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ミステリの祭典

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東京ホロウアウト

作家 福田和代
出版日2020年03月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 麝香福郎
(2023/09/01 20:44登録)
オリンピック開催を目前にした七月上旬。宅配便トラックに積まれた荷物から青酸ガスが発生した事件を皮切りに、犯人からの予告通りのテロが続く。人為的な土砂崩れによる東北本線の不通。常磐自動車道のトンネル内でのトラック火災。それ以前に日本を襲っていた台風の被害もあいまって、東京への物流が滞っていく。
流通を人質にしたテロというテーマが興味深い。スーパーなどの店頭に当たり前のように並んでいる食料品などの日用品。だがそれは、さまざまな職に従事する人々の働きによってもたされている。
東京の孤島化を目指す犯人の思惑は、概ね成功する。だがそれに対抗するのがトラックドライバーたちだ。物だけではなく信頼を運んでいるというプライドを懸け、物の流れを取り戻すため工夫と戦いを始めるのだ。物流に関わる者たちの矜持とともに、現代社会の歪みに対する警告が浮かび上がるのが読みどころ。反面、そちらに筆が割かれたためかテログループが成り立つ過程の説明や、いくつかのテロのディテールが不足しているなど、やや物足りない点があったのは残念だった。

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