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霧の中の館
A・K・グリーン 出版月: 2014年01月 平均: 7.33点 書評数: 3件

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論創社
2014年01月

No.3 7点 蟷螂の斧 2019/11/07 18:07
1878年「リーヴェン・ワース事件」の発表により「探偵小説の母」といわれるアンナ・キャサリン・グリーン(1846~1935)の短篇集。
「深夜、ビーチャム通りにて」(1895)クリスマスイブ、夫人ひとり残された家に二人の不審者が登場。一捻りあるサスペンス。
「霧の中の館」(1905)霧に迷い訪れた家では遺産相続人が集まっていた。昔、あるところに・・・に通じるファンタジーと狂気。
「ハートデライト館の階段」(1894)富豪の溺死体が3体続けて発見される。その謎は?裏家業と島田荘司氏に通じる仕掛け。
「消え失せたページ13」(1986)書類紛失が意外な展開に。「探偵小説の父」ポーの「盗まれた手紙」「アッシャー家の崩壊」へのオマージュか?。
「バイオレット自身の事件」(1915)女性探偵誕生秘話。娘の肖像画を見る父の姿が感動的。
著者の特徴は一般的なミステリーとはニュアンスの違う展開にあるような気がします。

No.2 8点 おっさん 2014/07/01 08:34
論創海外ミステリの、作家・作品のセレクトには、もともと驚かされることが多かったのですが(叢書のスタート当初は、方向性の模索もあったのでしょうが)、ひと頃の粗製乱造を脱し刊行ペースがゆるやかになるにつれ、ある程度、想定内の(マイナー・クラシックの)“本格”中軸路線で落ち着くかと思われました。
ところが・・・今年2014年に入って、月2冊の刊行になってから、また妙なものがイロイロ出はじめたw
そのヴァラエティは、妙なたとえかもしれませんが、「探偵小説」の名のもと、海外のおもしろ小説(怪奇だったり冒険だったりユーモアものだったり)が満載されていた、往年の『新青年』増刊号あたりの目次を彷彿させるものがあります。
こんなの出して売れるのかいな? という余計なお世話と、これじゃあ読むのが追いつかないよ、という愚痴をひとまずおくとすれば――なんだかエンタメ小説の百貨店(死語?)のようで楽しい。
くれぐれも、拙速主義の復活はNGですよ。それが力を込めた一冊なら勿論、もしかりに刊行点数を維持するための一冊だったとしても、回復した叢書の信頼を無くさないよう、最後まで丁寧な本づくりを心がけて下さい、と、この場を借りて、編集部および関係者各位にお願いしておいてw

さて。
では、1月に刊行され、そんな新生(?)論創海外ミステリの口火を切ることになった、本書を見ていくことにしましょう。
長編探偵小説の揺籃期にベストセラーとなった、デビュー作『リーヴェンワース事件』(1878)ほぼ一作でミステリ史に名を残す――しかし活動期間は1920年代初頭にまでおよび、複数のシリーズ・キャラクターを駆使し多くの著作を残した――アメリカ女流 A・K・グリーンを、短編集で、しかも日本オリジナルの編集(波多野健 編)で紹介しようという、意欲あふれる一冊です。
収録作は、以下の通り。

 ①深夜、ビーチャム通りにて
 ②霧の中の館
 ③ハートデライト館の階段
 ④消え失せたページ13
 ⑤バイオレット自身の事件

うち①②がノン・シリーズ。③が、『リーヴェンワース事件』で主役をつとめた警官探偵グライスの、初手柄の回顧譚。④と⑤が、元祖ナンシー・ドルーともいうべき(いや、シリアスさからいったら元祖コーデリア・グレイか?)お嬢様探偵バイオレット・ストレンジものです。なんと、全編本邦初訳。

筆者は、じつは『リーヴェンワース事件』にあまり感心せず、これまでアンソロジーで読んだグリーンの短編も、とりたてて印象に残っていなかった人間なので、正直なところあまり期待もせず「でもまあ、あの“館もの”嫌いの mini さんが認めてるくらいだから・・・目は通しておくか」くらいの気持ちで手に取りました。
そして――巻頭の「深夜、ビーチャム通りにて」(雪の夜、ひとりで留守を守る新妻のもとへ、突然、侵入者が・・・というサスペンス・タッチのお話)の、急転直下のラストで、頭を一撃されたような衝撃を受けました。ヤ・ラ・レ・タ。グリーンの文章は、大仰で長ったらしくなりがちなのですが(そのメロドラマ調の文体が、当時の読者に受けた要因でもあるのでしょうが、残念ながら年代の刻印ともなっている)、これはキビキビ運ばれており、いや見なおしました。

続く、表題作(こちらは、霧深い夜、とある館に迷い込んだ旅人のお話。うさんくさい面々が集まりだして、弁護士立会いのもと、異様な遺言状が公開されていくのだが・・・)も、中編サイズの分量ですが、ダレがちな回想のフラッシュバックを、テンションの高い遺言状の内容に盛り込むことで、逆にサスペンスの維持に成功しています。解説で波多野氏も強調されていますが、ヒロインがシングル・マザーである点も印象深く(発表は――1905年ですよ!)凄惨なクライマックスを経たあと、ドラマは、すべてを浄化するような彼女のセリフで締めくくられます。
アイデア・ストーリーとしての①、グリーンの作家的技量をしめす②、これを最初に並べたのは、実にいいですね。

