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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ]
ノーサンガー・アビー
ジェーン・オースティン 出版月: 1997年10月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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キネマ旬報社
1997年10月

筑摩書房
2009年09月

No.2 7点 おっさん 2019/10/14 14:07
A「おっさんが文学づいて、オースティンに手を出したって聞いたんだけど、ホントかい?」
B「大げさだなあ。そりゃあ、読書傾向がミステリに偏っているのは認めるよ。でも、イギリス・ミステリに親しむ者の嗜みとして、オースティンやディケンズなら、過去に多少は、かじってきたさ。今回は、たまたま「ミステリの祭典」への作品登録に刺激されて、老後の楽しみにとっておいた『ノーサンガー・アビー』に、目を通す気になっただけで」
A「ゴシック・ロマンスのパロディ、だっけ? (用意のメモを取り出して)発表はオースティン没後の1817年だけど、執筆されたのは1798年か。いずれにせよ、ポオの「モルグ街の殺人」の1841年より、早い早い(苦笑)。なんでもかんでもミステリ扱いするのは、どうなんだろう」
B「18世紀末に流行したゴシック・ロマンスを、ミステリの源流とする見方があるわけで、そのパターンを踏まえたうえで、愛情をもって揶揄した『ノーサンガー・アビー』――田舎育ちの平凡な女の子が町へ出て社交デビューするけど、ゴシック・ロマンスの読みすぎがもとで迷走していく話――には、いってみれば、元祖ユーモア・ミステリの趣きがあるんだ。ロナルド・ノックスの『陸橋殺人事件』なんかにつながる流れだね。昔読んだ、同じ作者の『エマ』や『高慢と偏見』の、円熟した印象にくらべたら、どうしたって若書きの習作感は否めないけど、そのぶんここには、かけがえのない“新人の輝き”がある。読めて良かったし、作品を登録してくれた弾十六さんには、感謝しているよ」
A「サイトに、書評も投稿されてたね」
B「弾さんのあの書評は、ちょっと脱線気味だけど(笑)。でも作品のポイントは、きちんと押さえられていて、とりわけ『立派な謎が登場して最後までとても楽しめました』というくだりには、膝を打った」
A「(準備のメモで作品の粗筋を確認しながら)お話は後半、舞台を温泉行楽地のバースから、ヒロインが招待された由緒あるカントリーハウス「ノーサンガー・アビー」に移す、と。そこで何か、一見、超自然現象みたいな謎が提示されるのかな?」
B「まあ、そのへんは読んでみてのお楽しみ、なんだけど……率直にいって、「解明される超自然」みたいなタイプの謎物語を期待すると、裏切られる。俺が感心したのは、もっと別な“謎”でね。表面的なゴシック・パロディが一段落したあとで、終盤、ヒロインはある“迫害”を受けるんだ。それはいったい何故? という部分」
A「おお、まさかのホワイダニット!?」
B「“真相”自体は、作者が最後に地の文で種明かしするわけで、弾さんが『最後がとても慌ただしい』と書かれているのは、ホント、その通り。だけど、照応する伏線が、前半のバースでの社交場面のなかに、きちんと埋め込まれているあたり、その構成力は充分、ミステリ・ファンにも訴求すると思う」
A「わかった、わかった。気になる本として『ノーサンガー・アビー』のタイトルは、頭にとどめておくよ」
B「先行する訳書のことは分からないけど、中野康司訳のちくま文庫版は、きわめて読みやすい。古めかしいはずの、作者の視点による注釈も、弾さん曰く『ぶっちゃけた語り口』で気にならないし、文学とか意識せずに、昔のイギリスを舞台にした新作のラブコメを読むような気分で、楽しめるはずだ。それだけに――」
A「ん?」
B「「ミステリの祭典」で、作者名がジェーン・オースティンで登録されてるのが、ちょっと残念。どうせなら、ファースト・ネームの Jane は、ちくま文庫版の「ジェイン」を採用してほしかったなあ」
A「どっちでもいいよ(笑)」

No.1 7点 弾十六 2019/09/08 09:21
1818年出版。ちくま文庫で読了。翻訳は実に軽妙。セリフの処理や訳注の入れ方にセンスの良さを感じます。
ゴシック小説を読む娘たちというメタ小説なので、ゴシック小説はオトラント城(1764)しか読んでない私としては、最低でもラドクリフ夫人のユドルフォ(1794)を読まなきゃ、というわけで一旦中断。
17歳の娘さんの起伏に富んだ社交デビューの話。からかい気味の(でも嫌味のない)地の文が心地よい。当時の温泉行楽地バースの状況と社交生活が生き生きと描かれています。そして「小説ばんざい」という作者の(憤慨を込めた)強烈な自負。訳文のテンポが良いせい?それともジェーン オースティンって、いつもこんなに素晴らしいの?しばらくオースティン漬けになりそうです。(まあその前に『ユドルフォ』読まなくちゃ。英語のラドクリフ全集を手に入れましたが、無駄に長い!読めるかなぁ…)
(以上2019-9-2記載)

