正史 | 2019/02/19 09:30 |
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「悪魔の降誕祭」 6点
絵に描いたような本格ミステリー中編作品。ドラマでいえば、60分に収まりそうな内容です。でも、160ページだけど2つの殺人があって、それだけで楽しめる要素は十分です。しかもコンパクトなのでわかりやすい。 犯人に意外性があり、金田一の謎解きは筋が通っているのだが、なんとなく釈然としない。動機なのかなぁ? 「女怪」 7点 金田一の恋心がベースとなっている、というのが特徴の短編小説。ミステリー的にみればたいしたことはありませんが、個人的にはお気に入りのベスト短編です。 「霧の山荘」 6点 CC館モノか、いや、一族モノか?実際はどちらの要素もかなり薄めで、あっさりしている。 でも本格要素はすくなからず詰め込んであり、イイ感じに仕上がっています。 真相は中編ならではといった感じ。かる~く楽しめます。 |
No.578 | 5点 | 白い僧院の殺人- カーター・ディクスン | 2019/02/06 12:37 |
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読みにくさが、まず気になりました。
前の方もご指摘されているように、場面転換がわかりにくく平板に見えること、見取り図がないこと、翻訳の問題など、ちょっと不手際に感じます。 3ページ進むごとに前に戻ったり、人物表を見返したり、とけっこう苦労しました。人物表を見ても、職業は書いてあるも性格はわからず(当たり前か)、少し書き込みしした程度ではほとんど役に立たず、といったところでしょうか。 ストーリーテラーと呼ぶには程遠い気がしました。 今まで読んだカーとは違うなぁ、せめて怪奇色があればなぁ、という印象です。 作者は人間関係を色濃く描くことで、推理ゲームではない、高尚なミステリー小説を書くぞ、と意気込んでいたのかもしれません。ところが意に反して、それほどうまくいかず、トリックだけが目立ってしまった。そんな感じでしょうか。 最後のHM卿の謎解きには熱くなりました。そこだけが高ポイントです。 |
No.577 | 9点 | 七つの会議- 池井戸潤 | 2019/01/23 10:15 |
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「シャイロックの子供たち」と同様の連作短編スタイルであるが、本書はさらに進化させた、まぎれもない長編ミステリーである。著者にとって、短編ごとの謎解きなんてどうでもよかったのだろう。短編をつないでどうやって大きな真相にもっていくのか。一話まるごとが伏線で、しかも一話ごとにも楽しめる。
どんな事件が待ち受けているのだろうか?何が謎なのか?中盤になってもわからない。そこがこのミステリーの面白いところ。 (以下、ネタバレ風) じつは、本書のストーリーは、5,6年前にNHK版の「七つの会議」を観て知っていた。原作とは主人公が変えてある。というか原作には、短編ごとに主人公がいても全体としては、くせ者ぞろいの群像劇スタイルなのではっきりしない。「東京建電」という企業が主人公といってもいい。しかし、最終的には、ある人物が主人公で、他のある人物が最大の悪者であると判明する。だからこそ、晴れ晴れとした120%の満足感は得られたが、犯罪小説に徹してみるのもよかったのかも。 その点だけが個人的にはマイナス要素だった。なおテレビ版では悪側で苦悩する主人公がよかった。 まもなく公開される映画版は、原作に近いのか、テレビ版に近いのか、それともさらにガラッと変えてあるのか。配役を見てある程度想像できたが・・・ 東京建電の親会社である企業の会社名がすごい。これは、映画ではもちろん、スポンサーのないNHKでも使わなかった。 この親会社の社長だけはまともかと思いきや、この人物も出来がよくない。内部告発の可能性を考えれば最後の判断はダメ。あんな状況だから判断も鈍るのか。 |
No.576 | 5点 | 騙し絵の牙- 塩田武士 | 2019/01/17 09:32 |
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俳優の大泉洋さんを当て書きした作品です。
表紙、裏表紙は大泉氏のカラー写真で構成され、章ごとにも白黒写真が挿入されている。 出版業界の内部が描いてある。 主人公の速水は、小説好きの雑誌編集長で、仕事はでき、社交術に長け、浮気もする、この業界ではありがちな(よくは知らないが)、スーパー編集長、スーパーサラリーマンである。 タイトルにときめき図書館で借りてしまったが、これがミステリーなのか? タイトルと表紙写真があまりにもアンマッチだったので、初めから不安ではあったが、そこだけがミステリーなのだろうとあきらめ気分で、期待せずに読んだ。 一気読みできるほど楽しい読書ではあった。 後半になって小さな事件が種々勃発するが、事件発生が遅すぎるし、その事件もミステリー的には些末すぎる。 やはり業界の裏話的な物語を楽しく読めただけ、という感じがする。 とはいえ、どんでん返し(らしきもの)はいちおうある!(かな?) こんな書き方をすれば、このサイトではまず読んでもらえない。 だから、抜群のリーダビリティで出版業界の内幕を鋭く描いた社会派ミステリー秀作ということにしておきます。 |