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ミステリの祭典

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ZONE 豊洲署刑事 岩倉梓
改題『ZONE 豊洲署生活安全課 岩倉梓』

作家 福田和代
出版日2012年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 麝香福郎
(2025/04/01 21:16登録)
豊洲署の生活安全課刑事・岩倉梓が手掛ける事案は、どれも事件以前の事件とでもいうべきものだ。「月へ帰る」と言い残し、幼い子供を置き去りにした母親。孤独死した偽名の男と孤独に付け込む犯罪の影。幼稚園に届いた脅迫状に隠された母親たちの確執。ストーカー被害に秘められた思惑。震災被災者を騙った詐欺事件の根っこにある哀しい歪み。ここには捜査一課の刑事が扱うような凶悪な事件は一切出てこない。しかし、本作にはスリリングな展開とは別の種類の読み応えがある。
急激に変貌する地域という特殊な空間を定点観測し、人の暮らしの中に生じる明暗を様々に切り取りながら、そこに寄り添う、あるべき警察官像を主人公の成長とともに示していく。犯罪を未然に防ぐ努力と起きてしまった犯罪を捜査することは、刑事にできることは限られている。だが、人と街のためにできることは、それが限界ではないはず。そう自らを奮い立たせる姿は、凄惨な事件に命懸けで挑む刑事にも負けない矜持を感じさせ、胸を熱くする。

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