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大坂圭吉研究 昭和51年8月 第3号
杉浦俊彦個人誌
伝記・評伝 出版月: 不明 平均: 8.00点 書評数: 1件

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No.1 8点 クリスティ再読 2019/01/31 22:01
大昔の話だけど、評者杉浦俊彦先生に可愛がられてね、お宅に遊びにいったときに、この冊子を頂いたんだよ。まあ評者が「とむらい機関車」「銀座幽霊」で「大坂圭吉」って書いたのは、杉浦先生に対する評者の感傷みたいなものだから、他意はない。
杉浦先生という人は別にミステリマニアじゃなくて、学校の先生らしく「郷土作家研究」みたいな格好で、大坂圭吉のご実家にある一次資料を整理して、実証的に執筆の経緯を追っているものである。この第3号は「中編探偵小説『坑鬼』 雑誌『改造』への掲載をめぐって」という特集だ。評者的にはまさにタイムリー。
「坑鬼」を読んでいて一番?なのは、この海底炭鉱のリアリティをどうやって取材したのか?ということなんだけど、この「大坂圭吉研究」では結婚した妻の父が、小樽近辺の炭坑の技師だったことを教えてくれる。執筆前年の新婚旅行でほぼ1ヶ月北海道に滞在していたらしい。取材とか炭坑の裏話とか、いろいろ仕入れたんだろうなあ。
であとこの小説の初出である戦前を代表する硬派雑誌の「改造」からの執筆依頼の経緯が綴られる。実際戦前の「改造」だからね、ステータスがあるわけで、新進作家だった大坂圭吉起用が名誉でもあり意外とも捉えられたようだ。これには担当編集者の佐藤績がミステリファンで、これまでも「改造」に探偵小説を読み物で掲載はしたのだけど、

それで、この度も、私の方の本当の腹を申上げますと、新青年に御書きになってゐられる短編位、いやそれ以上に複雑した探偵小説的構成を持ったものを頂戴し度かったのです。編輯部一同の気持ちを率直に申上げますと、「これが本格探偵小説だ」といふことを一度読者に示してみたいと希望してゐるので御座います。
乱歩氏、大下氏、などにはさういふことを言っても、作品から考へても一寸難しさうですし、結局それを貴方に御願い申上げ度いのです。

と「本格」の代名詞みたいな評価を受けていたことが、わかる。なので周囲の注目もかなりあったようで、原稿受領から掲載時期が少し遅れたことから、井上良夫や小栗虫太郎も成り行きを気にして手紙を送っているのが載っている。

と、こういう地道な一次資料まとめがこの「大坂圭吉研究」である。これは自費出版なのだが、古本屋でも引き合いがあるところもあるようだ。評者は「大坂圭吉研究」はこれだけしか頂かなかったが、高校の紀要の抜刷の「大坂圭吉と『辻小説集』」は手元にある。こっちは戦争末期の文学報国会の企画で「原稿用紙1枚」の小説・文章を文学報国会の会員作家から集めて出版した、戦意高揚の掌編の紹介なので、ミステリとは無関係。残念。