シリーズ・キャラクターものの③④あたりも、けっして悪い出来ではありません。
グライス刑事(ちなみに本文中のフル・ネーム表記はイベニーザ・グライス。解説だとエベニーザー・グライス。これは統一しましょうよ、波多野さん)の、殺人代行業者へのスリリングな囮捜査を描く「ハートデライト館の階段」は、推理の要素こそありませんが、なるほど面白い殺人のギミックが暴露されます。原書でミステリを読んでいた甲賀三郎は、あの「蜘蛛」(1930)を書くまえに、このお話を知っていたのかな? なんてことを、ふと思いました。ちょっと気になったのは、過去の事件での「青いリボン」のゆくえ。毎度毎度、うまく流されていってくれるとは思えないんですがw
「消え失せたページ13」は、タイトルに謳われた、密室から消えた紙片の謎解きは噴飯ものなんですが、そこからさらに“館”の秘密が暴き出されていくという、中編ならではのダイナミックな展開に見所があります。背景の男女のドラマ(その決着のつけかた)は・・・さすがに大時代か。でもフラッシュバックの盛り込みかたは、②同様に工夫され、グリーンがガボリオの単なる模倣者でないことを証明しています。あと、これは作品の出来とは何の関係もないことですが、作中、もっとも筆者の頭に焼きついたのは、出入りが困難な通路に挑む、探偵役バイオレットに関する以下の記述。

 (・・・)それはかくも小さな扉だった! 十一歳以上の子供は、おそらく無理矢理でも通り抜けることもできないだろう。さいわい、彼女は十一歳の体型だったので、おそらくその問題は何とかなりそうだ。

ロリかあ! バイオレット・ストレンジは、合法ロリなのかあwww
失礼しました <(_ _)>
⑤は、そんなバイオレットお嬢様が、なぜ(女性が働くことが決して当たり前と思われていなかった時代に)職業探偵をやっているか、その理由が明らかになる一編。この作品に関しては、じつはまったくミステリではないのですが、シリーズものの幕切れとして感動的で、余韻を残します。

作品配列に留意し編集された本書は、A・K・グリーンの入門書として最適のものでしょう。
編訳者の情熱に敬意を表し、採点は8点とします。
ただ、巻末解説は力作なんですが、邦訳データが不親切で、あのままでは、あげられた作品がどこで読めるのかが分からない。もし改稿の機会があるようなら、そこはきちんと記載しておくべきだと思います。
 

No.1 7点 mini 2014/02/04 10:00
世界初の女流作家の書いた長編ミステリー(現在では異論が有り他の候補作家・作品が存在する)「リーヴェンワース事件」だけで知られている感のアンナ・キャサリン・グリーンは、その歴史的意義から”探偵小説の父”であるポーに対して同じアメリカ作家として”探偵小説の母”の異名を持つ
従来は私もそうした歴史的意義だけの作家だと思い込んでいたが、長命だったので黄金時代まで書き続けるなど創作活動は長く当時はそれなりに人気作家だったらしい、この辺はポストホームズ時代から黄金時代まで書き続けた息の長い英国作家フィルポッツと似ている
グリーンは中短編にも定評が有り、数作がアンソロジーにも採られており、有名なところでは創元文庫の乱歩編『世界短編傑作集』第1巻収録の「医師とその妻と時計」は流石に私も既読だった
今回の論創社版ではこれまで未訳だった中短編の中から翻訳者でもある波多野健氏が選んだ傑作選である、A・K・グリーン入門の決定版と言えよう、論創社やるなぁ

何たってあのドイル「緋色の研究」に先立つ10年前のデビューだけに古色蒼然としているのは否めないが、今回選ばれたものは現在の新本格からの読者でも楽しめそうなものが中心で、グリーンへの先入観・偏見を払拭するものだ
グリーンの欠点としてメロドラマが勝っているとよく言われるが、勝っているのとメロドラマに流れているというのは意味が違う、たしかにメロドラマめいた要素も有るがそれで退屈はしなかった
いやむしろメロドラマとプロットが上手く融合しており、意外と謎解きプロットはしっかりしていてプロット派という感じすらする
絶版なので私は未読だが当サイトでのおっさんさんの「リーヴェンワース事件」の低めの評価の御書評を拝見するに、推測ですがグリーンは本質的には中短篇作家で、長編だと物語を膨らませるテクニックに欠けていたのかも知れない

中編2篇・短編3篇での構成で、「深夜、ビーチャム通り」での鮮やかなどんでん返し、「霧の中の館」での怪しげな館でのサスペンス、「ハートデライト館の階段」での潜入捜査のスリルと館ものらしいトリック、「消え失せたページ13」でのやはり館でのメロドラマと謎解きの一体感、「バイオレット自身の事件」の引き込まれる人間ドラマ、とそれぞれに味が有る
全5編中3作がいわゆる典型的な”館もの”なので、館ものが嫌いな私の好みには個人的には合わないのだが、館ものを好む今の読者には意外と合うかも

これはもうあれですね、”クイーンの定員”にも選ばれた中短編集「Masterpieces of Mystery」と作者を代表するシリーズ淑女探偵バイオレット・ストレンジものの短編集の2冊だけはどこかの出版社で出して欲しいものだ


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A・K・グリーン
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