原始少年さんの登録情報 | |
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平均点:4.00点 | 書評数:1件 |
No.1 | 4点 | その女アレックス ピエール・ルメートル |
(2015/04/30 17:38登録) 誘拐されたアレックスの心理と、ユニークな刑事三人組を中心とした捜査が交互に語られる第一部、意外な展開を見せる第二部、取り調べでの神経戦が見ものの第三部と、楽しめる内容だった。特に、 第一部でのアレックスのネズミとの睨み合いによる恐怖描写が印象的。物語の進行とともに、アレックスに対する見方が二転三転し、面白いと感じた。 しかし、真相を知った時、この物語は完全に破綻していることを知った。第三部は有りえない真相に基づく蛇足にすぎない。 なお、この作品には伏線らしきものは全くない。真相につながる事実はすべて後出しだし、あるのは、読者をインチキな記述で惑わす逆伏線のみ。 (ネタバレ注意) 実を言うと、最後まで読み終えた時、アレックスの死亡原因が「兄による他殺」なのか、「自殺」なのかがよくわからなかった。 第二部49を読み返し、「兄による他殺に見せ掛けた自殺」だということがわかった。そうだとすると、相当無理、無茶苦茶な設定と言わざるをえない。第三部での取り調べ、冤罪による誤認逮捕という意外な結末につなげたいがためのご都合主義にすぎない。 これだけ残忍な復讐劇を繰り広げてきたアレックスが最も憎み、残忍な方法で殺害すべき人物は兄、その人に他ならない。その人だけを自ら手を下さずに、警察が取り上げるかどうかもわからない不確実な証拠をねつ造した上で、警察による逮捕、司法の裁きの可能性に委ねるということは全くありえないこと。警察が自殺として処理する可能性の方が圧倒的に高いし、警察がアレックスの意図を読み取ってしまう可能性もあるし、裁判で証拠不十分で無罪となる可能性も高いし、何らかのアクシデントで兄にアリバイができる可能性すらある。こんな低い可能性に賭けるわけがない。 |