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[ 社会派 ]
日本の悪霊
高橋和巳 出版月: 1980年10月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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新潮社
1980年10月

河出書房新社
1997年01月

河出書房新社
2017年06月

No.1 6点 クリスティ再読 2022/09/12 10:25
ドストエフスキーで「悪霊」をやったからには、その日本版(苦笑)。
高橋和巳で唯一本サイトで扱ってもギリギリセーフな作品がこれ。唯一の映画化作品でもある。一応裁判モノ。

鉄工所に侵入して無理に3000円を借りた男、村瀬狷輔が恐喝罪で逮捕された。取り調べをした刑事落合は、この事件の奇妙さにコダワリを持った...落合はかつて学徒動員されて特攻隊に入れられたが、出撃せずに帰還し「国家の掌返し」の苦渋を経て、復学もせず警察に奉職、出世を一切拒んでいる刑事だった。この村瀬は同じ大学の卒業生らしいが、卒業後の足取りが不明で8年後のこの事件で突如暗闇から現れたようでもある。この村瀬の過去には、武装闘争路線時代の革命政党の関わった資産家強盗殺人事件が尾を引いているようだ....裁判でも村瀬の過去が掘り返されるが、どれもこれも今更証明のしようもないものばかり。落合がこだわる本命の資産家強盗殺人は、調べれば調べるほど疑惑が立ち上っていく

この村瀬と落合のそれぞれの立場から、高橋和巳らしい観念的で自罰的なモノローグが続いていく。ドストエフスキーの「悪霊」が「革命の観念」に憑りつかれた人々が悪魔的なピョートルに利用されて、軽薄に時流に乗りたがることで嬉々として地獄に落ちていくさまを描いたわけだけども、高橋和巳だからもっとマジメで主観的。革命的詐欺師ピョートルや超人スタヴローギンに相当する鬼頭正信と黒岩仁も、いることにはいるが、存在感が希薄で捏ねてつくったような人物なのが作品的にはイタんだがなあ...

「革命がまず自分自身の「旧道徳」を超克することから初めて、そういう「自己否定」の結果として、「古き社会」を破壊する」という綱領をこの鬼頭は述べるのだけども、「革命が成功した時、われわれはどうなるんだ?」という問いに

消えゆくのみ。破壊をプロレタリアートにやらせ、次の指導権をインテリや組合のダラ幹に握らせるのではなく、破壊を自己がやり、建設は誇り高き人間の自由に委ねるのだ。ふたたび反動に逆もどりするのなら、させしめよ。

と答える。「行動に純化した過激主義」というものが、政治的立場の右も左もなくなって、「一殺多生」を呼号した右翼テロと現象的な違いがなくなってしまう。ここらへんの「自己否定」の様相がきわめて「日本的...」とも感じる。こんな「自己否定」は狭い仲間の中でも相互確認以外では維持不可能であり、一歩外に出たらすぐさまに雲散霧消するものだ、というのを薄々は皆感じていて、自身を否定の中に閉じ込めて抗らうしかないのである。

日常性の誘惑を彼等は無理にも遮断せねばらならなかった。現状の破壊と破壊の上の創造を欲するものの精神的喪服の上に、彼らは、殺害者としての日常からの逸脱をむりにでも自己確認する必要があった。

とまあ、狭いサークルの中でも相互確認が暴走して過激な方向に逸走していくのが、連合赤軍でも繰り返されたわけだけども、こういう「自己確認」としての過激主義が、8年間の潜行地下生活の悲惨の末に、もはや「自己確認」の役にも立たないことを突き付けられることになる...というのが、この作品の結末。

1966年に出版されたことを考慮するなら、70年代の連赤やら東アジアやら結構予見したような内容でもある。高橋和巳って「挫折好き」「堕落好き」だからねえ....そういう「思想の悲惨」の方にずっと目が向いていて、上ずった観念的過激主義に共感しつつも、しかしそれが辿るであろう末路を重々承知して、その上で「思想」というものの価値、人間の矜持を「どうか?」を問うている。

映画はね~黒木和雄のATG時代。村瀬と落合が一人二役で佐藤慶。佐藤慶が絶頂にカッコイイ頃で堪能できる。村瀬は堕落してすでにヤクザになっていて、それぞれ抗争に応援に来た刑事とヤクザとが間違えて入れ替わる話になっている。だから原作からはキャラ設定を借りたくらいで別物。「監督が歌え、っていったから歌います~」って岡林信康が「がぁいこつが~」とか「私たちの~望むものは~」とかギター抱えて突然歌いだす映画。最後は二人の佐藤慶がスプリット画面で並んで幼稚園に殴り込み! とってもヘンテコで珍品好きにはたまらない。


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高橋和巳
1980年10月
日本の悪霊
平均:6.00 / 書評数:1
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