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ミステリの祭典

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最後の祈り

作家 薬丸岳
出版日2023年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 麝香福郎
(2025/04/23 21:38登録)
刑務所で受刑者の精神的救済のために教誨を行っている牧師の保坂宗佑のもとに、北川由亜が暴漢に殺害されたとの連絡が入る。犯人の石原は、由亜と彼女のおなかの子供を含め四人を殺害。しかし罪の意識もなく、「人を殺して楽しめないならどうだっていい」と、死刑判決を受け入れる。
虚しさを抱く保坂に、由亜の叔母にあたる女性は石原に教誨を行うように頼む。彼女曰く「もっと生きたいと思わせ上で、死ぬ直前に地獄に叩き落す言葉を突き刺して欲しい」。つまり希望を持たせたうえで絶望させるという、復讐のためだ。
信仰を復讐に利用していいのか心を揺らす保坂のほかに、反省のないままに刑務所で過ごす石原や、さらには教誨に立ち会う若い刑務官・小泉の視点も絡む。特に刑務官の苦悩は、胸に迫るものがある。
人は憎い相手を赦せるのか、そんな苦いテーマと同時に浮かび上がるのは、無差別殺人の犯人は本当に冷血なのか、またそんな人間に生への希望や命の重さを認識させられるとしたら、それは何をもたらすのか、という問い掛けだ。
保坂、石原、小泉それぞれの「最後の祈り」とは何か。痛切な物語ではあるが、最後には人間を信じたいという気持ちを抱かせる。

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