水底の妖 ディー判事 別題『中国湖水殺人事件』 |
---|
作家 | ロバート・ファン・ヒューリック |
---|---|
出版日 | 1989年09月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 5点 | mini | |
(2010/07/07 10:40登録) 夏の湖上で町の有力者から舟遊びの宴会に招待された狄(ディー)判事だが、余興で舞った芸妓が船から落ちて溺死する この湖では溺死者は湖底に沈んで浮かばない伝説があった 同船した容疑者宅の密室で花嫁が死んで花婿は密室から消え失せ、さらに遺体が別の死体と入れ替わり、格子戸の窓から覗く幽霊の姿 前期5部作の一つ「水底の妖」は、序盤からこれでもかと怪奇趣味濃厚で、読んだシリーズの中では最も怪奇色が強い 今回の舞台となる判事の2番目の任地は山間の湖の辺にあり、都からも比較的近くて馬を飛ばせば一昼夜で行ける距離に在る 今の日本で言うなら信州諏訪湖畔の茅野市みたいな所か 唐代の都市は律令制度の理念で作られ周囲を城壁で囲まれている場合が多いが、この町は城壁の無いオープンな構造をしているのが珍しく、シリーズでの判事の任地の中では異色だ 残念ながら怪奇性は前半までで、後半では大規模な陰謀が暴かれるのだが、やや風呂敷を広げ過ぎた感じもあって事件性が大味になってしまい、結末も些か話を纏めきれず尻つぼみだ また前期作の特徴でもある3つの事件が絡むのではあるが、今回は3つの事件の容疑者達が共通しているなど、最初からいかにも関係がありそうで胡散臭い つまり最初からあまりに関連が疑わしいので、意外性という意味で一見関係無さそうな3つの事件が後半に結び付いてくるような興趣には乏しい 未読の「釘」を除く、読んだ前期5部作の中では最も劣る ただ全体に副官の活躍が目覚しいのが救いで、この作で風車の弥七的存在の陶侃(タオガン)が初お目見えする この作単体なら水準作以上なんだろうけど、前期5部作だからどうしても傑作「黄金」「迷路」と比べちゃうからなぁ 題名も不満で、和邇桃子さんの付ける訳題は他の作も首傾げるのが多いが、今作も原題に”Lake”が入ってるんだから、例えば”湖底の妖”みたいに”湖”という単語を入れなきゃ駄目でしょ |