The Mysteries of Udolpho、普通の段組で1000ページ近いボリューム、(多分日本語訳の文庫だと軽く三倍のページ数。)ちょっとズルしてWeb等で内容紹介を見たらかなりうねうね進む物語らしい。冒頭付近の数パラグラフを読んだだけであっさり白旗を上げました。でもコールリッジだかウォルター スコットだかが評したらしい「好奇心が貪欲に読者を次は?次は?と誘う」ってのはまさにミステリ。そして結末には次々と起こった怪奇現象に対する合理的な種明かしがあるらしい… 説明無用の怪奇小説から合理的なミステリへの初期形態ですね。(タイトルにmysteryと銘打ったのもこの作が最初?なおこの部分はブログ『英国アート生活』の「ラドクリフ夫人『The Mysteries of Udolpho』」とヴァーマ『ゴシックの炎』(立ち読み)を参考にしました。)
だいたいユドルフォを把握したので、ここらでノーサンガー アビーに戻ります。
出版経緯がちょっと複雑で、書いたのが1799年頃(当初のタイトルは『Susan』)出版社に売れたけどなかなか出版されず、業を煮やした兄が出版社から買い戻し(1816)、別の作者によって同タイトルの小説が先に発表(1809)されちゃってたので、主人公の名をキャサリンに変え、すぐ出版するはずが、結局、作者の死後(41歳の早すぎる死だったとは…)に出版となった。現在の題は兄によるもの。スーザンの方が地味めな印象なのでこの主人公に合ってる気がする。(気のせいです。)
12章まで読みましたが(40%程度)ハラハラドキドキの塩梅が良くて、とても楽しい。
(2019-9-4記載)

立派な謎が登場して最後までとても楽しめました。当時の日常生活の息吹が感じられます。次の作品Sense and Sensibilityの冒頭を立ち読みしましたが、この小説のぶっちゃけた語り口は後ろに引っ込んでる感じでちょっと残念。
そーいえば、ディクスン カーは「ジェーン オースティンとジョージ エリオットの作品は全部大嫌い!」と宣言してますね。(『曲った蝶番』) きっと、この小説は読んでないと思います。オースティン食わず嫌いな人で、英国が好きで、謎が好きな人に自信を持ってお勧めします。
以下トリビア。
現在価値は英国消費者物価指数基準(1799/2019)113.27倍で換算。1ポンド=14703円です。
p18 たった10ギニー: 約1ポンド(1 guinea=21/20 pound)。10ギニーは15万4千円。数日間の旅行代にしては「たった」という事か。先に挙げられた百ポンドとの対比か。
p33 1ヤードたったの9シリング: 6616円。生地はモスリン。
p45 小説: 若い娘さんたちが読んでる小説のリスト。セシーリア(1782)、カミラ(1796)、ベリンダ(1801)、ユードルフォの謎(1794)、イタリア人(1797)、ヴォルフェンバッハ城(1793)、クレアモント(1798)、謎の警告(1796)、黒い森の魔術師(1794)、真夜中の鐘(1798)、ライン河の孤児(1798)、恐ろしき謎(1796) 今クリスティ自伝を読んでますが、アガサさんもなぜ子供は怖い話を喜ぶのか不思議がっています。
p60 五十ギニー: 77万円。ギグ馬車(新品同様)の値段。順当な値。
p64 小説なんて読みません: トム ジョーンズ(1749)、修道士(1796)以外は馬鹿な小説という意見が語られる。
p75 ミス ソープ(苗字): 長女なのでこう呼ばれる、との訳注。Missとは家族の中で最年長の未婚女性の称号なのか。
p77 同じ相手と二回踊る: 舞踏会のルール。さらに続けて踊ると特別な関係を噂されるらしい。
p109 たったの四十ギニー: 62万円。道路用としての馬一頭。
p158 親戚でもない若い男性とのドライブ: ぼんやり夫婦にとっても「未婚女性には不面目な行為」
p161 nice: 正しい意味のミニ講座あり。現代の「かわいい」と同じかな。nice nice very niceって何だっけ?(ググったらVonnegutのCat’s Cradle(1963)でした… 変なことを覚えてるもんですね。)
p169 殺人事件か何かが起こるのね: そーゆー小説をお嬢様方はお好み。
p188 一度結婚式に出たら、また出たくなる(the old song ‘Going to One Wedding Brings on Another’): 昔の歌。CD “Jane Austen Songs”(Patricia Wright, PEARL 1989)にあるかな?と思ったらありませんでした。Webでも該当なし。

(2019-9-14追記)
オースティンの続く作品を全然読んでないので、これから書くことは全く的はずれかもしれません。でも思いついたので一応書いておきます。最後がとても慌ただしいのが、読了後、ずっと気になってました。でも、あっそうか、これ私の本当に書きたいことじゃない、と作者が途中で気づいちゃったのだな、と閃いたのです。熱量が中盤以降若干落ちてるのはそのせいなのでしょう。そして見つけた「書きたいもの」が次作以降の作品群だった… とまたまた妄想してしまいました。やっぱりSenseを読みたくなってきました…


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1997年10月
ノーサンガー・アビー
平均:7.00 / 書評数:2